格闘技イベント『超RIZIN』『RIZIN.38』が25日、さいたまスーパーアリーナで行われた。『超RIZIN』のメインイベント、ボクシングルールのエキシビションマッチは、ボクシングで世界5階級制覇したフロイド・メイウェザー(アメリカ)がMMAファイターの朝倉未来(トライフォース赤坂)を2ラウンドでTKOした。『RIZIN.38』では、堀口恭司(アメリカン・トップチーム)が金太郎(パンクラス大阪稲垣組)を2ラウンド2分59秒で一本勝ちを収め、1年9カ月ぶりに日本のリングで白星を飾った。RIZIN女子スーパーアトム級トーナメントは伊澤星花(フリー)、パク・シウ(韓国)が大晦日に行われる予定の決勝にコマを進めた。

 

 メイウェザーの圧倒的な強さばかりが際立ったエキシビションマッチだった。ボクシングに準じたルールで3分3ラウンド。現役を引退した45歳とはいえ、かつて世界5階級制覇を成し遂げ、50戦無敗の戦歴を持つ生ける伝説である。朝倉が勝機を見出すのは、容易いことではない。
 
 試合開始前から“メイウェザー劇場”だった。12時からのオープンセレモニーに現れず、全体開始を約30分遅れさせた。ホテルから向かう様子が中継されたが、13時前に到着。控室でもマイペースにバンテージを巻いていた。花道は、いつものように取り巻きを大勢引き連れ、入場した。ゴングが鳴ったのは14時半前だ。
 
 朝倉の感覚の中でどれだけ待たされたのかはわからないが、いい気分ではなかっただろう。この日のために磨いてきたボクシングテクニックを披露した。ロープ際に追い込み、観客を沸かせるシーンもあった。ラウンド終了のゴングが鳴ると、舌を出してアピールした。
 
 しかし「ボクシングは呼吸するようなもの」と豪語するメイウェザーにとっては、1ラウンド目は試運転に過ぎなかったのかもしれない。2ラウンド 目はボディで強烈な打撃音を響かせる。朝倉も臆せず攻めたが、その牙城は簡単に崩せない。
 
 ラウンド終了間際だった。右フック、右ストレートが朝倉のアゴを襲う。最後はカウンターの右ストレートが朝倉のアゴを打ち抜いた。尻餅を付いた相手はふらつき、立ち上がることもままならない。「地面が歪んでいた」と朝倉。レフェリーが両手を振って、試合を止めた。「すべてが異次元だった」とリングで対峙した印象を朝倉が振り返ったように、圧倒的だった。
 
 試合後、メイウェザーは「朝倉の左ストレートを受け、本気になったのか?」と聞かれると、こう答えた。
「何のために真剣になる必要があるのか? 最初の方は、軽い打撃を当てて様子を見ていたが、彼がだいぶ強い打撃で返してきた。なので自分もボディに2発強めの打撃を与え、メッセージを送った。それを続けても彼は舌を出したりニコニコ笑っていた。“あぁ、そういうことか”と。“いつまで続くかどうかやってみるか”という気持ちで試合をした」
 
 リング上で「I'll be back」と言い、去ったメイウェザー。11月にはドバイでエキシビションマッチを行うという。「来年は日本に戻ってきたい」。“MONEY”の異名を持つ男の荒稼ぎの旅は、まだまだ続きそうだ。
 

 2020年大晦日の『RIZIN.26』以来、日本のリング、さいたまスーパーアリーナでの試合となった堀口は、金太郎をグラウンドの戦いに引きずり込んで勝利した。

 

 現在、主戦場となっているアメリカの『Bellator』では2連敗中。RIZINバンタム級のベルトを保持しているとはいえ、久々の日本での試合で容易く勝ちを与えるようでは自らの価値を下げかねない。しかし、堀口の表情にそんな気負いは見られない。軽快に花道を歩くさまは、いつも彼のままだった。

 

「相手も研究してきてタックルにいきづらかった」と堀口。打撃を得意とする金太郎の土俵で戦うことになった。ダウンを奪ったのは金太郎。1ラウンド、右のローキックを狙ったところで左のストレートを合わせられた。「ダメージはないフラッシュダウン。焦りはなかった」という堀口は、徐々にグラウンドに相手を引きずり込む。

 

 2ラウンドもテイクダウンを奪い、寝技で勝負した。パンチを当てながら自分の優位な体勢に運ぶ。そして金太郎の左腕と首をとらえた。「このままなら締まる。迷いはなかった」と肩固めで仕留めにいった。逃れられない金太郎は徐々に力が抜けていく。レフェリーが試合を止め、堀口の勝利が確定した。彼の引き出しの多さが際立った試合だった。

 

 これで1年9カ月ぶりの白星だ。次戦は日米どちらになるかとの問いに、RIZIN参戦も否定しないが、「負けているので海外でやり返したい思いがある」と胸の内を明かした。「まずはBellatorでベルトを巻きたい」とタイトル奪還を誓う。加えて堀口は1階級落としてのフライ級復帰も視野に入れているという。RIZIN、Bellatorには男子フライ級のベルトは存在しない。もし新設されれば初代王者の座を狙いにいくことになりそうだ。

 

 2万3000人を超える観客が集まった2興行を総括したRIZINの榊原信行CEOは両大会のメインイベントについて言及。

「朝倉未来はフロイドに真っ向勝負。初めてボクシングに準じたルールで臨み、高く評価できるものだった。堀口vs.金太郎は手に汗握る内容。“堀口ここにあり”と示したと思う」

 RIZINの看板選手のメインイベンターぶりに満足した様子だった。

 

 その他の試合でも好ファイトあり、大会は盛況だったと言えよう。一方で残念な場面も。朝倉vs.メイウェザー戦の花束贈呈の際、プレゼンターがメイウェザーに花束を渡さずリング上に落とした。榊原CEOは『RIZIN.38』のリング、そして試合後の記者会見で「主催者として品性下劣な男をリングに上げてしまった」と謝罪した。プレゼンターの権利はNFTによる最高額の特典で落札されたという。予測できない行動だったとはいえ、今後の対策を含め、格闘技興行、NFT戦略のひとつの課題となるだろう。

 

(文・写真/杉浦泰介)
 
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