1705nabeshima3 創部3年目の快挙だった。昨年11月、全日本実業団対抗女子駅伝(クイーンズ駅伝)を制した日本郵政グループ。初優勝の立役者はルーキーイヤーながら5区で区間賞を獲得し、MVPにも輝いた鍋島莉奈だ。12月に行われた記録会では5000mで15分22秒34をマーク。世界選手権(8月、イギリス・ロンドン)の参加標準記録に迫るものだった。ニューヒロインとなった23歳は、日本陸上競技連盟主催の強化合宿に参加するなど、その評価もうなぎ登りである。

 

「馬力のある走りをする子で勝負勘もありますね」

 そう彼女を評価するのは日本郵政の髙橋昌彦監督だ。コーチとして小出義雄氏の下で、有森裕子、高橋尚子のオリンピックメダリストの指導に携わった経験を持つ。日本郵政の監督に就いてからは鈴木亜由子、関根花観をリオデジャネイロ五輪代表に導いた。その名伯楽をして鍋島の潜在能力は「まだまだ化けていない」と期待を寄せる。

 

1705nabeshima8 スピードを武器とする鍋島は5000mを主戦と考えている。「まずは5000mでしっかり記録を出したい」。当面は8月の世界選手権での代表権獲りを狙う。そのためには6月の日本選手権で3位以内に入り、参加標準記録(15分22秒00)をクリアする必要がある。

 

 昨秋から鍋島は充実した競技生活を送っている。春を迎えても練習を積めていることが自信にもなっているのだろう。「この時期(春)に毎年ケガしていたので、今走れていることがすごい」

 

 これまではケガに悩まされた競技人生だった。日本郵政入社1年目のシーズンも3月に右頸骨の疲労骨折をした。練習再開は6月から。リオ五輪出場が懸かっていた日本選手権には間に合わず、スタンドで観ることとなった。その後はアメリカ・ボルダーでの合宿に参加するなど、徐々に力を付けていった。

 

 馬力と勝負勘が光ったMVPの快走

 

 昨秋のクイーンズ駅伝では、鍋島の馬力のある走り、勝負勘を如何なく発揮した。日本郵政は予選会を8位で突破。優勝候補に挙げられていたわけではなかった。髙橋監督は予選で1区起用の鍋島を5区に配置した。それにはこういう理由があった。

「後ろの区間の方が1区に比べれば緊張感は少ない。5区のコースは大学駅伝で走ったことのあるコースと重なる箇所があるので、験の良さも考えました。鍋島に関しては5区が一番のびのび走れると」

 

 監督の“親心”に応えたかたちだ。「肩の力を抜いていきなさい」と送り出された鍋島はトップと17秒差の3位で襷を受けた。10kmを走る5区。2kmあたりで資生堂、九電工に日本郵政、ワコール、第一生命グループが追いついた。

 

1705nabeshima5 宮城県仙台市を駆け抜けるクイーンズ駅伝。広瀬橋を渡り終えると5人の先頭集団が2人に絞られた。1人が鍋島で、もう1人はリオ五輪マラソン代表の田中智美だった。実績では劣る鍋島だが、冷静にレースを組み立てた。競いながら相手の息づかいを感じ取っていた。

 

「自分の方が、余裕があると判断しました」

 鍋島は6kmを過ぎた付近で仕掛けた。馬力のある走りで田中をぐんぐん離していく。先頭に立ったまま、アンカーの寺内希に襷を渡す。「いい走りができたかなと安心しました」と、2位に17秒差をつける快走は、初優勝を大きく手繰り寄せるものだった。

 

 監督、キャプテンらを胴上げする歓喜の瞬間には間に合わなかった。ラジオで最終結果を聴いた鍋島は安心感や喜びもあったが「来シーズンは大変になるな」と浮かれることはなかった。「個人として自信がついたレースになったか?」と聞いても「駅伝は駅伝、トラックはトラックだと考えているので、そこは直接結び付けてはいないですね」と答える。

 

 昨秋から好調を持続し、飛躍の足音は聞こえている。鍋島はその手応えに満足するよりも納得しているという感覚に近い。「コツコツやってきたことが繋がって、走れているのかなと感じています。やはり練習をしないと結果は出ません。その先のことも考えると、継続しないといけませんし、まだまだいけるのかなとも思います」。地に足をつけて、この先の道を見据えている。リアリストの彼女は、これまでどんな道を歩んできたのか。

 

(第2回につづく)

 

鍋島莉奈(なべしま・りな)プロフィール>

1705nabeshimaPF21993年12月16日、高知県須崎市生まれ。中学で陸上を始める。山田高校では全国高校駅伝や全国高校総合体育大会に出場した。鹿屋体育大に進学後は12、14年の日本学生個人選手権5000mで優勝。14、15年には日本学生対校選手権1万m連覇を成し遂げた。16年に日本郵政入社。全日本実業団対抗女子駅伝で5区区間賞と大会MVPを獲得し、チームの初優勝に貢献した。23歳。自己ベストは5000m15分22秒34、1万m33分8秒00。身長160cm。

 

(文・写真/杉浦泰介)

 

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