際立つ野球センスと観察眼、勝負強さから、「くせ者」と評された元木大介さん。2019年から務めた巨人のコーチを終え、当HP編集長・二宮清純と2023年シーズンを振り返る。

 

二宮清純: まずは5年にわたるコーチ生活、お疲れさまでした。今シーズンを振り返って、やはり阪神は強かった?

元木大介: 強かったですね。阪神(6勝18敗1分け)と広島(8勝17敗)には、とにかくやられました。

 

二宮: 阪神は、岡田彰布監督の復帰1年目で38年ぶりの日本一。戦っていて、何かチームの変化は感じましたか。

元木: あくまで私の印象ですが、選手が危機感をもってやり出したように見えました。「このまま流されてやっていてもダメなんだ」というような空気ですね。一番分かりやすかったのは、調子を落としていた佐藤輝明選手を6月に2軍へ落としたこと。1軍に戻ってきた時は雰囲気が変わっていて、実際に8月後半から打ち出しました。

 

二宮: 阪神は四球数でリーグトップ(494個)。4番・大山悠輔選手の四球数1位(99個)が象徴するように、チーム全体として粘り強く戦っていたように思います。

元木: 確かに粘り強かったです。とにかくボール球を振らなかった。特に1番・近本光司選手と2番・中野拓夢選手は、初球はまず振ってきません。また、追い込まれてもセンターから逆方向に打つ。そうすることで打線がしっかり“線”になっていました。

 

二宮: 最多セーブ(35セーブ)のタイトルを獲得した岩崎優投手を筆頭に、リリーフ陣も安定していました。

元木: 各々がきちんと仕事をしていた印象です。中盤で多少のビハインドがあっても、リリーフ陣が抑えている間に追いつき追い越す展開が多かった。それこそ、こちらが1~2点リードしていても勝っている気がしませんでした。

 

二宮: ひっくり返されるのではないかと……。

元木: はい。先頭打者が四球で塁に出ると、「これが点につながるのではないか」という目に見えないプレッシャーがありましたね。

 

二宮: 岡田監督は中野選手をショートからセカンドにコンバートしましたが、元木さんの目から見て阪神の二遊間は安定していましたか。

元木: 当初、中野選手のコンバートを聞いた時は、ラッキーと思いました。というのも昨シーズン、中野選手の守備がとても良くなっていた。それがコンバートで不安定になるのではないかと思ったんです。ところが、セカンドも器用にこなし、プレーにも余裕がありました。何より驚いたのは、ショートの木浪聖也選手の成長です。自分に与えられたチャンスを生かす必死な姿、あれこそがプロだと思います。

 

二宮: 確かに、前年は41試合の出場だった選手が、ゴールデン・グラブ賞を取ったわけですからね。今年の阪神を見ていると、岡田監督は基本に忠実な昭和の野球を再現したような印象を受けます。

元木: 最近は、どの球団もエンドランなど足を絡めた野球が主流で、送りバントは減ってきています。その点、阪神は送りバントをきっちり決めてくるし、時には1アウトでも送り、得点圏に確実にランナーを進めてきました。そういう意味では、昭和的な野球だったかもしれませんね。逆に巨人は、送りバントの成功率は低かった。そのあたりの差も出たと思います。

 

二宮: 巨人の戦いぶりについてもお聞きしたいのですが、2年連続で4位と低迷しました。そこにはさまざまな理由があると思いますが、コーチとしての元木さんの感想は?

元木: つい先日までチームにいた身なので、あまり“こうだ”ということは言いづらいのですが……(苦笑)。ただ、個人的には打線を固定できなかったことが大きかったと思います。

 

二宮: 固定されていたのは、4番の岡本和真選手だけですね。打線は組み替えざるをえなかったのでしょうか。

元木: 基本は負けた時に打線をいじるのがセオリーですが、今年は勝っていてもいじっていました。オーダーを決める時は、相手の先発ピッチャーが左だから右とか、バッターとの相性がどうだとか、いろいろなデータを参考にするのですが、それを意識しすぎたきらいはあるかもしれません。それによって流れがつくれない、つまり打“線”にならなかった感じです。巨人はホームランも打率もリーグトップでしたが、結局“点”で終わってしまった。相手にとって数字ほどの脅威にはならなかったでしょうね。

 

二宮: 守備の面では、シーズン終盤に坂本勇人選手がショートからサードに回りました。年齢的にショートは、もうきつくなったのでしょうか。

元木: 肩(スローイング)や守備範囲の面では、きついですね。そんな中、門脇(誠)が出てきて、その姿を見てサード転向を素直に受け入れられたのだと思います。

 

二宮: 内野手出身の元木さんから見て、門脇選手の良さは、どこにあるのでしょう?

元木:グラブさばきこそまだ坂本のほうが上ですが、肩と守備範囲の広さはすごいですね。それこそ、坂本の若い頃を彷彿させます。打撃面もシーズン終盤にかけて上向いてきましたし、何より野球と向き合う姿勢がいい。

 

二宮: ほう、それは具体的に言うと?

元木: 入団1年目ということもあって、私はあれこれ言わず、「自分のペースでやりなさい」とだけ伝えたんです。それがずっと見ていても、本当に手を抜かない。それでいてノックの量が減ってきて、「疲れているんだろうな」と思っていると、きちんと自分からコミュニケーションを取ってくる。いずれレギュラーになるだろうと思って見ていましたが、すぐに実現した。来年も楽しみな選手の1人です。

 

二宮: 坂本選手がサードに入ったことで、岡本選手はファーストを守ることが多くなりました。

元木: 岡本のサードの守備はうまいのですが、それでも注意されることがありました。その辺で本人も悩んでいた節があって、それがファーストに回ってリフレッシュできたようです。実際、シーズンの最後はファーストのほうが生き生きとしていました。

 

(詳しいインタビューは12月28日発売の『第三文明』2024年2月号をぜひご覧ください)

 

元木大介(もとき・だいすけ)プロフィール>
1971年12月30日、大阪府豊中市生まれ。小学2年からボーイズリーグで本格的に野球を始める。上宮高校(大阪府)で甲子園に3回出場(88年春、89年春夏)。甲子園通算6本塁打は歴代2位タイ。89年のドラフト会議で福岡ダイエーホークス(現・福岡ソフトバンクホークス)に1位指名を受けるも、入団を拒否してハワイに留学。翌年のドラフト会議で巨人に1位指名を受け、91年に入団した。2年目から1軍に定着し、バッテリー以外ならどこでも守るユーティリティ・プレーヤーとして長く活躍。2005年に現役を引退。18年、監督としてU-12日本代表を率いて世界少年野球大会優勝。19年、巨人の1軍内野守備兼打撃コーチに就任。以降、23年まで巨人でコーチを務める。現在は「ジャイアンツアカデミー」校長。通算1205試合、891安打、66本塁打、378打点、打率2割6分2厘。


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