スペインの優勝で幕を閉じた南アフリカワールドカップは、高地での試合が数多く組まれ大会前にはミドルシュートや直接フリーキックが多く決まるのではないかとの予測がありました。

 しかし、蓋を開けてみるとボールのコントロールが効かずにシュートが浮いてしまう場面やサイドチェンジを失敗する場面が目立ちました。ジャブラニという独特なボールの性質もあったかもしれませんが、各国は細かいパスや個人技に頼るサッカーをせざるを得なくなった。そんな中、ゴール前のみならずワンタッチの速いパス回しを披露したスペインが優勝したのは当然の結果だったのかもしれません。

 われらが日本代表もグループリーグで2勝1敗という成績を残し、決勝トーナメント進出を決めました。やはり初戦のカメルーン戦で本田圭佑が落ち着いてゴールを決めたことが大きかった。そして、選手間で話し合いを重ねた結果、戦い方を共有することに成功し、土壇場でチームがまとまったことが16強入りにつながりました。チーム全体で得点を与えないというコンセプトの中、コンパクトに攻守の切り替えができたことでグループリーグを突破に成功しました。

<さらなる高みを目指すためには>

 ただし、決勝トーナメントで上にいくためには攻撃でもっと工夫が必要でした。一発勝負のトーナメントを勝ち進むにはある程度リスクをおいながら前に出ていくことが必要です。ミドルシュートを狙って相手DFを前に出し、そこでDFラインの裏をとるなど積極的に相手ゴールへアプローチする動きが極端に少なかったですね。日本が試合を支配する時間帯もありましたから、相手に引かれた時間にどのように攻撃を組み立てていくか。ここを日本代表は掘り下げていかなければいけません。

 ワールドカップが終わって、次期日本代表監督は未定のままです。候補に上がっている人物は鹿島オズワルド・オリヴェイラ監督やG大阪の西野朗監督など。オリヴェイラはJリーグでの実績は十分ですし、日本人をよく知っているという点でも外国人の中では有力候補になりうると思います。また、西野監督は年齢的にも経験も十分に備わっている方ですから、そろそろ代表監督についてもいい頃ではないでしょうか。サプライズでいえば、アルゼンチン代表監督を降ろされたディエゴ・マラドーナはどうでしょうか。彼ほど南ア大会でテレビに映っていた人物はいません。世界中から注目を集めることになりますし、最高の抜擢人事になるのではないでしょうか(笑)。ただ、彼の場合は日本に入国できない事情もありますから、実現はできそうにありませんね。

 日本の戦い方として、守備も攻撃も全員で行なうということが南アフリカで確立され、選手もサポーターも共通理解ができたように思います。そこで、今度は相手をどう崩すのか、攻撃のスイッチをどのタイミングで入れるのか、それを選手全員が共有することができるのか。そうした戦い方が必要になってきます。攻めのオプションを2つ3つ考えて、連動性を持たせつつ最後には個の力を使う。監督が誰になってもそのような戦い方をする必要がありそうです。

<夏のリーグ戦は“動かないこと”が大切!?>

 W杯中断を経て、Jリーグが再開しました。代表チームに選手を出していないクラブはチームとしてうまく調整ができているようです。中位から上位までの勝ち点はそれほど開いていませんから、ここが開幕という気持ちで残りのシーズンを戦ってほしいですね。まだシーズンの半分も来ていません。うまく立ち回ることができれば、7位や8位のクラブでも優勝を狙えるように思います。

 平日にも試合が行なわれ過密日程になっているJリーグでは、とにかく暑さへのケアをすることが大事です。選手が動くサッカーではなく、ボールを動かし相手を動かすサッカーをしなければいけません。そのためには展開の大きいサッカーをする必要があります。ピッチを広く使い、少しでも相手を走らせれば試合の主導権を握ることができます。カギを握るのは中盤で試合をコントロールできる選手がいるかどうか。鹿島の小笠原満男やG大阪の遠藤保仁、さらには清水の小野伸二などがキープレーヤーになりそうです。

 この夏を乗り切ったクラブが王者に近づくことは間違いありません。“夏場を制する者がJを制す”。シーズンを大きく左右する夏の熱い戦いから目が離せません!

● 大野俊三(おおの・しゅんぞう)<PROFILE>
 元プロサッカー選手。1965年3月29日生まれ、千葉県船橋市出身。1983年に市立習志野高校を卒業後、住友金属工業に入社。1992年鹿島アントラーズ設立とともにプロ契約を結び、屈強のディフェンダーとして初期のアントラーズ黄金時代を支えた。京都パープルサンガに移籍したのち96年末に現役引退。その後の2年間を同クラブの指導スタッフ、普及スタッフとして過ごす。現在、鹿島ハイツスポーツプラザ(http://business2.plala.or.jp/kheights/)の総支配人としてソフト、ハード両面でのスポーツ拠点作りに励む傍ら、サッカー教室やTV解説等で多忙な日々を過ごしている。93年Jリーグベストイレブン、元日本代表。

*ZAGUEIRO(ザゲイロ)…ポルトガル語でディフェンダーの意。このコラムでは現役時代、センターバックとして最終ラインに強固な壁を作った大野氏が独自の視点でサッカー界の森羅万象について語ります。


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