今月上旬に行なわれた東アジア選手権で日本代表は1勝1敗1分けの3位に終わりました。海外組がいない状況でのベストメンバーで臨んだ試合でしたが、DF面で不安を残した上に、攻撃のバリエーションも少なく、課題と不満の残る内容でした。

 一番の問題点はとにかく得点が入らないことでしょう。本当にゴールが遠かった。日本はホームで戦いながら、国と国との戦いをするんだという意欲が欠けているように見えました。どんな形でもゴールを奪うんだという姿勢を、選手たちはもっと見せなければなりません。日本人は1993年にJリーグが開幕してから、サッカーの技術について飛躍的に進歩しましたが、得点を奪う能力や戦う意識については進歩がほとんどありません。それどころか、私が代表にいた90年代の代表チームよりも、その面では後退しているように思えます。もっと戦う集団にならなければ南アW杯では絶対に勝つことはできません。

 大会を通じて全くといっていいほど、FW陣に怖さを感じませんでしたね。ゴール前に走りこんできても、彼らの走るコースはゴールではなく外へ向いている。これは相手DFにとって非常に守り易いことなんです。本来、DFはFWを外へ追い出そうという動きをするのですが、日本のFW陣は自らアウトサイドに開いてくれるのですから、こんなに楽なことはありません。逆に、体ごとゴールに突っ込んでいくような選手が前線にいるとDFは脅威に感じます。ボールに少しでも追いつこうとして、足先を伸ばすような選手も嫌ですね。東アジア選手権では、岡田武史監督は玉田圭司(名古屋)と岡崎慎司(清水)の2トップを起用しました。しかし、2人とも明らかに同タイプの選手です。スピードでラインの裏に抜け出していくというだけでなく、2人はどんどんアウトサイドへ流れていった。この2トップでは格下相手ならば通用するかもしれませんが、少しでも実力のある相手では通用しません。ある意味、それを再認識できたことが、今大会の収穫と言えるのではないでしょうか。

<口酸っぱく言われた“ジーコの教え”>

 東アジア選手権で代表に復帰した小笠原満男(鹿島)も練習では良い動きを見せていたようですが、試合ではうまく自分を表現することができませんでした。言うまでもなく、これでは何の意味もありません。私も現役時代、ジーコから何度も言われた言葉があります。「練習のための練習では意味がないんだ。練習でできたことを試合でもできるのかを考えなければいけない。試合中に偶然できるのではダメなんだ」と常に教えられました。現在の代表チームに対し、ジーコの言葉を贈りたいですね。このままでは海外組が入ってきたら、国内の選手はほとんどメンバーから外れてしまいます。国内組で常に安定した力を発揮できているのは、遠藤保仁(G大阪)、稲本潤一(川崎F)くらいでしょうか。

 パスをきれいに回したがる日本にとって、実戦してもらいたいのがミドルシュートです。特に本田圭佑(CSKAモスクワ)や小笠原にはどんどんゴールを狙ってもらいたい。この二人はクラブでは常にゴールを意識して動いています。その動きを代表にも持ち込んで欲しい。日韓戦で韓国に奪われた2点目はミドルシュートでした。彼らにあって、日本にないもの。それは思い切りのよさでしょう。とにかく枠へ向かうシュートを放てば得点の可能性は生まれるのです。積極果敢にゴールを狙い、シュートエリアを拡げることで、DFは前に出てこざるを得ません。そうなればゴール前でスペースを使うこともできますし、ミドルシュートの跳ね返りを1.5列目の選手が押し込むこともできます。とにかく攻めが単調になりがちな日本代表。岡田監督には状況を打破するような、色々なタイプの選手を試してほしいと思います。
 
 東アジア選手権直後には監督解任論が世間を騒がせましたが、ここまで引っ張ったのだから今さら監督を交代してもいいことはありません。岡田監督の中には、今まで蓄積してきた選手の組み合わせがあるはずです。それを全て放棄することは代表チームにとってプラスになるとは思えません。しかし、代表チームにはもう少し遊び心というか、余裕がほしいですね。監督自身も身構えてしまって、何かマスコミ対応に追われて防御線ばかり張っているように見受けられます。様々な重圧があるかと思いますが、もっとプレッシャーを楽しんでもらわなければ、選手まで萎縮してしまいます。もっと自由な発想を選手に持たせていいようにも思います。「監督に言われたことをこなしているからそれでいい」ということではなく、チームを支えるコンセプトや方法があっても、実際にプレーするのは選手たちなんです。サポーターを熱くさせるようなイマジネーション溢れるプレーをもっと見せて欲しい。遠藤や小笠原にはそれをできる能力もあるはずです。セットプレーで中澤佑二(横浜FM)や田中マルクス闘莉王(名古屋)に頼っているばかりではいけません。

 小手先の技術ばかり持っていても、サッカーでは勝てません。それを再認識できた東アジア選手権を意味のあった大会にするためにも、3月のバーレーン戦、4月のセルビア戦では戦う気持ちと攻めの姿勢を私達に見せて欲しいものです。

<4連覇のカギは“世代交代”>

 3月6日(土)にJリーグが開幕します。3連覇を達成している鹿島アントラーズを止めるクラブが現れるのでしょうか。鹿島にとっては4連覇ももちろんのこと、これまで成績を残せていないアジアチャンピオンズリーグ(ACL)のタイトル奪取も大きな目標になります。

 鹿島にとってキーマンになる選手はもちろん小笠原や本山雅志ですが、彼らが長いシーズンで常にトップコンディションを維持することは難しいように感じます。実際、本山は負傷しており開幕戦のピッチには立てません。そこで、野沢拓也や内田篤人といった次の世代にクラブをどんどん引っ張っていってもらいたいですね。特に内田は代表でも経験を積んでいます。それをクラブに還元していってほしい。W杯もあり厳しい日程が続いていきますが、今季はどこも鹿島を目の敵にして試合に臨んでくるでしょう。「ゲームコントロールのキーマンを次の世代へ」と考えれば、内田や野沢の役割は非常に大きくなります。彼らがこれまで以上の活躍を見せれば、4連覇と悲願のACL制覇に向けて視界は一気に開けてきます。

 鹿島を追うグループで警戒しなければならないのは、やはりガンバ大阪でしょう。西野朗監督の下、スタイルを変えずに攻撃サッカーを展開していますが、その完成度の高さはリーグ随一です。代表において不動の中心である遠藤の存在感はクラブでも際立っていますし、周りの選手との呼吸もピタリと合っています。長いシーズンでコンディションを保つことに成功すれば、上位進出だけでなく5年ぶりのリーグ制覇も十分射程圏に入ってきます。

 Jリーグも開幕を迎え、いよいよ南アフリカW杯への気運が盛り上がってきます。サポーターのみなさんもJの舞台で代表選手の戦いぶりをチェックし、代表チームを盛り上げてもらいたいですね。

● 大野俊三(おおの・しゅんぞう)<PROFILE>
 元プロサッカー選手。1965年3月29日生まれ、千葉県船橋市出身。1983年に市立習志野高校を卒業後、住友金属工業に入社。1992年鹿島アントラーズ設立とともにプロ契約を結び、屈強のディフェンダーとして初期のアントラーズ黄金時代を支えた。京都パープルサンガに移籍したのち96年末に現役引退。その後の2年間を同クラブの指導スタッフ、普及スタッフとして過ごす。現在、鹿島ハイツスポーツプラザ(http://business2.plala.or.jp/kheights/)の総支配人としてソフト、ハード両面でのスポーツ拠点作りに励む傍ら、サッカー教室やTV解説等で多忙な日々を過ごしている。93年Jリーグベストイレブン、元日本代表。

*ZAGUEIRO(ザゲイロ)…ポルトガル語でディフェンダーの意。このコラムでは現役時代、センターバックとして最終ラインに強固な壁を作った大野氏が独自の視点でサッカー界の森羅万象について語ります。


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