アンビリーバブルや!

 

 伝説的バスケットボール漫画「スラムダンク」に登場する相田彦一の口癖ばりに、心のなかで叫んでしまった。

 

 3月16日、東京・味の素スタジアムで行われた東京ヴェルディとアルビレックス新潟の一戦。前半8分だった。ゴール正面やや左、約30mの距離、直接FKのキッカーはレフティーの山田楓喜。短い助走からコンパクトに左足で振り抜いたボールは、壁の外側に立つ谷口海斗と舞行龍ジェームズの間を通り抜けて高速のまま曲がりながら落ち、GK小島亨介の右手を弾いてゴールマウスに吸い込まれた。

 

 軌道はイメージより多少中に入ったかもしれないが、ボールに威力があったためにGKも届いたとはいっても前には弾きだせなかった。それも頭に入れて計算したうえでの一発だったに違いない。

 

 山田はプロ5年目の22歳。京都サンガU-18から2020年にトップ昇格し、世代別の日本代表に選ばれるなど高いポテンシャルを買われながらもなかなかレギュラーに定着できず、今季ヴェルディにレンタル移籍して新潟戦まですべてスタメンで出場している。

 

 横浜F・マリノスとの開幕戦(2月25日)に続くFK弾。筆者は幸いにも記者席でいずれも〝目撃者〟になることができた。アンビリーバブル度で言えば、新潟戦と甲乙つけがたいほどのインパクトを残した。

 

 前半7分、ペナルティーエリア手前右からの直接FK。ファーを狙うかと思いきや、短い助走からニアを射抜いたのだ。

 

 このシーンを見て思い出したのが、2016年3月、F・マリノス時代の中村俊輔がアウェイのアビスパ福岡戦で決めたゴールである。同じような位置から中に合わせると見せかけて、ニアに決めている。

 

 同じレフティーではあるが、中村のFKはどちらかと言うと〝フワリ系〟に近く、逆に山田は〝グサリ系〟に近いと言えるだろうか。開幕戦ではからずも山田と中村のFKが重なったが、それは新潟戦もまた同じ。壁を越えてから曲げて落とすハイレベルな技術というのも似たものを感じることができた。

 

 ただ山田がちょっと異質だと感じるのは、開幕戦は前半7分、新潟戦は前半8分と開始早々に決めていることだ。中村の場合は試合のなかでキックの感覚をチューニングしつつ、相手の情報も集めていくので一発目のFKというよりは勝負どころの〝温まったころ〟で決めている印象が強い。

 

 実際、このように語ってくれたことがある。

「自分の場合、トップ下でプレーするほうが(セットプレーで)優位に立ちやすいと気づかされた。ボールにも多く絡めるし、ゲームに集中して体も頭もよく動くからフリーキックの調子も上がっていく。相手の情報収集ばっかり考えてもうまくいかないときはダメだし、集中しているときは何も考えなくても感覚だけで入ることだってある。だからきょうは〝情報収集パターン〟なのか〝感覚パターン〟なのか見極めることも大切にはなってくる。ただ、もちろん1本目から決めるつもりではいるけど」

 

 つまり最初のチャンスで決めるのは、日本が誇る名プレースキッカーであってもなかなかに難しいということ。しかし山田は2試合いずれも〝温まる前〟に決めているのだから、いかに凄いかが理解できる。

 

 今回、国際親善試合2連戦(22日U-23マリ代表戦、25日U-23ウクライナ代表戦)に臨むU-23日本代表に選出された。来月に開催されるパリオリンピック最終予選兼U-23アジアカップ(カタール)も控えており、セットプレーのキッカーとして期待が高まっていることは言うまでもない。

 

 アンビリーバブルなFKを磨いて日本の新名手に。山田楓喜はその大きな可能性を秘めている。


◎バックナンバーはこちらから