第140回 虹はつかめない。でも下を向いたら見失う。
5月、2つの自治体におじゃましました。いずれも「パラスポーツをなんとかしたい」というご相談。それぞれの理念の下、パラスポーツの分野にも注力したいとのことでした。東京パラリンピックが終わり、すっかりパラスポーツから遠のいた自治体も多い中、とても嬉しく思います。
現場に行きました。少子化、過疎化により廃校となった校舎。老朽化し、改装も含めて活用法を模索している体育館があります。いわゆる公民館の役割を終えてしまった施設なども。どれも見学するとわくわくしてきます。担当者の方もきらきらした目で、「活用したいんです!」と力が入っている。その言葉を聞いて、私も力が入ります。
「遊休施設を有効活用したパラスポーツの普及活動」
「パラアスリートの強化拠点」
「障がいのある人のスポーツ推進」
「パラスポーツを活用して共生社会実現」
それぞれの地域の理念のもと、様々な視点でお取組みを検討しています。
例えば、「現存の施設を活用し、パラアスリートの強化拠点にし、また地域の障がいのある人がスポーツを楽しめる場にもする」。どちらも大切なことですが、まったく性質が異なります。
また他の地域では「障がいのある人とない人の共生を目指すため、両者が合同で参加するボッチャ大会を開催」との計画があります。
もちろん、パラスポーツを共生社会へのアプローチの手段として活用するのは大賛成です。
しかし、ボッチャ大会を開催したら突然共生社会が実現するのか。NOです。大会を開催する中に、共生社会への糸口をどのように内在させておくのか。そしてそこからどのような行動変容へとつなげるのか。
理念を掲げたうえで、現在の政策、課題、環境などから、精査してパラスポーツを活用しないともったいない、と感じた次第です。
どこで耳にしたか失念してしまいましたが、胸に残る言葉があります。「理念や理想は虹。最も大切。しかし虹はどんなにがんばってもつかめない。でも、下を向いていては見えなくなってしまう」。私も虹をしっかりと見つめながら、現実的な策を講じる――。みなさんと一緒に虹という共生社会に向かっていきたいと強く思った次第です。
<伊藤数子(いとう・かずこ)プロフィール>