ついに南アフリカW杯が開幕した。出場32カ国がたった一つのワールドカップをかけ1カ月間の戦いに臨む。

 南アフリカ大会を考える上でもっとも重要な要素は32年ぶりの南半球開催ということだ。6月から7月にかけて行なわれるW杯は北半球においては夏の大会だった。しかし、南アフリカの首都ケープタウンはこの時期、平均気温はおよそ15度と非常に過ごしやすい。加えて欧州との時差がないために、試合時間は昼・夕方・夜とバランスよく構成されている。炎天下の中行なわれる試合はなく、各国が実力を発揮しやすい舞台設定といえよう。

 今大会の軸国はスペインとブラジルだ。スペインはバルセロナ、レアル・マドリッドといった国内2大クラブのスター選手を中心に、攻撃的なサッカーで世界一の座を狙う。一方のブラジルは、闘将ドゥンガの下規律あるチーム作りを行い、派手さはないが勝てるチームを作り上げた。ブラジル国内での評判は決して高くないといわれるが、最も勝ち方を知っているチームだろう。

 これに続くのは、イタリア人指揮官ファビオ・カペッロ率いるイングランド、国内リーグを立て直し若手選手が力をつけてきたドイツ、スペインに勝るとも劣らない豪華なタレントを並べるオランダ、そして監督となってW杯に戻ってきたディエゴ・マラドーナ率いるアルゼンチンだ。優勝国はこの6カ国から誕生するだろう。

 マラドーナの底力

 私が注目しているのはアルゼンチンだ。これほどエキサイティングなチームはない。エースは世界最高のフットボーラーであるリオネル・メッシ(バルセロナ)だ。所属チームでの彼は、異次元のドリブラーでありゴールゲッターだ。メッシがゴールから30mのところからドリブルを始めれば、もう誰も止めることはできない。いきなりトップスピードに乗ったかと思えば急ブレーキをかけたり、緩急自在だ。さらにシュートの技術も天下一品。コースを狙って落ち着いたシュートを放ったと思ったら、今度は左足で豪快なミドルを突き刺す。メッシを止めるのは素手でヒョウを生け捕りするより難しいかもしれない。

 ただし、これはあくまでバルセロナのメッシのプレーだ。残念ながらアルゼンチン代表のメッシは、これまで輝きを放っていない。バルセロナはメッシを中心に攻撃を組み立てているが、代表ではそこまでの連動性はない。ゴンサロ・イグアイン(レアル・マドリッド)、ディエゴ・ミリート(インテル・ミラノ)、セルヒオ・アグエロ(アトレティコ・マドリッド)、カルロス・テベス(マンチェスター・シティ)と世界を代表する豪華FW陣が顔を揃えているが、かつてマラドーナを支えたバルダーノのようなベストパートナーはまだ定まっていない。

 気になるのは指揮官・マラドーナの指導力だ。監督としての実績のない彼がどうにかアルゼンチンをまとめられているのは、モチベーターとしての才能だ。現役時代から今に至るまでメディアとの確執が絶えないマラドーナ。それでも、代表選手からは意外なほど信頼を集めている。マラドーナはアルゼンチン代表選手にとっても伝説的な存在だ。メッシが「ディエゴと一緒にいると、彼や祖国のために全てを捧げたいという気持ちになる」と語るように生きるレジェントへのアルゼンチン人の忠誠心は日本人にはわからない。日本で言えば長嶋茂雄のような存在か。采配の中身うんぬんではないのだ。

 アルゼンチンはグループBに入り、比較的楽な組み合わせとなった。さらに隣は開催国南アフリカがシードされたグループA。決勝トーナメント1回戦でも先に挙げた優勝候補との対戦はない。おそらく準々決勝までは余力を持って進むことができるだろう。W杯で優勝を狙う国は7試合を逆算して1カ月の大会に臨む。マラドーナアルゼンチンにとって4試合は地固めができる組分けと言っても過言ではない。現時点では下馬評はダークホース的存在だが、それゆえに不気味である。。

 死のグループのカギは北朝鮮!?
 
 アルゼンチンとは反対に、手強いグループに入ってしまったのがブラジルだ。ライバルとなるポルトガル、コートジボワールは一筋縄ではいかない相手。屈強なセレソンのDF陣をもってしても両国のエース、クリスティアーノ・ロナウド(レアル・マドリッド)、ディディエ・ドログバ(チェルシー)をストップするのは容易ではあるまい。ドログバは先日の日本戦で右腕骨折のアクシデントに見舞われ出場は微妙だが、驚異的な回復を見せているという。手負いのドログバを侮ることはできない。

 そして、グループGの伏兵は北朝鮮だ。他の3カ国は間違いなく北朝鮮から勝ち点3を奪う計算をしている。しかし、北朝鮮といえば初出場した66年イングランド大会で強豪・イタリアを下すなど奇跡を起こしベスト8に進出した国だ。今大会では鄭大世(川崎F)が「1試合1得点は取る!」と息巻いている。実際、直前の親善試合でもゴールを積み重ねており、本大会でも強豪を苦しめることになるかもしれない。北朝鮮がグループリーグを突破する可能性は極めて低いが、ここに足元をすくわれたチームが脱落していくことになる。

 鄭大世は在日コリアン3世だ。父親は韓国籍で母親は北朝鮮籍。名古屋市で生まれたパスポートは北朝鮮を選択した。大学は東京の朝鮮大学校に進学し「その頃から北朝鮮代表になりたいと思っていた」と話す。「ワールドカップでプレーするのが夢」と話した鄭が、死のグループでどんなプレーを見せるのか。同時にJリーグのレベルも問われることになる。

 日本は未来志向型のサッカーを!

 最後に日本についても触れておこう。直前の親善試合では4連敗といいところなく南アフリカに乗り込んだ。川淵三郎名誉会長は日韓戦に負けた後、「これが底」と語っていたが、2番底が待っていた。岡田監督の発言はブレまくっている。サッカーのスタイルはプロアクティブ(未来志向型)とリアクティブ(事後対応型)があるが、大会が近づくにつれ、岡田監督は守り重視のリアクティブ型に舵を切っている。「世界を驚かせる」というあの発言はどうしたのか。

 しかし、何が起きるかわからないのがサッカー。カメルーンは最終ラインにほころびが目立つ。イメージとしては「2点はとるが、2点はあげてやる」というサッカー。付け入るスキは十二分にある。3対2で日本。こうなればいいが……。



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