右の写真は昨年、石川県小松市で開催した(於:イオンモール新小松)イベント会場の写真です。体験会の会場にある一筋のライン。これ、なんでしょう? これは視覚障害者を誘導する歩行誘導マット「歩導くんガイドウェイ」です。


 歩導くんはゴム製で厚みは7ミリありますが、スロープ状になっており床との段差は1ミリ以下。歩導くんを開発・販売する錦城護謨株式会社・太田泰造社長はこう話してくださいました。

 

「このマットは視覚障害の方の誘導ができます。でも他の側面もあります。点字ブロックはコンクリートや金属でごつごつとして車いすだと通りにくい。またキャリーケースやベビーカー、それにハイヒールでも同じですよね。ゴム製の歩導くんはこうしたことを解消してくれます。設置は両面テープで床に貼るだけなので、イベントや大会など短期間でも設置できます。また一旦設置しても、来場者の導線に合わせてすぐ変更もできます」

 

 この歩導くんは最近、あちこちのパラスポーツの大会やイベントで見かけるようになりました。最初は誘導マットだから視覚障害のスポーツだけで使われているのかと思っていましたが、車いすテニスの会場でも見つけました。視覚障害のスポーツだけでなく様々な競技会場に協力しているのだそうです。

 

 さて、話は変わって、STANDで開催するイベントは様々な障害がある人が来場します。いろんな人がいることによって、思いがけないこともよくあります。あるイベントではこんなことがありました。

 

 ある視覚障害の20代の女性は、知らない場所への1人での外出がとても苦手でした。どうしてもというときには介助を依頼して外出していました。車いすを使用する50代の男性は、最近車いすの操作が億劫になってきて外出が激減しました。こちらもどうしても、というときは介助を依頼していたそうです。

 

 この2人があるとき出会って意気投合。男性が家族の方に車を運転してもらって女性の家まで迎えに行く。2人はタッグを組んで外出するようになりました。女性は彼の車いすを力強く押し、男性は「右、左」と道案内をする。2人が一緒なら、外出に必要だったそれぞれの介助の人2名が不要になりました。もともとアクティブだった2人の外出は格段に増えました。この日も私たちのイベントに仲良く来てくださったんです。

 

 誘導マットの話と、車いすと視覚障害のある人のタッグの話。私たちは「この障害にはこういう介助が必要」、「このタイプだからこの道具を使う」と思い込みがちです。でも、それだけではないのです。何かと何かを組み合わせたら便利が2つ以上になったり、誰かと誰かが仲間になったらできないことができたり、協力しあったらできることが増えたりするのです。いろんな人が一緒にいたら、みんなに役に立つことや、思いがけず生まれることもあるんです。「あれっ?」「ちょっとちょっと」「むむむ? もしかしたら!」から、意外と優しいことが生まれるのではないか、と。これもいろんな人が集まるイベントの楽しみのひとつです。

 

伊藤数子(いとう・かずこ)プロフィール>

新潟県出身。パラスポーツサイト「挑戦者たち」編集長。NPO法人STAND代表理事。スポーツ庁スポーツ審議会委員。東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会顧問。STANDでは国や地域、年齢、性別、障がい、職業の区別なく、誰もが皆明るく豊かに暮らす社会を実現するための「ユニバーサルコミュニケーション事業」を行なっている。その一環としてパラスポーツ事業を展開。2010年3月よりパラスポーツサイト「挑戦者たち」を開設。また、全国各地でパラスポーツ体験会を開催。2015年には「ボランティアアカデミー」を開講した。著書には『ようこそ! 障害者スポーツへ~パラリンピックを目指すアスリートたち~』(廣済堂出版)がある。
 

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