ウクライナ侵攻から7カ月が経ち、戦況の悪化に業を煮やしたロシアのウラジーミル・プーチン大統領が「部分動員令」を発令した。日本風に言えば、“赤紙”だ。これに対する抗議行動がロシア国内で相次いでいる、と海外の多くのメディアが報じている。

 

 ロシアがウクライナ東南部4州の支配地域で進めている“編入”に向けた住民投票と部分動員はセットで考えるべき、という専門家の見立ては、大筋で正しいのだろう。拡大した領土の防衛を名目に兵士を送り込み、「単なる脅しではない」と核兵器の使用さえちらつかせるプーチン大統領。これには、さすがに米国も黙ってはいない。「使用すればロシアにとって壊滅的な結果になる」(ジェイク・サリバン大統領補佐官)と警告を発した。

 

 ウクライナ戦争の長期化に伴い、世界情勢は一段と緊張感を増している。「第三次世界大戦前夜」との見方には与しないが、依然として一触即発の状況にあることは留意しておきたい。

 

 これを単なる偶然で片付けていいのだろうか。米メジャーリーグで新たなホームラン記録が誕生したシーズンについて調べると、不思議な事実に突き当たる。

 

 たとえばバリー・ボンズがMLB記録を3本も更新する73本をマークした2001年。この年の9月11日、イスラム過激派による同時多発テロが発生する。これによりMLBは中断を余儀なくされ、再開までに約1週間を要した。ボンズは再開からの18試合で、さらに10本のホームランを積み上げた。

 

 マーク・マグワイアとサミー・ソーサが“世紀のマッチアップ”を演じた98年も平穏な年ではなかった。マグワイアが史上初となる3年連続50号を達成した8月20日、米国はケニアとタンザニアの米大使館爆破事件への報復として、アフガニスタン領内の「テロ組織の訓練施設」とスーダンの「化学兵器工場」に向け、100発近い巡航ミサイル・トマホークを発射したのだ。これが3年後の同時多発テロへの伏線となったという指摘もある。最終的にマグワイアは70本、ソーサは66本にまでホームラン数を伸ばした。

 

 今もア・リーグ記録であるロジャー・マリスがベーブ・ルースの60本を抜く61本をマークした61年は第一次キューバ危機の年である。CIA支援の下、在米亡命キューバ人部隊がフィデル・カストロ政権打倒を試みたが失敗に終わった。ソ連との核戦争が眼前に迫った第二次キューバ危機は、その翌年である。

 

 マリスの記録に、今、ヤンキースの後輩であるアーロン・ジャッジが迫り、超えようとしている。あれから61年経った今も世界は核の恐怖に怯えている。

 

<この原稿は22年9月28日付『スポーツニッポン』に掲載されたものです>


◎バックナンバーはこちらから