地上波放送なくとも 勝てば何かが変わる

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 W杯アジア最終予選。アウェーゲームの地上波放送がなくなった。大変だと大騒ぎしたのはつい2年前の話である。わたし自身、これで新規のファンの獲得が難しくなる、日本サッカー界の将来が心配だ、と書いた記憶がある。

 

 昨年の6月には格闘技界のビッグイベント、那須川天心対武尊の一戦が土壇場になってネット配信のみの中継となった。突然の地上波撤退に主催者の榊原氏は「頭が真っ白になった」と漏らし、那須川は「お金のためではない。未来のためにやってる。子供たちはどうするんだ」と激怒した。彼らもまた、地上波の持つ影響力の大きさを信じていた。

 

 だが、実際のところはどうだっただろうか。

 

 確かに大会が始まる直前まで、日本国内におけるW杯カタール大会への関心はまったく高まっていないように感じられた。個人的な感覚でいうと、過去最低。大学で教鞭をとっている妻からは、4年前の学生はW杯ロシア大会の話題で持ちきりだったのに、今回はさっぱりだ、という話も聞いた。わたしはそこに、最終予選の地上波放送が半分に減ってしまったこととの因果関係を見いだした気分になっていた。

 

 果たして地上波での放送がなくなったことによる影響がどれほどのものだったのか。それはまだわからない。ただ、恐ろしく関心の低かったW杯カタール大会は、日本が勝ち進んだことでまったく違った印象の大会となった。

 

 勝てば、変わる。少なくとも、短期的にはダメージなどまるでなかったかのような状態に持っていくことができる。

 

 開幕が間近に迫った女子W杯の地上波放送が、7月12日段階ではまだ決まらずにいる。W杯カタール大会には手をあげたABEMAも、今回は見送る方針だという。では、日本人はなでしこの戦いぶりを映像で見ることができないのか。否。一応、FIFAが配信するネット中継で観戦することはできる。

 

 もちろん、状況はW杯カタール大会の前よりもさらに悪い。FIFAのサイトにアクセスするという余計なひと手間が入る分、ライト層の足はさらに遠のくことが予想されるし、おそらく、実況がつくとしても英語になるだろう。

 

 それでも、ほぼ完全なる無関心の中ドイツに旅立った澤穂希たちの時代を思えば、なでしこに向けられる関心はまだまだ高い。決勝トーナメントにまで勝ち上がっていけば、状況が変わることも考えられる。選手たちは、むしろ余計な重圧と無縁の状態で戦えると受け止めてもらいたい。

 

 日本での関心がどうであれ、女子W杯が世界的なイベントに育っていくことはほぼ間違いない。男子の第1回W杯を制したウルグアイがそうであるように、ひとたび世界王者となった国は、国情や世界の情勢に関わりなく、どこか別格とされ、理屈では説明のつかない戦闘力を維持し続ける。いまは輝きを失ったかのようなとらえ方をされがちななでしこにも、きっと同じような力が備わっているはずだとわたしは信じる。

 

 それにしても、スポーツとテレビの関係は今後どうなっていくのか。

 

 こと自分に関する限り、格闘技をネット配信でしか見られないことへの抵抗感はほぼなくなった。サッカーについてもしかり。次のW杯予選がネットのみの配信となったとしても、前回ほどのショックはない。事態を深刻に捉えるべきは、スポーツ界というより、視聴習慣を失っていく地上波の側ではないかという気もする。

 

<この原稿は23年7月13日付「スポ-ツニッポン」に掲載されています>

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