予想はされていたが、野球やソフトボール関係者には辛いニュースが飛び込んできた。
「国際オリンピック委員会(IOC)は13日、ドイツ・ベルリンで理事会を行い、2016年夏季五輪で行う競技としてゴルフと7人制ラグビーの2競技を推薦した」
 これにより、ロンドン五輪で除外された野球、ソフトボールの復帰はならず、2020年五輪以降の復活を目指すことになるのだが……。
(写真:北京五輪では悲願の金メダルを獲得したソフトボール日本代表)
 この反応として、さまざまな競技関係者のコメントが出ているが、野球関係者の発言の中には、「国内と世界の事情を混乱していないか?」と思われるのが少なくない。
 確かに野球は日本では人気があり、普及度も高いし、視聴率もスポンサーもとれる。スター選手も協力的だし、「こんなスポーツが他に劣るはずがない!」というような発想があるようだ。しかし、国外の事情はまったく異なり、野球というものを見たことも、聞いたこともない人が多いのが現状である。

 こんな経験をしたことがある。数年前、ある海外のトライアスロン大会の後で、地元の選手たちが我々海外選手を招いて打ち上げのバーベキューをやってくれた。そこはアメリカ系の自治区であった島らしく、バーベキューの後は流れで草野球をやることに。しかし、ヨーロッパの選手はルールを知らないので、うまく試合を進められない。あるスイスの選手は、打ったとたんに逆方向へ走りだすし、イギリスの選手は、後ろに打っても1塁へ走って行ってしまった。そう、彼らの文化の中にはクリケットはあっても、野球というスポーツは全くないのだ。

 このような事実を正しく認識し、対応を考えないといつまでたっても野球がオリンピックに戻ることなどない。このところのオリンピックでも、ガラガラの野球場を見る機会のなんと多いことか。
 他にも問題はある。
1.野球場をつくっても期間中はもちろん、五輪後にも他に使い道がない。
2.プロの試合が多すぎて、プロが参加に消極的。
3.上位数カ国が強すぎて、それ以外の国が簡単には追いつけない。
4.試合時間が長くて、五輪のテレビ中継に向いていない。
(写真:五輪で再び野球日本代表のユニホームが見られる日は来るのか)

 特に1、2番目の問題は深刻で、ここが改善されない限り状況が好転する見込みはないだろう。ただ、肝心のアメリカ国内の世論を見る限り、それほどオリンピックの正式競技化に盛り上がっていない模様。これでは当分、野球のオリンピック復帰はないのかもしれない。

 野球より深刻なのがソフトボールだ。野球はオリンピックがなくなっても、プロも盛り上がっているし、WBCもある。しかし、ソフトボールはこれに値するものがない。国際的にはもちろん、国内での盛り上がりにも影響が出てくるだろう。見方を変えれば、国際的なポジションが、この状態だからこそ落選した訳で、まずは競技団体を中心にその環境をつくる努力をすることが重要になる。単に日本が強いとか弱いだけの問題ではないのだ。

 確かに国内では落選の影響が大きいかもしれないが、実際にはスポーツの中でオリンピックに入っていない種目のほうが多い。五輪にとらわれず、もう一度このスポーツの素晴らしさを、子供たちを中心に地道に説いていってほしい。幸いにも日本には優れた指導者や選手がたくさんいるはず。その財産を有効に活用し、未来への道を切り開いてほしいと思う。

 捨てる神あれば、拾う神あり。逆に今回、光を見出した種目もある。ゴルフと7人制ラクビーだ。ゴルフは最初から当確だったと言っていいだろう。ゴルフくらい知名度もあり、トッププレイヤーや団体までもが応援した競技ならば、受け入れられない理由を探すほうが難しい。

 そして、ラクビーはあえて7人制を押したことが功を奏した。知名度のある15人制ではコンパクト化を進める現体制に受け入れられにくいし、強豪国とそうでない国との格差もつきやすい。また「オリンピックに採用されたならば、世界選手権の種目からはずす」といった、IOCが認めやすいような状況をつくりだした。五輪競技入りを目指す他種目が多いに参考にすべき点であろう。

 憂うのは、今回の決定で、国内の東京オリンピックへの招致機運が下がってしまう事だ。特に招致委員には野球関係者の方も多い。1種目の小さな視野にとどまることなく、国内のスポーツ発展という大きな見地にたって発言、行動してくれることを望みたい。

 スポーツにとってオリンピックがすべてではないし、これだけに固執することもない。ただ、現状として、オリンピックが与える影響があまりにも大きいのが事実。オリンピックに振り回されるだけではなく、オリンピックとどう付き合い、どううまく利用するのか。たかがオリンピック、されどオリンピック……。

 2016年五輪開催地が決まる10月2日まで残すところ、あとわずかだ。


白戸太朗(しらと・たろう)プロフィール
 スポーツナビゲーター&プロトライアスリート。日本人として最初にトライアスロンワールドカップを転戦し、その後はアイアンマン(ロングディスタンス)へ転向、息の長い活動を続ける。近年はアドベンチャーレースへも積極的に参加、世界中を転戦している。スカイパーフェクTV(J Sports)のレギュラーキャスターをつとめるなど、スポーツを多角的に説くナビゲータとして活躍中。08年11月、トライアスロンを国内に普及、発展させていくための新会社「株式会社アスロニア」の代表取締役に就任。
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