このところ連日盛り上がるWBC(world baseball classic)。そんなに野球好きではない私でも、やはり日の丸をつけた日本代表が頑張っている姿をみるのは嬉しいし、気分が高揚してくる。こんな時には「僕も日本人だよなぁ」と強く感じたりして。
(写真:大きな注目を集めた今回のサムライジャパン)
 でも、現地の様子を見る限り、「WBCって本当に盛り上がっているの?」と少々疑問になった。アメリカ人の友人に様子を聞いてみると〜「興味ない!」の一言。予選ラウンドは英語の中継さえなかったという(スペイン語はあったそうだ)。日本では連日1面を飾っているのに……これはいったいどういうこと!?

 最初に断っておくが、私は決して日本代表にケチをつけるつもりもないし、彼らの懸命さはちょっとプロ野球に飽きている者でさえ振りかえさせるものがあると思っている。しかし、日本での報道とアメリカでの現状があまりにも落差があり、素直に飲み込めないのが正直なところ。

 友人から言わせれば、MLBの選手は日本と違ってシーズンのスタートが遅い。春先のこの時期は故障しないようにじっくりと仕上げてくるのが通例で、このタイミングで「数週間にも渡って全力を尽くせ」というのはスケジュール的にかなりやりにくい。だからこそ投球制限などのルールで選手を守る仕掛けを作ってある。さらにそれによって、MLB各球団に選手を借りることを承諾してもらっているというのが現状だ。
 アメリカのファンもこれらを理解しているので、この時期の選手にハイパフォーマンスを求めないし、争いに盛り上がりはない。NPBのオープン戦を見ているような感覚だとか〜。その言葉を裏付けるように、1次ラウンドの北米での試合のスタンドはガラガラ。寒いのは気候のせいだけではないだろう。

 しかし、日本のメディアは「これぞ世界決戦」と言わんばかりの盛り上げ。ちょっとビジネス臭さを感じてしまうのは私だけだろうか。盛り上げるだけなら悪くないが、ある新聞の解説者などは「野球は世界王者だし、練習は公開しファンサービスに努めているのにサッカーはなんだ。世界ランキングは低いし、練習もすぐに非公開ときた。野球を見習え!」と他スポーツと比較し、非難する趣旨の論説まで書いていた。

 WBCは予選を含めても16カ国しか出てないし、肝心の米国あたりはベストメンバーさえ送り込まない。もちろん種目が違えば戦術も大きく違うので練習方法も異なることが多い。それなのに他スポーツと比較する感覚は、本当にスポーツを理解されているのかと心配になってしまった。日本選手が頑張っているのは事実だし、それを報道するのは当然だが、記者ならそのバックネット裏を解説し、問題提起くらいしてほしいところだ。

 野球の世界的な盛り上げを狙って、MLB主導で開催されたWBC。でも各球団にとっては、それよりも自分たちのシーズンが大切ということで選手を出さない。選手もシーズンをにらんで自ら辞退していく。「誰から給料もらってんの?」と言われればその通りで、日本でも中日・落合博満監督の「プロ野球選手は個人事業主。故障をした時の保障もないし、自分のことを考えるのは一番の権利。理想論を掲げられて一番困るのは選手だ。みんな出てくれると思っているのが大間違い」という発言に代表されるように同様の問題がくすぶっている。

 本当に野球を盛り上げたいのなら、MLB、NPB揃って開催時期、選手保障について考えないと変わるはずもないだろう。このままではこの大会の行方はもちろん、オリンピック復活までの道のりも長くなりそうで……。


白戸太朗(しらと・たろう)プロフィール
 スポーツナビゲーター&プロトライアスリート。日本人として最初にトライアスロンワールドカップを転戦し、その後はアイアンマン(ロングディスタンス)へ転向、息の長い活動を続ける。近年はアドベンチャーレースへも積極的に参加、世界中を転戦している。スカイパーフェクTV(J Sports)のレギュラーキャスターをつとめるなど、スポーツを多角的に説くナビゲータとして活躍中。08年11月、トライアスロンを国内に普及、発展させていくための新会社「株式会社アスロニア」の代表取締役に就任。
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