二宮清純: 昨年夏に開催された東京パラリンピックや、障がい者雇用の法定雇用率引き上げなどで、障がいのある人を取り巻く環境は少しずつ変わってきています。これらを契機にハード面の整備が進んでいけばいいと思いますが、どうお考えですか?

深澤旬子: 私たちは、まだ世の中でまちのバリアフリー環境が整っていない頃から、いろいろと調査し対応してきました。今、実感としてだいぶ良くなってきたという印象です。たとえば、まちで車いすを使い、通勤や買い物に行く方を見かけることは以前に比べ、珍しくなくなりました。その意味で、ハードとソフト両面においてだいぶ改善されてきているのではないでしょうか。

 

二宮: 調査とは、具体的にどのようなことを?

深澤: 例えば段差があり、階段だけのところはないか、エスカレーターやエレベーターが設置されていても、使い勝手はどうか。そうしたことを調査します。弊社に在籍する障がいのある社員がチェックさせていただき、評価を行います。自治体からの依頼は、バリアフリー環境の調査以外にもあります。委託を受けた自治体内の企業に対し、障がい者雇用についてノウハウをお伝えすることです。そうした活動により、障がい者雇用が促進されてきていると感じています。

 

伊藤数子: 「雇いたい気持ちはあるけど、どうしたらいいかわからない」という企業はまだ多いと聞きます。

深澤: そういう企業には私たちとしてもできる限り、力になりたいと思っています。過去にお手伝いした企業が何社も、東京都から障がい者雇用の「エクセレントカンパニー」として表彰されたことは誇りです。これまで企業を訪問して研修を実施してきましたが、最近は新型コロナウイルスの影響により、対面ではなくWEBでの実施も多くなりました。それにより都内の企業に限らず、北海道や九州など地方の企業もサポートできるようになりました。

 

二宮: いわゆる障がい者雇用のコンサルティング事業ということですね。

深澤: はい。それと私たちが大事にしているのは、障がい者雇用を支援した会社に継続的に関わっていくこと。当社からの紹介で障がいのある人が入社した後も、その企業の人事担当者の相談に乗り、コンサルティングを提供する。企業に人材を紹介して完結するのではなく、企業の人事担当と一緒に、障がいのある社員が長く活躍できるようなお手伝いをさせていただいています。これが私たちの事業における柱のひとつになっています。

 

 社員やスタッフは“家族”

 

伊藤: 御社が取り組んでいる障がい者雇用の一つに「ゆめファーム」があります。こちらも御社が大事にしている“人を活かす”という思いに溢れていますね。

深澤: オフィス業務が難しい重い障がいのある社員が、専門家のサポートの下、“農業のプロ”を目指しています。現在は千葉県流山市と柏市、埼玉県草加市、兵庫県の淡路島の畑で行っています。農作業をしながら、土に触れることによって精神的に落ち着くというケースもあります。

 

二宮: 障がいのある人が農作業を通し、いろいろと触発されることもあるんでしょうね。

深澤: おっしゃる通りです。私たちが「ゆめファーム」を始めた頃は、同じような事業を進めている企業はあまり多くなかったのですが、ここ10年ぐらいでだいぶ増えてきました。社員には農業に限らず、働く喜びを感じて欲しい。社員たちとの活躍に寄り添い、共に歩みながら、それぞれの将来を一緒に考えていく。そういうパートナーになれたらいいと思っています。

 

二宮: “パートナーとして一緒に歩んでいきましょう”という姿勢ですね。

深澤: その通りです。今年はさらに障がいのある方たちが働く喜び、スキルアップの可能性をもっと掴んでいただくため、社内外で“ワークライフファシリテーター”という専門のカウンセラーの育成を進めています。これは、社員一人ひとりのキャリアの面だけでなく、ライフの面、すなわち人生についてカウンセリングし、手助けする専門職です。この取り組みも今後、当社でさらに実績を上げていくことで、他の企業にも広がっていくことを期待しています。

 

伊藤: まさに何もないところからやってみて、トライ&エラーを繰り返してきた。その試行錯誤で得たノウハウを惜しみなく社外にも発信し、社会の課題解決に繋げていくということですね。

深澤: すごくきれいにまとめていただいて、うれしいです。

 

伊藤: いえいえ。社長のバイタリティはもちろんですが、人事の仕事をされてきたことが、とても活かされているのかなと感じます。また今回御社にお邪魔して、とても温かみを感じました。

深澤: ありがとうございます。私たちにとって社員は家族です。当社を通じて働くエキスパートスタッフ(派遣社員)さんも家族。障がいの有無はもちろん、年齢・性別・国籍、役職や立場などによって差別、区別はしません。家族と一緒に成長し、社会に少しでも貢献できる会社でありたいと思っています。

 

(おわり)

>>「挑戦者たち」のサイトはこちら

 

深澤旬子(ふかさわ・じゅんこ)プロフィール>
株式会社パソナハートフル代表取締役社長、株式会社パソナグループ取締役副社長執行役員Pasona Way 本部長兼社会貢献室担当。三井東圧化学株式会社(現・三井化学株式会
社)、株式会社電通を経て、1981年、株式会社テンポラリーセンター(現・株式会社パソナ)入社。1989年、障がい者の雇用促進を企業内ベンチャーとして提案。特例子会社パソナハートフルを設立し、代表取締役社長に就任。2007年株式会社パソナグループ設立と同時に人事部・広報室・企画制作室・社会貢献室担当取締役専務執行役員に就任。2018年より現職。他、株式会社ベネフィット・ワン取締役会長を務めている。

 

>>パソナハートフルHP

>>パソナグループHP


◎バックナンバーはこちらから