志村季世恵(ダイアローグ・ジャパン・ソサエティ代表理事)<後編>「人と人とを繋げる使命」

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二宮清純: 2009年3月、一般社団法人ダイアローグ・ジャパン・ソサエティ(DJS)は東京・外苑前に「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」(DID)の会場を常設しました。その後、東京・竹芝に場所を移し、2020年8月、ダイアログ・ダイバーシティーミュージアム「対話の森」をオープンしました。
志村季世恵: 外苑前会場は、家賃が1.8倍に値上がりし2017年8月末でクローズを余儀なくされました。その時、私はDJSのメンバーに「”撤退”ではなく”出発”にしよう」と提案し、ホームページでも、そうアナウンスしました。

 

伊藤数子: それは、素敵ですね。
志村: 実際には新しい開催場があるわけではなく、今後どうなるのか分からない状況でしたが、終わりという言葉を使うと今まで紡いできたものが途切れてしまう。それよりも、「これまで停留していた港から次の港を探す航海に出る」との意味で、”出発”の方がいいと考えました。地図も羅針盤もない参加者や関係者からの温かい励ましの声を原動力に、この航海を続け、浅草橋にあるビルの3階を一時期お借りして、そこでは一般開催はせずに暗闇を使った企業研修のみを行いました。それから3年後に現在の竹芝に移ったのです。外苑前時代に出会った当時JR東日本にお勤めだった表さんとおっしゃる方が「一緒に次の場所を探しましょう」と言てくださったんです。そのご縁でここに。本当にたくさんの方から応援していただき今があります。

 

二宮: それもまた縁ですね。DIDの体験プログラムには、暗闇に包まれた電車に乗るというものもあるそうですね。
志村: はい。私は昔の電車内の風景を創り出したかった。電車の中は、社会の写し絵だと思っているからです。困っている人がいれば、声をかけたり、席を譲ったりする場所。車内には助け合う共生の姿がある。そのことをプレゼンし、JR東日本のご協力で「対話の森」に電車を設置しました。他にも「対話の森」ではDIDだけでなく、75歳以上の方が案内役となる「ダイアログ・ウィズ・タイム」(DWT)、聴覚に障がいのある方が案内役を務める「ダイアログ・イン・サイレンス」(DIS)の3つを体験できます。

 

二宮: 「対話の森」では、他にもプログラムがあるそうですね。
志村: そうですね。今では、視覚や聴覚に限らず、様々なマイノリティの方が、私たちの活動に関わってくれています。昨年夏には「リアル対話ゲーム『地図を持たないワタシ』」を「対話の森」で開催しました。このプログラムは、聞こえない人、見えない人、LGBTQ、筋ジストロフィーで車いすを使う人、低身長の人、義手の人、といったマイノリティの人と対話しながら、8つの部屋で用意されたゲームを解いていくというものです。ゲームを通じ、多様性を知り、マイノリティの人に対する思い込みに気付くことができるプログラムとなっています。初開催の昨年は、1000人を超える方々に来場していただきました。今年はその第二弾として、「リアル対話ゲームⅡ『囚われのキミは、』」をスタートしました。

 

 多様性を身に付ける

 

二宮: そのリアル対話ゲームは、DIDが誕生したドイツにはないのでしょうか?
志村: はい、日本のオリジナルです。「囚われのキミは、」は”世界最短で卒業できる学校”をテーマに、95分の授業を行います。教科は、”目を使わない美術””耳を使わない音楽””体を使わない体育””普通を使わない社会”など。校訓はただひとつ、”囚われない”ことです。

 

二宮: アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)に囚われないということですね。
志村: その通りです。マジョリティだから、マイノリティだからとかいった具合に、お互いに壁をつくってしまうことが、ありますよね。人によっては自分でブレーキを踏んでしまうことも。私たちは、その見えない壁を取り払い、囚われるの”囚”という漢字のくにがまえを取れば、”人”になり、自由になれる、ということを、「囚われのキミは、」を通して感じていただきたいのです。学校をテーマにしたのは固定観念を解き放つ場面を作りやすい仕掛けができるからです。そして、未来を担う子どもたちにも早いうちから多様性を身に付けてもらいたいという願いもあるからです。

 

伊藤: DIDでは企業向けのプログラムも行っていますね。
志村: はい。ダイバーシティーへの理解だけでなく、組織内の信頼関係の醸成も期待できます。おかげで「やって良かった」と好評の声をいただいています。例えば、一昨年に東京で開催されたオリンピック・パラリンピックは、4年に1度の国際大会ですが、その影響力は大きく、世界を変えることができると言われました。しかし、日本ではややもすると一過性のものになってしまうリスクもあった。私たちの役割は、それを一過性のものにせず、未来に繋いでいくことだと考えています。

 

二宮: ダイバーシティーの浸透や、共生社会の実現に繋げていきたいと?
志村: そうですね。例えば「囚われのキミは、」の体育では、体の一部だけを使う独自のルールで運動を楽しみながら行います。多様な人と一緒に時間を過ごすことによって、違いを知り、偏見を払拭できるはず。私たちはエンターテインメントを通して、人と人とを繋げていくことが使命だと思っています。

 

(おわり)

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志村季世恵(しむら・きよえ)プロフィール>

一般社団法人ダイアローグ・ジャパン・ソサエティ代表理事。ダイアログ・イン・ザ・ダーク理事。バースセラピスト。心にトラブルを抱える人のメンタルケアおよび末期がんを患う人へのターミナルケア、グリーフケアは多くの医療者から注目を集めている。現在は視覚障がい者、聴覚障がい者、後期高齢者とともに行うソーシャルエンターテインメント、ダイアログ・ダイバーシティミュージアム「対話の森」を主宰。著書に『さよならの先』『いのちのバトン』、『エールは消えない ―いのちをめぐる5つの物語―』最新刊『暗闇ラジオ対話集 ―DIALOGUE RADIO IN THE DARK―』など。

 

>>一般社団法人ダイアローグ・ジャパン・ソサエティ

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NPO法人STAND代表の伊藤数子さんと二宮清純が探る新たなスポーツの地平線にご期待ください。

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