サッカーの歴史は、クラブチームから動き出す。

 

 世界を驚かせた74年W杯のクライフとオランダは、60年代後半のアヤックスから始まった。南米のアウトサイダーだったコロンビアを見る目が一変したのは、80年代後半のナシオナル・メデジンのリベルタドーレス杯優勝がきっかけだった。レアルとバルサが欧州CLでコンスタントに結果を残すようになったことが、どれほどスペイン人に自信を持たせたことか。

 

 だから、まず代表が結果を残し、国内リーグが引っ張られる形で発展してきた日本のケースは、極めて稀だと言っていい。WBCや五輪といった国際大会を重視しつつ、よくも悪くもその結果がペナントレースの浮沈には直結しないプロ野球と比較しても、その異質さは際立っている。

 

 だが、ここで言いたいのは日本の異質性ではない。

 

 ACLに出場している川崎F、横浜、浦和、神戸の4チームがまずまずの戦いぶりを見せている。このままいけば、4チームすべてが決勝ラウンドに進出することも十分にありうる。

 

 だが、Jリーグの堅調ぶり以上にわたしが気になるのは、東南アジア勢の奮闘である。

 

 ほんの10年前、プレーオフを勝ち抜いて本戦に出場してくる東南アジアのチームは、Jリーグのチームにとって“安パイ”でしかなかった。中国にとっても、韓国にとっても、オーストラリアにとっても、東南アジア勢との対戦で重視されるのは「勝てるか否か」ではなく「何点奪えるか」だった。

 

 そんな概念に、大きなヒビが入りつつある。

 

 F組では、シンガポールのライオン・シティが韓国の大邱、中国の山東から勝利を奪い、4試合が終わった時点で浦和と同じ勝ち点7を獲得している。

 

 G組ではタイのパトゥンがオーストラリアのメルボルンFC、韓国の全南などを抑え、グループ首位を快走している。

 

 H組では、横浜が苦杯を喫した韓国の全北を相手に、ベトナムのホアンアイン・ザライが堂々の引き分けを演じた。現時点で横浜がグループ首位でいられるのは、彼らのおかげ、といってもいい。

 

 I組の川崎Fには力の差を見せつけられたマレーシアのジョホールDTも、韓国の蔚山には2-1で競り勝ち、勝ち点1差の2位(第4節終了時点)につけている。

 

 一時隆盛を誇った中国勢が見る影もないほど落ちぶれた一方で、強豪国にとっての草刈り場でしかなかった東南アジア勢は、もはや完全に決勝トーナメント進出を争うライバルとなった。もちろん、まだJのチームと真っ向勝負をすれば力負けする部分も多いが、彼らの側に立ってみれば、アジアのトップクラスを射程圏内に捉えたという実感はるのではないか。

 

 2年に1度行われる東南アジア選手権、通称スズキカップの人気と熱気を見れば、この地域の国々が互いを強く意識し、影響を与え合っていることがわかる。日本の成長は必ずしも中国の発展につながらなかったが、東南アジア勢の場合、どこかが台頭すれば必ず追いかける動きが出てくるはずだ。

 

 個人的な感覚でいうと、クラブ・レベルでの結果は5年後ぐらいに代表につながってくる、という印象がある。次回のW杯予選、アジアの勢力図は大きく塗り替えられることになるかもしれない。

 

<この原稿は22年4月28日付「スポーツニッポン」に掲載されています>


◎バックナンバーはこちらから