先月に続き、今月も代表戦がありました。10月8日から14日にかけての国内3連戦。しかし、先月のオランダ遠征とは異なり、対戦相手のレベルには疑問符が付きました。初戦の香港戦はアジアカップ予選ということで、やむを得ないところがありますが、続くスコットランド、トーゴといったチームはメンバー構成がひどかった。あのメンバーと対戦したところで本当に強化試合と言えるのでしょうか。

 結果は日本が圧倒的な強さをみせて3連勝。奪ったゴールは13で、失点もなし。とはいえ、来年6月の南アフリカでこんな結果が残せるわけはありません。結果で評価することはできないほど、まともな勝負になっていませんでした。

 今回は多くの選手が招集され、試合にも出ましたが、最も光った選手は本田圭佑(VVVフェンロ)ではないでしょうか。得点を取らなければいけないという姿勢は、岡田ジャパンの中でも最も強く表現していますね。彼がボールを持つと、得点シーンにつながる動きが随所に見られました。今後、強い相手とぶつかった時、プレッシャーがかかった場面で彼特有の力強いプレーができるかがポイントです。もちろん、フィジカルコンタクトも強い欧州リーグで認められる存在になっているわけですから、そんな心配も杞憂に終わることでしょう。

 出場した試合で確実に得点を奪っているところもいいですね。たしかに、3連戦の2ゴールは他選手のお膳立てがあって、ゴールに流し込むだけのシュートでした。ただ、アタッカーとして、そのポジションにいることができるのは本田の持つ独特の嗅覚と言えるでしょう。積極的にゴール前へ顔を見せようとする、その姿勢がゴールにつながっています。やはり点を決めるというのは大事な仕事ですから、その点でも他の中盤の選手にないものを持っているように感じます。代表に合流したばかりの頃は、周りとの連係面で課題がありましたが、それも徐々に解消されており、今後の日本にとって欠かせない存在になってきました。

 もう一人、待望の選手が代表デビューを果たしました。岩政大樹(鹿島)です。やっと出てきてくれましたね。スコットランド戦ではタイトなマークと打点の高いヘディングでしっかりとセンターバックとしての役割をこなしていました。なによりも、自分がアピールしなくては、がんばらなければという気持ちが前面に出たプレーふりがよかった。これまで中澤佑二(横浜FM)、田中マルクス闘莉王(浦和)に続くセンターバックがなかなか現れませんでしたが、岡田監督にとっても計算のできる選手が入ったと考えていいでしょう。2人のバックアップというだけでなく、試合終了間際のパワープレーでも力を発揮できる岩政は、日本にとって大きな武器になる予感がします。このまま本大会に向けたサバイバルを勝ち抜いて欲しいものです。

 しかし、冒頭にもお話いたように、マッチメイクに問題があったと言わざるを得ません。いくら親善試合を戦っても相手のレベルが水準に達していなければ、チーム内で確認はできても、本当の力を測ることはできません。聞くところによると、来月のインターナショナルマッチデーには、イタリアからアウェー戦の打診があったそうです。それも、日程の都合上流れてしまったとのこと。スケジューリングが難しいこともわかりますが、欧州の強豪国からも声がかかるようなW杯常連国になってきているわけです。代表をバックアップするサッカー協会も、世界における位置をしっかりと把握し、興行面だけでなくしっかりとしたマッチメイクを求められる時期になってきています。これは、今後の代表強化にとって大きな課題といえます。本大会までの少ない時間をいかに実りの多い時間にできるか。それは代表監督や選手だけでなく、関係者全員に問われている命題と言えるでしょう。

<川崎を追いかける鹿島、ガンバに備わっているもの>

 さて、混戦のJリーグでは、優勝争いを抜け出すクラブは現れていません。18日に行なわれた第29節では、前節で10年ぶりの首位に立った清水エスパルスが最下位の大分トリニータに敗れる波乱がありました。清水にとって14試合ぶりの黒星でしたが、首位にいたクラブが一気に4位にまで順位を下げたことのは驚きです。優勝を争っていても、星をひとつ落とせばACL出場も果たせない。それだけ、多くのクラブが団子状態になっています。泣いても笑っても09シーズンはあと4試合。1カ月後にはクライマックスがやってきます。

 現在の順位表に目をむけると、首位は川崎フロンターレで勝ち点55。続く鹿島アントラーズが勝ち点1差で2位。3位ガンバ大阪が勝ち点51で4位の清水が49ですね。5位のFC東京も49ですから優勝の可能性がないとはいえません。クライマックスへ向け、どのようなドラマが待っているのでしょうか。

 鹿島の失速で混戦となった首位戦線ですが、シーズン終盤になると上位3クラブは昨年の顔ぶれと同様です。名古屋グランパスが波に乗り切れず中位にいますが(ACLでも惜しくも敗退)、他の3クラブは定位置で優勝を争っています。やはり海外での試合を経験したクラブはチーム全体の力が底上げされている印象があります。ACLの舞台ではJリーグに比べ、スピーディーな展開が見られました。ボールの動きも早く、必然的に判断力の素早さが求められます。アジアでの戦いを通してスピード感のある展開に身をおくと、Jリーグでのプレーに余裕がでるのかもしれません。上位クラブはいいサッカーをしている時に、他クラブにない精神的な余裕を感じます。これが優勝争いに食い込む理由でしょう。

 上位クラブはどこも負けられない戦いが続きますが、首位に立つ川崎の優位は動かなそうです。得点力の高さももちろんですが、失点も少ないため得失点で他を大きく引き離しています。この混戦では、勝ち点以外でもアドバンテージがあるのは非常に大きい。鹿島と勝ち点1差ですが得失点差を考えれば、実際は2差あるようなものです。11月3日にはFC東京とのヤマザキナビスコカップ決勝も控えていますが、そこで初タイトルを奪取すれば一気にリーグ戦とあわせ2冠制覇となっても不思議はありません。

 この大混戦ですが、第31節と32節の2試合で優勝の行方は一気に絞られるように思います。川崎は千葉、大分と下位クラブとの連戦。鹿島は山形、京都。ガンバは京都と清水の試合です。ここで川崎が連勝するようなことになると、首位の座は確固たるものとなります。もちろん追いかける鹿島、ガンバ、清水も勝ち点を1つでも多く積み重ねなければいけません。川崎にとってプレッシャーになるのは、優勝経験がないこと。勝ち方を実際の経験として身につけてはいません。片や、追いかける鹿島とガンバは優勝を経験しているクラブ。特にじわじわと終盤に上がってきたガンバの存在は、川崎にとって頭の痛いところでしょう。終盤にもうひと山あるかと思いますが、まずはこの2試合をうまく切り抜けたクラブが優勝の栄冠を手に入れることになります。

<降格圏の千葉2クラブに落胆>

 優勝争いも見逃せませんが、残念なのは千葉県勢の低迷です。シーズン序盤から連敗を続けた大分トリニータの降格が決まっていますが、残り2枚のJ2行きのチケットは千葉と柏に回ってきそうです。残り4試合を残して残留圏内まで勝ち点差12の千葉は、来週にも降格が決定するでしょうし、柏も極めて厳しい状況です。千葉といえば、全国屈指のサッカーどころです。高校サッカーで千葉代表になれば、それだけで全国の名門校からマークされる存在になります。そんな土地にあるJ1の2クラブが同時にJ2へ降格というのは寂しい限りです。私も千葉出身ということで、悲しい気持ちになっています。

 両クラブとも昨季も下位争いを演じていたわけですから、チームの建て直しには時間があったはずです。昨年の千葉は最終節で劇的な残留劇を演じましたが、逆にいえば、今年もJ2行きが見えていたわけでしょう。それでも効果的な策を打つことはできず、振り返れば序盤に大きく躓いた大分にも抜かれそうな状況です。

 来季J2に行った場合も、1年で再昇格しなければどんどんと厳しい状況に追い込まれます。J2、1年目ならばスポンサーも離れずに資金面で強力を得られるかもしれませんが、1シーズンで戻れないようならばクラブの支援体制もだんだんと脆弱になっていきます。今季の横浜FC、東京ヴェルディも厳しい戦いを強いられていますね。

 千葉は93年のリーグスタートからJリーグを盛り上げてきた存在です。それだけにJ2の厳しい日程に慣れていません。来季での昇格を果たせなければ、厳しい道が待っています。J2での千葉ダービーは寂しい限りです。両クラブの来季に向けた再建計画に期待したいものですね。

● 大野俊三(おおの・しゅんぞう)<PROFILE>
 元プロサッカー選手。1965年3月29日生まれ、千葉県船橋市出身。1983年に市立習志野高校を卒業後、住友金属工業に入社。1992年鹿島アントラーズ設立とともにプロ契約を結び、屈強のディフェンダーとして初期のアントラーズ黄金時代を支えた。京都パープルサンガに移籍したのち96年末に現役引退。その後の2年間を同クラブの指導スタッフ、普及スタッフとして過ごす。現在、鹿島ハイツスポーツプラザ(http://business2.plala.or.jp/kheights/)の総支配人としてソフト、ハード両面でのスポーツ拠点作りに励む傍ら、サッカー教室やTV解説等で多忙な日々を過ごしている。93年Jリーグベストイレブン、元日本代表。

*ZAGUEIRO(ザゲイロ)…ポルトガル語でディフェンダーの意。このコラムでは現役時代、センターバックとして最終ラインに強固な壁を作った大野氏が独自の視点でサッカー界の森羅万象について語ります。


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