「ラフティング」というスポーツをご存じだろうか? アウトドア好きな方なら見たことや体験したことがあるだろう。名前からして荒っぽい感じだが、ゴムボートで川を下り自然を全身で感じる事が出来るスポーツだ。このラフティングの世界でも日本人が頑張っており、先日オランダで開催された「2010ラフティング世界選手権」で初の世界チャンピオンに輝いた。
(写真:日本代表のリーダー浅野重人。10年来の夢を実現させた)
 そもそもラフティングは20世紀前半、アメリカのコロラド川周辺で木製ボートを用いた川下りから始まり、戦後大きく発展したと言われている。日本では1970年代からリバーベンチャーという形でスタートし、90年頃から本格的なコマーシャルラフティング、つまりお金を取って催行されるラフティングが始まった。その後、コマーシャルラフティングは少しずつ広まっていき、インストラクターの指導のもと、誰でも気軽にラフティングで急流下りが出来ると言うスタイルが一般的になった。特にここ10数年で愛好家は増え続け、現在では北海道から九州まで各地にラフティングツアー会社があり、年間25万人ほどの体験者人口がある。一方、アメリカやヨーロッパではコマーシャルラフティングのみならず、家族や仲間同士のプライベートでラフティングをする姿が多く見られる。また、東欧では競技としてのラフティングも盛んで、チェコなどではシーズン中2週間に一度の頻度でレースが行われている。

 そんな競技ラフティングは東欧、特にチェコ、スロバキア、スロベニア、ロシア、ドイツなどに歴史があり、ここ数年ブラジルでも盛んになってきている。日本も年間7〜8戦の国内レースあり、最大の大会では約50〜60チームが参加し、世界的に見ても日本は比較的活発になっている傾向だ。
 競技としてのラフティング種目は4種目あり、その総合成績で順位が付けられる。まずは「スプリント」。約2分間で下る激流で1艇ごとにスタートし、タイムを競う短距離タイムトライアル。そして「H2H」は2艇同時にスタートし、トーナメント方式で競う激流での短距離レース。3種目は「スラローム」。上から垂らされたゲートを潜り、タイムを競うというカヌー競技と同様の種目である。さらに「ダウンリバー」。約40分〜1時間の長距離コースでタイムを競うエンデュランスレースだ。体力、チームワークが求められることはもちろん、自然の要素である「川の流れ」を読みながら、この4種目をバランスよくこなす必要がある。

 日本チームの監督を務めるのは浅野重人だ。18歳の時に初めてニュージーランドでラフティングを体験。その際、激流に流され命の危機を感じる事を経験した。それが刺激になり、オーストラリアでリバーガイドの資格を獲得し、そのままラフティングの世界に入りこんだ日本のトップラフティングアスリートである。現在は「ラフティングチーム・テイケイ」としてスポンサー集めからトレーニングまで、彼の経験をもとにチャレンジを続けている。昨年、ボスニアで行なわれた世界大会で準優勝となった彼らは世界チャンピオンになるという目標の為に、アルバイトのリバーガイドとチームのトレーニングを重ね、今年の世界選手権に備えてきた。
(写真:ライバルのブラジルを見事に抑え、表彰台の中央に立った)

「世界一となる為に“絶対的なスタートダッシュ力”の獲得を今回のテーマとして一年間取り組んできました。ボートの後ろにタイヤをつけて引いたり、ボートをロープで固定させて漕いだり、と古典的な方法で負荷をかけてパワーアップを図り、また2艇同時スタートの“ぶつかり稽古”を繰り返し、大きな海外チームのボートの当たりに強くなる対策をとりました。もちろん我々日本代表が世界に誇る武器である“シンクロ性”には更に磨きをかけました。」と浅野たちはフィジカルの強化と得意のチームワークを磨く事を繰り返してきた。

 特にこの“シンクロ性”というのはとても大切で、各人がどんなに力強く漕いでも、そのタイミングがずれていてはボートは上手く推進してくれない。「でも、今回重要視した事は『何があっても攻め続ける 強い気持ち』。我々が取り組んで来た事のその成果は今大会のハイライトとして現れました。H2Hで今までコテンパンにやられていたブラジルと勝負し、力でねじ伏せる事が出来た事は今回の大きな勝因となりました。もし我々が今までと同じように負けていたら、またもや王者ブラジルの独走を許し、我々にとってトラウマになったかもしれません」とメンタル面での強化も強調する。

「一年前にチームの目標を“世界大会で全種目1位獲得をしての完全優勝”を掲げました。残念ながらその目標は達成出来ませんでしたが『そこまで高い目標を設定していれば間違っても総合優勝は出来る』と考えての目標設定だったので、そう言う意味ではやはり『物事とは目標設定が全てである』と実感する事が出来ました」と自身はもちろんチームメンバーの意識レベルを高いところにもっていく事の大切さを語ってくれた。この粘り強さがスプリントで2位、H2Hでもブラジルを下し2位、スラローム2位、ダウンリバー2位と全種目でコンスタントな結果を残す展開となり総合優勝を勝ち得た。

 国内に世界チャンピオンが誕生してもまだまだマイナーな感が競技ラフティング。しかしこのスポーツには多くの魅力が詰まっている。「自然の中で状況を読み、自然と戦わず協調する。それを複数の人間でこなすというチームワークも必要とされます。まさに現代に必要な要素に溢れていますので、これからますます注目されるはずです」と浅野はラフティングの可能性を語ってくれた。
(写真:激流の中では状況を読む力とチームワークが重要だ)

 そして、世界一位をとった今、次の目標は何なのか。
「オーストラリアでラフティングのインストラクターになりたいという夢がかないました。日本代表のチームを結成して世界大会に出場したいという夢、世界初のラフティングのプロチームを結成するという夢もかないました。そして、10年来の夢であった世界一になるという夢までかないました。私は夢を実現させる力を持っています。これからはその夢を、自分だけの為でなく、世のため人の為に実現させていきます。具体的にはラフティングを通じて、川や自然の大切さを伝え、“物質的な満足”ばかりを追い続けた現代人が忘れつつある“精神的な満足”の大切さを伝え、『諦めなければ夢は必ずかなう!』という事を伝え続けて日本を、そして世界を元気にしていきます。もちろん、その夢も必ずかなうと思っています」という熱いコメントを残してくれた。彼のエネルギーあふれるしゃべりを聞いていると、「きっと叶うんだ」という気がしてくるから不思議だ。
 ラフティングというスポーツを通して熱く生きる浅野重人。「彼なら他のスポーツでも成功しただろうな」と思わせる情熱がある。今の世の中には、きっとこんな人が必要なんだろう。


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白戸太朗(しらと・たろう)プロフィール
 スポーツナビゲーター&プロトライアスリート。日本人として最初にトライアスロンワールドカップを転戦し、その後はアイアンマン(ロングディスタンス)へ転向、息の長い活動を続ける。近年はアドベンチャーレースへも積極的に参加、世界中を転戦している。スカイパーフェクTV(J Sports)のレギュラーキャスターをつとめるなど、スポーツを多角的に説くナビゲータとして活躍中。08年11月、トライアスロンを国内に普及、発展させていくための新会社「株式会社アスロニア」の代表取締役に就任。『仕事ができる人はなぜトライアスロンに挑むのか!?』(マガジンハウス)が発売中。
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