今月4日のパラグアイ戦、7日のグアテマラ戦は2連勝という結果でした。アルベルト・ザッケローニ新監督が采配を執ることはかないませんでしたが、原博実監督代行の下でよい結果を残しました。このチームのベースにあったのは間違いなく南アフリカW杯で浸透した守備の意識。グループリーグを突破した自信が随所に表れ、自分たちのやるべきことに対する意識統一ができていたように思います。

 さて、今後は10月8日のアルゼンチン戦と12日の韓国戦に向け、ザッケローニのチーム作りが始まります。日本での監督経験のない外国人監督が就任するのですから、彼のやるべき仕事は各選手の特徴を掴む作業です。今日、この2試合に臨む23名が選出されました。今回はザッケローニの目指すサッカーに当てはまる選手を選んだということではなく、彼の目指すサッカーにどの選手がフィットするのかを試す機会ととらえるべきです。

南アW杯からどのように進化する?

 では、ザッケローニが目指すサッカーとはどのようなものでしょうか。岡田武史前監督が南アフリカで結果を出したサッカーは、守備をしっかり整えて失点を防ぐことを第一とした、いわゆるリアクションサッカーでした。この形で決勝トーナメントへ駒を進めたのですから、もちろん一定の成果がありました。そこから前進するために、ザッケローニは安定した守備の上に効果的な攻撃を組み立てていくはずです。縦に速いパスを積極的に通すゲームを目指すことになるでしょう。それによりDFラインをより高い位置に押し上げ、コンパクトなスペースでボールを扱わなければなりません。南アフリカではある程度、受けに回っていましたから、チームとして戸惑いがあるかもしれない。特にDFラインは短い時間で適応することは難しいでしょう。これまで最終ラインを支えてきた中澤佑二(横浜FM)がケガで欠場するため、田中マルクス闘莉王(名古屋)とは新しい選手が組むことになります。大きな心配事ではありますが、今後の代表を考える上で新たなセンターバックの成長は必須です。守備の体制を整えることは一朝一夕にできることではありません。それでも、アルゼンチンや韓国という手ごわい相手にもひるまず結果を求めて欲しいと思います。

 攻撃面では9月の2試合で活躍を見せた香川真司(ドルトムント)、森本貴幸(カターニャ)の働きに期待したいですね。特に香川はブンデスリーガで大きなインパクトを与える仕事をしています。パラグアイ戦で決めたゴールも、素晴らしいトラップからゴールネットを揺らしました。速い縦パスに反応してゴールを決める日本人がやっと出てきたなと実感する得点でした。森本もグアテマラ戦で2ゴールを挙げています。所属クラブではなかなか出番が回ってこないようですが、香川のスピードと同様、森本のパワーも代表には不可欠な要素です。試合に飢えているはずですから、2連戦では鬱憤を晴らしてもらいたいですね。

キーワードは“相互理解”

 特徴を把握するのは監督だけの仕事ではありません。新しい監督がやってきたのですから、選手も指揮官の考え方を理解する必要があります。イタリア人監督がどのようなチームを作ろうとしているのか。そこで自分には何ができるのか。選手と監督が相互理解を高めることで、チームの力は上昇していきます。ここを踏まえた上で、自分の得意なプレーをアピールしていかなければなりません。ザックジャパンは南アフリカでの岡田ジャパンよりも攻撃的になることは間違いありません。どこまでリスクを背負ってゴールに近づくことができるのか。そのエッセンスをザッケローニに加えてもらう必要があります。場合によっては、スペシャリストが重宝されるかもしれませんし、多様性のある選手が好まれるかもしれません。ザッケローニの考え方を早く理解した選手が彼の信頼を勝ち取ります。それが誰になるのか、今後の日本代表を占うためにも注目したいポイントです。

 アルゼンチンとの対戦はホームとはいえ、世界屈指の強豪との試合になります。けっして簡単な試合にはならないはずです。まずは南アフリカW杯同様に失点をしないことが大切ですね。その上で、ザッケローニがどのような采配を揮うのか。今回のメンバーにはW杯で招集されていなかった選手も多数入っています。これまでの代表とは一味違うぞというところを見せてくれるか、見ものですね。そして、その変化に選手たちがどう対応していくのか。こちらも興味深いです。

 そして12日にはアウェーでの韓国戦があります。韓国もW杯後に新監督が就任したばかり。それでも両国にとって、日韓戦は負けられない戦いになります。ザッケローニには極東のライバル関係を理解してもらいながら、ここは是非、勝負にこだわってほしい。過去にも日本は韓国との対戦で力をつけてきました。今回も大きな収穫を得て、日本に戻ってきて欲しいと願っています。

 新しく生まれ変わった日本にとって、代表戦1試合ずつが成長の場になります。もちろん、Jリーグも新監督に向けたアピールの場になるわけです。横一線の中からザックジャパンの中核を支える選手が出現し、さらにそれがこれまで眠っていたダイヤの原石であれば言うことなしです。大きな期待を胸に、10月の代表2連戦と今後のJリーグに注目していきたいと思っています。

● 大野俊三(おおの・しゅんぞう)<PROFILE>
 元プロサッカー選手。1965年3月29日生まれ、千葉県船橋市出身。1983年に市立習志野高校を卒業後、住友金属工業に入社。1992年鹿島アントラーズ設立とともにプロ契約を結び、屈強のディフェンダーとして初期のアントラーズ黄金時代を支えた。京都パープルサンガに移籍したのち96年末に現役引退。その後の2年間を同クラブの指導スタッフ、普及スタッフとして過ごす。現在、鹿島ハイツスポーツプラザ(http://business2.plala.or.jp/kheights/)の総支配人としてソフト、ハード両面でのスポーツ拠点作りに励む傍ら、サッカー教室やTV解説等で多忙な日々を過ごしている。93年Jリーグベストイレブン、元日本代表。

*ZAGUEIRO(ザゲイロ)…ポルトガル語でディフェンダーの意。このコラムでは現役時代、センターバックとして最終ラインに強固な壁を作った大野氏が独自の視点でサッカー界の森羅万象について語ります。


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