ついに行ってまいりました。マツダスタジアム!

 3年ぶりの生観戦に胸を躍らせて広島へ向かいました。

 

 もちろん、スタジアムに出かけるときからカープの流儀に従います。つまり前泊したホテルの部屋からユニフォームを着て出かけるのです。ここ広島では、家からユニフォームを着て出かけるのが常識だからです。初めて見た時はびっくりしましたが。例えば東京ドームではあまり見られない光景です。観客はユニフォームをバッグに入れて持ち込み、会場に入ってから着替えるパターンが多いように感じます。

 

(写真:スアジアムへ向かう途中の道に掲げられている看板)

 出発の際、フロントの方に「私の分も、応援お願いします」と声をかけられました。そういえば前日お好み焼きをご一緒した方々にも「わしらの分の応援もたのんます」と言われたような。自分が応援に行かなくても、行く人に託す。ここ広島ではそれが普通じゃけん。

 

 駅前を通ると、売店の人も、お買い物している人もみんな思い思いのユニフォームを着ています。数年前、広島市役所におじゃました折(カープの試合開催日)、職員の方々もユニフォームを着てお仕事をしていました。

 

 駅前からスタジアムまでの道のりは、赤い川が流れるように、たくさんのカープファンが移動します。それぞれ好きな選手の背番号、いろいろな時代のユニフォームを着て歩いている。赤ちゃんも、小学生も。この“英才教育”を受けている子たちは、必ずやカープファンになるに違いなかろう。

 

 赤い流れの中に車いすのおばあちゃんとその家族も見かけました。そうそう、ここは日本一車いす席が多く、しかも一塁側、三塁側、内野外野と、好きなところを選べるとてもユニバーサルなスタジアムなのです。

 

 席に着いたら、たちまち(※)ビールをいただきます。あらかじめ500ミリリットルの缶を買っておき、スタジアム入り口の前で紙コップに移し替えます。かつて、ファンが瓶をグラウンドに投げ込んだことがあり、今は持ち込み禁止になっているからです。

 

 あ­~、どこからかカープうどんの香り。何と言っても、これが私にとってのマツダスタジアムのにおい。普段は炭水化物を控えていますが、ここでは特別に解禁(広島では、お好み焼きと汁なし担々麺も解禁です)します。でも今回はやっぱり我慢。どこぞの席から漂ってくる香りで、気分を出すけん。

 

 さて、コロナ禍になってから、スポーツ観戦における制限が設けられるようになりました。例えば応援は声を出さない。野球って野次も面白いから好きなのですが、そこは仕方がありません。ジェット風船も、「かっとばせ~」の声援も、「それいけカープ」大合唱もなしです。応援団は鳴り物なしで打楽器のみ。私たちはカンフーバット(プラスチックの30センチほどの2本組みバット)か、拍手で選手たちにエールを送ります。

 

 声が出せない応援はどのくらい寂しいかと思いきや新たな発見も。むしろ定型の応援がないほうがゆっくり観戦できる、とも感じました。

 さらに拍手のタイミングは一丸となっていて、それは気持ちが一つになる感じで心地よいものでした。そしてその応援スタイルでも十分選手に気持ちが伝わっているように思えるのです。

 

 パラアスリートからもよく聞きます。応援は聞こえる、伝わると。

 今回のマツダで“制限があるから応援ができない”ではないことがよく分かりました。

 応援の気持ちさえあれば、どんな方法だって、きっと選手に伝わっているのです。

 

 これからはコロナの様子も変わり、また応援の方法も変わっていくのでしょう。それでも私はカープ女子を永遠に続ける、と確信した遠征でした。

 

 ところどころに愛をこめて広島弁を入れてみました。間違っていたらどうぞご容赦ください。素人じゃけぇ。

 

※広島の方言で“とりあえず”の意

 

伊藤数子(いとう・かずこ)プロフィール>

新潟県出身。パラスポーツサイト「挑戦者たち」編集長。NPO法人STAND代表理事。スポーツ庁スポーツ審議会委員。東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会顧問。STANDでは国や地域、年齢、性別、障がい、職業の区別なく、誰もが皆明るく豊かに暮らす社会を実現するための「ユニバーサルコミュニケーション事業」を行なっている。その一環としてパラスポーツ事業を展開。2010年3月よりパラスポーツサイト「挑戦者たち」を開設。また、全国各地でパラスポーツ体験会を開催。2015年には「ボランティアアカデミー」を開講した。著書には『ようこそ! 障害者スポーツへ~パラリンピックを目指すアスリートたち~』(廣済堂出版)がある。

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