小池真理子(TOKYO DIME)が生まれた愛媛県西宇和郡伊方町は、四国最西端に位置し、瀬戸内海と宇和海に挟まれている。年間平均気温16℃と温暖な気候。海と山に囲まれ、自然溢れるまちで彼女は育った。本人曰く、身体を動かすことが好きで、活発な少女だったという。

 

「かなり活発でしたね。実家がみかん農家をやっていたので、学校が休みの日は手伝っていました。幼少期の頃は親が摘んだみかんを空のカゴに入れ、コンテナまで運んでいました。そこで基礎体力が養われたと思います。足場が悪いところで重たい物を持って歩くというトレーニングを自然とやっていたんでしょうね」

 幼少期から走るのは得意ではなかったが、ボール投げや走り高跳びなどに長けていたのはカゴを運ぶことによって培われた腕力、足腰に依るものだろう。

 

 そんな彼女がバスケットボールを始めたのは小学4年時だ。地元のスポーツ少年団に男子はソフトボール、女子はミニバスしかなかった。身体を動かすことが好きだった小池がミニバスを選ぶのは、ある種、必然だったのかもしれない。ミニバスに集中するために、それまで習っていた日本舞踊、書道、ピアノ、そろばん、水泳は辞めた。

 

 小池には小中高同じ学校に通った2歳上の兄がいる。小学生時は地元のスポーツ少年団でソフトボール、中学生になってからは野球をやっていた兄を彼女はどう見ていたのか。

「小学生の頃、兄が先にソフトボールを始め、2年遅れて私がミニバスを始めました。兄妹でありながらスポーツマンとして“兄に負けたくない”と、一方的にライバル視していた。家で食事をする時、兄の方がご飯の量が多かったら、『兄ちゃんばっかりズルいー!』と母に文句を言っていた思い出があります。こんな調子でいつも喧嘩ばかりしていたので、兄からしたら全然可愛くない妹だったと思いますよ」

 

 母・友子からも当時のエピソードを聞いた。

「みかんの収穫を子供たちが手伝ってくれた時、兄が5段積み上げたら、“自分も同じくらい積まなければ気が済まない”という感じでした」

 2歳上のライバルの存在が、負けず嫌いの小池の成長を後押ししたはずだ。伊方小ミニバスでは、主力として活躍した。

 

 身長は小学6年時に160cmを超えていた。チームの大黒柱として6年時、県ベスト4入りに貢献した。全国大会には届かなかった。それでも小池の実力は認められ、周囲から伊方中学でもバスケを続けることが期待されたという。しかし、彼女が選んだのはバレーボール部だった。

「バスケはバスケで面白いと思っていたのですが、何か違うこともやってみたかった」

 

 再びバスケの道へ

 

 母・友子は中学・高校時代、バレーボール部に所属していた。結婚してからもママさんバレーチームに参加し、小池も母親の練習や試合について行っていた。馴染みのあるスポーツだったことも大きかったのだろう。長身で跳躍もある。バレーボールに必要な資質も持っていた。厳しい練習にも耐え、3年間奮闘した。残念ながら小学生時のミニバスに続き、中学のバレーボールでも全国の舞台に立つことはできなかった。

 

 実は小池、全国大会と全く無縁ではない。中学3年時に陸上の走り高跳びでジュニアオリンピックに出場しているのだ。それもあって、高校は愛媛県内の陸上強豪校からの誘いもあったという。ただ本人の手応えは違ったようだ。

「余裕の予選落ちだったことと、私以外の選手は背面跳びで右側から踏み切るのに対し、私だけベリーロールという跳び方で踏み切りが左からだったことに衝撃を受けました。初めて全国レベルを知る経験となり、中学の時点でこんな差があるのに、高校でこのレベルの子たちと対等に戦っていける自信が全くなかったので、その道には進みませんでした」

 

 高校は大学進学を見据え、八幡浜高校普通科に入学した。同校の推薦枠を得るには伊方中で学年上位3番以内に入る必要があったが、母・友子によれば、中学時代は学年上位の成績だったという。それまでの“文武両道”から、小池の歩む道は“文”に傾きかけていた。

「勉強を頑張り、国立の愛媛大学教育学部に進もうと考えていました。漠然とではありますが、先生になりたいと思っていたんです」

 

 入学した八幡浜高の同期には、小学校のミニバス時代に対戦したことのある選手がいた。「何で中学の時にバスケやらなかったの? バスケやろうよ」。小池自身、バスケが嫌いで中学時代、バレーボール部に入ったわけではない。身体を動かすことは変わらず好きだった。結局、小池は誘われるがまま、バスケ部の入部を決めたのだった。

 

 実際に3年のブランクはいかばかりだったのか。本人はこう振り返る。

「高校の最初は1人だけ別メニューでした。『SLAM DUNK』の桜木花道のように端でドリブルや、ゴール下でのシュート練習をひたすらやっていました」

 人気漫画の主人公・桜木花道は、高校からバスケを始めた素人だ。「まぁやってないし、しょうがない」。小池は“初心者扱い”を受け入れ、ひた向きに基礎練習から取り組んだ。その甲斐あって、徐々に感覚を取り戻していくのだった。

 

(第3回につづく)

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小池真理子(こいけ・まりこ)プロフィール>

1987年7月23日、愛媛県西宇和郡伊方町生まれ。小学4年でミニバスケを始める。中学ではバレーボール部に所属。八幡浜高校でバスケットボール部に入った。国民体育大会の愛媛県代表に選ばれ、ベスト8進出に貢献する。鹿屋体育大進学後、1年時から出場機会に恵まれる。4年時にはユニバーシアード日本代表にも選出された。卒業後はトヨタ自動車アンテロープスに入団し、Wリーグで3シーズンプレーした。現役引退後、約5年のブランクを経て3x3に転向。2018年、SHIBUYA SANKAKに加入し、翌年よりTOKYO DIMEに移籍。21年には3x3.EXE PREMIER2021でMVPにも輝いた。今シーズンよりキャプテンを務める。中からも外からもシュートを決められる万能型スコアラー。ポジションはPF、C。身長178cm。背番号71。

 

(文・写真/杉浦泰介)

 


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