蘆名真平(味の素(株)グローバルコミュニケーション部マネージャー)<前編>「ブラジル、豪州のパラ環境」
大手食品メーカーの味の素株式会社は、2016年のリオデジャネイロオリンピック・パラリンピック競技大会から本格的にパラアスリート支援に乗り出している。現在は、JPC(日本パラリンピック委員会)のパートナーをはじめ、様々なパラスポーツ競技団体、パラアスリートを支援している。その現場責任者である、グローバルコミュニケーション部スポーツ栄養推進グループマネージャーの蘆名真平氏に話を訊いた。

二宮清純: 蘆名さんは海外経験が豊富だそうですね。ブラジルには9年いたとか?
蘆名真平: 生まれは日本ですが、3歳までは台湾で過ごしました。小学校は日本。父の仕事の都合で、中学・高校はオーストラリアで暮らしました。大学でまた日本に帰ってきて、在学中にブラジルの会社に1年間、研修生として働きました。そこでブラジルの生活が気に入り、就職活動はブラジルに行ける可能性のある会社を探し、味の素に入社しました。入社7年目の2012年、ブラジルに出向し、「アミノバイタル®」事業と「ビクトリープロジェクト®」のブラジルでの立ち上げを担当しました。
伊藤数子: 蘆名さんはポジティブオーラが溢れていて、段々ブラジル人に見えてきましたよ。
蘆名: アハハハ。うれしいです。ブラジルで働いている時、ずっと営業に出ていて、ほとんど日本語を使わなかったので、現地の人にも「日本に行ったことあるの?」と日本人じゃないと勘違いされたこともあります。あのままブラジルでずっと暮らしていても良かったかもしれませんが、2020年にコロナ禍で日本に帰らざるを得ない状況になりました。
二宮: ブラジルと言えば、サッカーが盛んです。日本ではブラジリアン柔術も有名です。パラスポーツの環境はいかがでしょうか?
蘆名: サンパウロには、「ブラジル・パラリンピック・トレーニングセンター」という世界で数本の指に入るぐらい、立派な専用施設が建っています。そもそもブラジルは、肌や人種の違い、宗教の違いを受け入れて共存しないと成り立たない国です。違いがある人たちを、受け入れやすい土壌がある。障がいがあるかないかという議論もナンセンスです。学校も障がいのある子どもの受け入れ拒否をしてはいけない、と法律で定められています。どうせ社会に出たら、みんな一緒になりますから。
二宮: それは素晴らしい考えですね。共生社会を体現しています。
蘆名: キリスト教の国でもありますので、困っている人を見かければ、助けるという習慣がある。そういうところが、すごく温かかったし、そこに価値を見出している国でした。たとえば、階段があるところで、ベビーカーを押す親子がいれば、誰かが絶対助ける。それは、過去に住んでいたオーストラリアも同じでしたね。他にもブラジルではスーパーに行くと、障がいのある人、老人、妊婦レーンというものがあるんです。法律で妊婦さんは並んじゃいけないことになっているんです。その点、日本は異質だと感じます。
オリ・パラの格差
伊藤: 異質というのは?
蘆名: たとえば電車の中で、優先席に座ってずっと携帯をいじっている人がいる。妊婦の方や御老人、障がいのある人が車内に乗ってきても無視して知らないフリをする。ちょっと冷たい感じがしますね。だからこそ、私がブラジルやオーストラリアで経験してきたものを日本に持ってきて、パラスポーツの魅力が伝えられれば、もっと日本社会が良くなると信じています。
二宮: 蘆名さんが暮らしていたオーストラリアはスポーツ大国で、かつパラスポーツに対する環境も素晴らしい。水泳を例にとっても、障がいの有無に関わらず、同じプールで泳いでいると聞いたことがあります。
蘆名: おっしゃる通りです。私はブラジルという国とブラジル人が大好きですが、中学・高校の思春期をオーストラリアで過ごしたこともあり、基本的な私の考え方は、オーストラリアの常識です。向こうではオリンピック、パラリンピックと分けることなんてないんですよ。それはアメリカも同じ。国のスポーツ団体の中にオリ・パラどちらもあり、公平に扱われています。
伊藤: でも日本は違う、と。
蘆名: そもそもパラスポーツの認知度が低い。パラリンピックのマークすら知らない人が多いですし、私がパラリンピック関連の仕事に出向いた時も、オリンピックと間違えて質問されたこともあります。パラアスリートの扱いにしても、まだ競技面を取り上げるのではなく、環境面や日々の苦労にばかり焦点が当てられてしまうんです。
二宮: 俗にいう“感動ポルノ”と呼ばれているものですね。
蘆名: ブラジルやオーストラリアだったら差別に当たるし、絶対そういうことはしないですね。たとえ赤字になってでもテレビ局は両方の競技を流します。それは社会が良くなるために必要なことですから。私たちとしても、少しでも社会が良くなるために活動しているつもりです。皆さんから商品を買ってもらった利益で、アスリートの支援活動ができている。これからも少しでも社会に役立てるよう努力していきたいと考えています。
(後編につづく)

<蘆名真平(あしな・しんぺい)プロフィール>
味の素株式会社グローバルコミュニケーション部スポーツ栄養推進グループマネージャー。1982年、東京都出身。2006年、上智大学卒業後、味の素株式会社入社。2012年よりブラジル法人に出向。販売・マーケティング部門で、ブラジル国内における「アミノバイタル®」事業と、「ビクトリープロジェクト®」のブラジルでの立ち上げを担当した。2020年、帰任。2023年より、現職である「ビクトリープロジェクト®」パラリンピック担当に着任した。アスリートたちへの支援を通じ、「誰もが活き活きと、“自分らしく”輝ける社会」を目指している。好きなスポーツはサッカー。趣味は子どもたちと過ごすこと。座右の銘は「善悪を以って道理をなす」。