2013/14シーズンは、JTサンダースにとって躍進の年となった。ヴェセリン・ヴコヴィッチ新監督を迎え、さらに長きにわたって全日本の主力として活躍してきた越川優が加入したチームは、前年6位から、10シーズンぶりとなるファイナル進出を果たした。だが、ファイナルではフルセットの末に敗れ、涙をのんだ。それだけに今シーズンにかける思いは強いに違いない。そこで新キャプテンに就任した越川にインタビュー。チームで唯一、優勝経験のある越川が今、感じているものとは――。昨シーズンで得た手応え、課題を踏まえながら今シーズンへの思いを訊いた。

 意識改革による躍進

―― 移籍1年目の昨シーズン、チームは10シーズンぶりのファイナルに進出し、準優勝を果たしました。
越川: 欲を言えば、ファイナルまでいったからには最後、勝ちたかったですね。ただ、前年6位だったチームが、V・プレミアリーグでも、シーズン最後の黒鷲旗(全日本男女選抜大会)でも、ファイナルの舞台に立てたというのは、シーズンを通してチームが成長した何よりの証じゃないかなと感じています。

―― 躍進の背景には何があったのでしょう?
越川: まずは意識改革をしたことですね。正直、サンダースに入部したばかりの頃は、「なぜ、このチームは力を持っているのにやらないんだろう」という思いがあったんです。せっかく持っている力を全て出せずに、現役を終えてしまう選手はたくさんいます。でも、一緒にやる仲間には、そういう選手にはなってほしくないですし、何よりそれでは勝つことはできない。全員が持っている力を100%出す努力をしてほしい、というようなことを、練習の中で伝えるようにしました。

―― 意識改革という点では、特にどういう部分を重視したのでしょうか?
越川: これまで少し疎かにしていたことも、きちんとやっていこうという雰囲気をつくることを意識しましたね。たとえば、最後までボールを追いかけるとか、そういう当たり前のことをまずはちゃんとやっていこうと。

 チームを鼓舞した必死の姿

―― チームの意識が変わってきたな、と感じ始めたのは?
越川: 昨シーズン所属していた外国人プレーヤーが、ある試合で、コートの外までボールに飛びついた時ですね。彼はチームに1人しかいない助っ人でしたから、その彼がチームに与える影響は、非常に大きいと僕は考えていました。だから、監督がやってはいけないというミスに対しては、練習の時から僕も「今のはダメだよ」と言うようにしていたんです。
 最初、彼は僕に言われると、すごく不機嫌になりました。おそらくチームの誰からもそんな注意を受けたことがなかったんだと思います。それである日、練習でボールを追いかけなかった彼に対して、僕が本気で怒ったことがあったんです。その時は彼も怒って、練習中はお互い話をしませんでした。
 でも、練習後に2人で話をしたんです。結果的にそのボールがつながる、つながらないじゃない。チームの中心である彼が、一生懸命にボールを追う姿を見せることで、間違いなくチームの士気が上がる。日本人はそういうところがあるんだよ、ということを話しました。その後ですね、彼が試合で絶対に無理だろうというボールを必死に追いかけた姿を見せてくれたのは。僕たちチームも驚きましたけど、お客さんもビックリしたんでしょうね。会場にどよめきが起きました(笑)。

―― そのプレーがチームにいい影響を与えたと。
越川: はい。それから他の選手にも自然とそういうプレーが出るようになったんです。チームがさらにレベルアップして、勢いをつけることができた。ファイナルにまで行って戦うことができた要因のひとつになったと思います。

 ファイナル進出は成長の証

―― そのファイナルではパナソニックパンサーズにフルセットの末に惜しくも敗れました。
越川: 正直、パナソニックとの差はあったと思います。ファイナルにまで行くことができたのは、確かに自分たちの力だったと思いますが、最後の最後に経験値という差が出たかなと思いました。試合をしながら、「向こうの方が、ファイナルの戦い方を知っているな」と感じていたんです。

―― どういう部分で差を感じたのでしょう?
越川: まずはゲームの入り方ですね。両チームの雰囲気はまったく違いました。間違いなく、相手の方が落ち着いていた。僕たちは自分も含めて、いつも以上に緊張していたんです。

―― それでもフルセットまでいきました。
越川: それは、みんなが昨シーズン、頑張ってきた結果だと思います。僕はもともと、「このチームは力はある」と思っていました。シーズン中での成長もプラスされていたとは思いますが、何よりもみんながもともと持っているものをコートの上で表現できるようになったことが大きい。それがファイナルセットまでの粘りにつながったのだと思います。

 大きかった小澤の存在

―― チームとして、一番の変化は?
越川: 勝ち越しているチームと、負け越しているチームとの違いだと思います。勝ち星が増えると、負けた時の悔しさというのは、負けが多い時のそれとはまったく違います。それに、考え方も「次、負けないためにいはどうしようか」ではなく、「次に勝つためにはどうしたらいいのか」というふうになる。昨シーズンは、そういう前向きな考えのできるチームになったことが一番大きな変化だったと思います。

―― キーマンをひとりあげるとしたら?
越川: 小澤翔ですね。昨シーズン、開幕は僕と八子大輔が対角で出場していましたが、八子が途中でケガをしてしまった。その八子に代わって僕の対角を担ったのが、小澤でした。ケガをした八子に代わる選手がいなかったら、間違いなくチームは低迷していました。そこに小澤が出てきて、彼なりの良さを十分に出してくれた。だからこそ、チームは耐えることができたんです。彼の頑張りなくして、ファイナル進出はなかったと言っても過言ではありません。

―― 今シーズンはキャプテンに就任しました。
越川: 最初、監督に「キャプテンをやりたいか?」と言われたんです。だから「やりたいか、やりたくないと言われれば、やりたくない」と答えました(笑)。でも、「自分がやった方がいいと言うんだったら、引き受けます」と。正直、もっと若い選手がキャプテンをやることで、このチームの成長につながるのかなという気持ちもありました。でも、チームで優勝経験があるのは僕だけ。そういう意味でも、監督は僕を選んだのかなと。とにかくなったからには、チームが勝つために全力でやるだけです。

(後編につづく)

越川優(こしかわ・ゆう)
1984年6月30日、石川県生まれ。小学4年からバレーボールを始め、中学時代から全国大会で活躍。岡谷工業高校(長野)3年時には主将として春高準優勝に導いた。同年のアジア大会で男子では初の高校生での全日本入りを果たす。2003年、サントリーサンバーズに入団。1年目のVリーグにて新人賞を獲得し、史上初の5連覇に貢献した。08年には北京五輪に出場。翌年より3シーズン、イタリア・セリエAでプレーし、2012-13シーズンに、国内リーグに復帰。昨季、JTサンダーズに移籍し、今季はキャプテンに就任した。

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 2013/14V・プレミアリーグ、男子は11月15日(土)開幕!

 JTサンダーズはヴェセリン・ヴコヴィッチ監督、越川優新キャプテンのもと、悲願の初優勝を目指してリーグ戦に挑みます。ぜひ会場へ足を運び、選手たちの活躍をご覧ください。

<開幕からの試合日程(年内)>
11月16日(日)13:00 vsジェイテクト 小牧市スポーツ公園総合体育館(愛知)
11月22日(土)14:00 vsFC東京 福山市緑町公園屋内競技場(広島)
11月23日(日)13:00 vs東レ 福山市緑町公園屋内競技場(広島)
11月29日(土)14:05 vsサントリー 大田区総合体育館(東京)
11月30日(日)13:00 vs豊田合成 大田区総合体育館(東京)
12月20日(土)14:00 vs 堺市金岡公園体育館(大阪)
12月21日(日)13:00 vsパナソニック パナソニックアリーナ(大阪)

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(聞き手/斎藤寿子)
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