南アフリカW杯開幕まであと10日あまりです。先日、日本代表の23名が発表され、親善試合も2試合消化しました。本大会を前に足元の覚束ない日本ですが、このまま本大会に突入してしても、大丈夫なのでしょうか。

 まずW杯出場選手23名の顔ぶれについて、ここで改めて触れてみましょう。読者のみなさんや私、サッカー関係者も含めて最も驚いたのは川口能活の選出でした。岡田武史監督は代表発表会見で「川口にはリーダーシップを求める」と発言しました。後日、チームキャプテンに任命された彼は、第3GKとしての仕事とともにチームのまとめ役を期待されているようです。
 ただ、本大会まで1カ月を切った時期に、負傷のためほとんど試合に出ていない選手を招集し、さらにチームリーダーに任命するというやり方は、私は理解できません。では、これまで岡田監督が就任して以来、キャプテンを務めてきた中澤佑二や、司令塔の役割を担ってきた中村俊輔の存在は何だったのでしょうか。もちろん、中澤や俊輔が面と向かって不満を言うことはないでしょうが、チームには戸惑いを隠せない者もいるでしょう。また、Jリーグでも出場機会のなかった川口がいきなり招集されるということは、それまで必死にアピールし続けてきた選手のプレーは何だったのでしょうか。彼らの努力は端から無駄なものだったのでしょうか。そこには正しい競争原理が働いてこなかったように感じます。
 仮に川口をリーダーに据えるならば、今まで招集されていなければおかしいですし、このような招集をサプライズと呼べば聞こえはいいかもしれませんが、これまでチームリーダーを固定できなかった岡田監督の力量を疑わざるを得ません。

<日本の希望は森本のシュート力>

 発表後に行なわれた24日の韓国戦は目を覆いたくなるような試合でした。特にがっかりしたのは遠藤保仁と中村俊の2人です。先月のコラムでもお話したように、彼らを同時に使うことが、もはや限界にあります。先日のイングランド戦では俊輔が左足首の故障のため出場しませんでしたが、仮に本大会までに戻ったとしても遠藤を使うのならば、俊輔をピッチに入れるべきではありません。一方の遠藤も本調子からは程遠い出来でしたね。繰り返しになってしまいますが、日本の中盤はこれまでのやり方では通用しません。イングランド戦ではアンカーの位置に阿部勇樹が入ることで、韓国戦に比べ態勢を整えましたが、このやり方もどこまで通用するかはわかりません。そもそも、本番まで2週間の時期に新しい布陣をチェックすること自体、おかしな状況です。岡田監督の目指すサッカーが見えてこない原因のひとつでしょう。

 韓国戦、イングランド戦と2連敗でしたが、その中で私が期待したいのは森本貴幸です。韓国戦では後半17分、イングランド戦では後半18分と同じような出場時間でした。「自分が何とかしなければ」という意図が見られるプレーを披露してくれました。これまで日本のFWからは危険な香りがほとんどしませんでしたが、森本は常にゴールを狙う姿勢を持っています。たとえば、韓国戦の後半31分、右サイドからやや強引な形で強烈なシュートを見せました。しっかりとミートしたシュートは惜しくもGKの正面を突き得点にはなりませんでしたが、日本人離れしたパンチ力のあるシュートは、この試合で唯一ゴールへの可能性を感じさせてくれました。
 前半21分に大久保嘉人が自らドリブルで持ち込みシュートを放った場面もありました。あれもたしかに惜しいシーンではあります。しかし、大久保のシュートは枠に行っていませんでした。どんなにいい弾道でボールが飛ぼうが、枠をとらえていなければシュートは100%得点になりません。その点、海外で揉まれている森本はきっちりと枠の中にシュートを打ち込む技術を持っている。この差は想像以上に大きいと感じます。
 日本のプレーではありませんが、韓国の先制弾を叩き込んだパク・チソンのシュートも素晴らしかった。あの場面で浮かせたりせず、枠を外さないのが世界標準と言えるでしょう。

<戦う集団になること>

 さて、韓国、イングランドとの親善試合を終了し、日本は4日のコートジボワール戦を最後にW杯本大会へと臨みます。日本代表に対して最も危惧していることは、「自分たちの基本」を持っているのか。つまり、頼るべきスタイルがあるのかということです。過去の歴代監督は、日本代表に合ったコンセプトの上に、個々の力をプラスするというチーム作りをしてきました。岡田ジャパンはどのような戦い方をするのか、これを明確な形で表現できていません。自分たちの目指すサッカーを本番直前で披露すれば、対戦国の知れるところとなります。ただ、現状は日本サポーターや、もしかすると選手すらも自分たちのサッカーがわかっていないように感じます。岡田監督の言うコンセプトを完全に理解している選手はいるのでしょうか。監督から聞こえてくる言葉は、どれも抽象的なものばかり。これでは応援しているサポーターも「今日は日本のサッカーができていた」「まだ目標には物足りない」と判断することすらできません。
 そして何より自分たちの基本がないと、攻め込まれた時に立て直すことができないのです。自分たちが拠りどころにする形がないと、苦しい戦いになった時にあっという間にチームは崩壊します。韓国戦、イングランド戦とノールックパスが通ったシーンはありましたか? チーム内での約束事は皆無に等しいのではないでしょうか。

 ただ、このような心配をするのもW杯1年前ならばわかります。しかし、本番まで2週間を切った時点でこのようなことを考えなければいけないのはとても残念なことです。選手はヨーロッパ合宿に入ってから、これまでよりも話し合いを持ってそれぞれの考え方をぶつけているようです。ここまでくれば、岡田監督も失うものはないはずです。ここまでの苦境をバネにして、いい意味で開き直った思い切りのよい采配を揮ってほしいものです。
 自分たちは、何のために南アフリカまで行くのか。サポーターの想いも、サッカー少年の憧れも、みんな背負っているわけです。まずはチームが1つの方向に向くこと。これがグループリーグ突破に向けた第一歩でしょう。短い時間で戦う集団になれるのは、メンタルな部分を自分たちで強化していくしかありません。4日の親善試合も結果は度外視していいはず。まずは、戦う姿勢を見せて欲しい。戦う集団となって、南アフリカで暴れまわってほしい。そう願わずにはいられません。

● 大野俊三(おおの・しゅんぞう)<PROFILE>
 元プロサッカー選手。1965年3月29日生まれ、千葉県船橋市出身。1983年に市立習志野高校を卒業後、住友金属工業に入社。1992年鹿島アントラーズ設立とともにプロ契約を結び、屈強のディフェンダーとして初期のアントラーズ黄金時代を支えた。京都パープルサンガに移籍したのち96年末に現役引退。その後の2年間を同クラブの指導スタッフ、普及スタッフとして過ごす。現在、鹿島ハイツスポーツプラザ(http://business2.plala.or.jp/kheights/)の総支配人としてソフト、ハード両面でのスポーツ拠点作りに励む傍ら、サッカー教室やTV解説等で多忙な日々を過ごしている。93年Jリーグベストイレブン、元日本代表。

*ZAGUEIRO(ザゲイロ)…ポルトガル語でディフェンダーの意。このコラムでは現役時代、センターバックとして最終ラインに強固な壁を作った大野氏が独自の視点でサッカー界の森羅万象について語ります。


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