25日、東京オリンピックの日本代表選考会を兼ねた第105回日本陸上競技選手権大会2日目が大阪・ヤンマースタジアム長居で行われ、男子100m決勝は多田修平(住友電工)が10秒15で初優勝。2位にデーデー・ブルーノ(東海大)が10秒19で、3位には日本記録保持者の山縣亮太(セイコー)が10秒27で入った。女子やり投げは日本記録保持者の北口榛花(JAL)が61m49で2年ぶり2度目の優勝。東京オリンピック参加標準記録を突破している多田、山縣、北口は代表内定。多田と北口は初のオリンピック代表、山縣は2012年ロンドンオリンピックから3大会連続となる。

 

 自己ベスト9秒台は4人、東京オリンピック参加標準記録(10秒05)を突破しているのは5人。激戦と言われた男子100m決勝は意外な結末となった。

 

 決勝にコマを進めたのは9秒95の日本記録を保持し、“最速”の称号を持つ山縣、前日本記録(9秒97)保持者のサニブラウン・アブデル・ハキーム(タンブルウィードTC)、9秒98で並ぶ桐生祥秀(日本生命)と小池祐貴(住友電工)。今年10秒01の自己ベストをマークした多田と、準決勝で10秒22の自己ベストを出した栁田大輝(東京農大二高)を加えれば、国際大会のメダリストが6人も揃った。

 

 自己ベスト10秒20のデーデー・ブルーノ(東海大)、10秒18の東田旺洋(栃木県スポーツ協会)を加えた8人で“日本一”の称号を争われた。この日、最後のレース。8人が入場すると拍手で迎えられた。それぞれがレース前に降った雨で湿ったトラックを確かめるように踏みしめる。張り詰めた緊張感がスタジアムを包んだ。

 

 選手紹介の後、「On Your Mark」とコールされると、8人のファイナリストが位置についた。静寂の世界。そして号砲は鳴らされた。勢いよく飛び出したのは6レーンの多田。リアクションタイムは0.123。持ち味のスタートダッシュを遺憾なく発揮したのだ。多田は前傾姿勢から顔を上げた後も先頭を守った。追いすがるライバルたちより速く、10秒15でフィニッシュラインを駆け抜けた。

 

 関西学院大3年時の17年に頭角を現し、世界陸上にも出場した。4×100mリレーで世界陸上2度の銅メダル、アジア競技大会金メダルを獲得したが、日本選手権のタイトルとは無縁だった。

 

 日本選手権は18年から3年連続5位。桐生が日本人初の9秒台をマークした18年の日本インカレ、山縣が日本記録を塗り替えた今年の布勢スプリントはいずれも自己ベストを更新したものの、2位で影に隠れていた。

「僕は2位や4位の選手。大きな舞台で1位をとることができてうれしい気持ちでいっぱいです」

 

「今まで以上に集中した」と多田。「ずっとゴールだけを見ていた」と終盤の記憶はなかったほどである。並み居るトップスプリンターに先着し、日本選手権初制覇にも浮かれてはいない。「僕の中では17年以上の走りを目指している。まだ完璧じゃない」。照準はオリンピックでのファイナリストに向けられている。

 

(文/杉浦泰介)