アルベルト・ザッケローニ監督が就任して初めての公式戦となるアジアカップ(1月7日〜29日)のメンバーが発表されました。23名のメンバーは馴染みの顔からフレッシュな顔まで様々です。ザッケローニが選出した彼らのメンバー構成を見ることで、監督の目指すサッカーが少しずつわかってきました。

 今回のメンバーでまず感じるのは、ポジションによって選手がこれまでとは大幅に入れ替わっていることです。新たな顔ぶれが多いのはやはりディフェンス陣。南アフリカW杯でセンターバックを務めた中澤佑二(横浜FM)、田中マルクス闘莉王(名古屋)をはじめ、10月の2連戦で安定した守備を見せた栗原勇蔵(横浜FM)が負傷により今回はメンバーから外れています。さらに、23名に入っている岩政大樹(鹿島)は先日の天皇杯準々決勝で負傷交代を余儀なくされ、試合後すぐは松葉杖を使っていたようです。彼の出場も極めて微妙な状況ですから、ザックジャパンにとってアジアカップは大きな試練になるかもしれません。

 今回のメンバーではすでにザックジャパンで結果を残している今野泰幸(F東京)に加え、代表ではほとんど出番のなかった吉田麻也(VVVフェンロ)、槙野智章(広島)、伊野波雅彦(鹿島)といった選手が招集されています。これまで日本は中澤、闘莉王の2枚看板が最終ラインを守ってきました。少々不安を感じるメンバーという感は否めませんが、彼らにとっては大きなチャンスが訪れたわけです。今大会を飛躍の舞台にできればディフェンス陣の選手層UPにつながります。ぜひ、ステップアップの大会にしてほしいものです。

 ただ、後ろの不安を補って余りある選手が中盤に揃っています。遠藤保仁(G大阪)、松井大輔(トム・トムスク)、長谷部誠(ヴォルフスブルク)ら南アW杯で活躍した選手に加え、藤本淳吾(清水)、本田拓也(清水)、細貝萌(浦和)など若い選手も加わっています。遠藤、長谷部の攻撃の組み立てや正確なフィードを期待しつつ、海外で結果を出している本田圭佑(CSKAモスクワ)や香川真司(ボルシア・ドルトムント)には1回でも多くゴールネットを揺らしてほしいですね。
 
 南アで結果を出した岡田武史前監督のサッカーは受け身になり守備を固めるサッカーでした。しかし、ザッケローニの目指すサッカーはタテに速く展開するサッカー、そこで重要な役割を荷うのはサイドバックとFW陣です。

 両サイドバックには長友佑都(チェゼーナ)と内田篤人(シャルケ04)のW杯組に加え、酒井高徳(新潟)が選出されています。タテへの突破という点ではセンターバックもできる伊野波や槙野の攻撃参加も魅力的です。守備のスペシャリストというよりは、攻撃のカードにもなる選手が多く選出されています。このあたりにザックの考えが表れているように感じます。

 さらに、FWには岡崎慎司(清水)、前田遼一(磐田)、そして代表初選出となる李忠成(広島)が選ばれています。この3人に共通するのは裏への飛び出しが速いこと。これはトップ下に入る可能性の高い本田圭や香川にも言えますね。タテへの意識を重視してメンバーを選考しているように感じます。初選出の李には特に期待したいですね。Jリーグで結果を出している選手がしっかりと選ばれているあたり、ザックが国内リーグをしっかりと見ていることを感じさせます。

 天皇杯などの日程を考えると、直前合宿で全員の選手が顔を合わせることは困難な状況です。限られた準備期間の中で、日本代表がどのようなプレーを見せてくれるのか。特に、大会が始まってから1戦目、2戦目のザックの采配に注目したいと思っています。

失うもののないFC東京は怖い!?

 天皇杯は2011年元日決戦にむけベスト4が出揃いました。鹿島アントラーズとFC東京、清水エスパルスとガンバ大阪の間で準決勝が行われます。東京を除いた3クラブには今年のリーグ戦で共通した傾向があります。それは得失点差が少ないということです。つまり、ゴールが多くても失点も多いということ。特に清水とガンバはその傾向が強く、両者の戦いはノーガードの打ち合いとなりそうです。鹿島は失点こそ多くありませんが、逆にゴールが少ない。マルキーニョスがいなくなった穴を日本人選手がいかに埋めるかがポイントになりますね。

 東京は苦しいシーズンを過ごしJ2降格となってしまいました。攻撃陣がうまく機能しない場面が目立ち、34試合で36ゴール。石川直宏や平山相太など代表クラスの選手が揃いながらこの数字は物足りなさを拭えません。しかし、準々決勝では石川が2ゴールをあげクラブも上り調子。さらにいえば、J2落ちが決まっている彼らにとって天皇杯では大きな成果をあげたいという気持ちが強いでしょう。準決勝の舞台は国立競技場です。ここならば大勢のサポーターが足を運んでくれます。ACL出場権を是が非でも手に入れたい鹿島もモチベーションは低くありません。戦力面でも鹿島優位ではありますが、スタジアムの雰囲気を味方につければ、東京にもチャンスは出てくるでしょう。いずれにせよ、準決勝2試合は熱い戦いになることは間違いなさそうです。

手に入れた自信と誇りを足がかりに……

 2010年は日本サッカー界にとって大きな足跡を残した1年になりました。南アW杯では決勝トーナメントへ進出しベスト16入り。さらにW杯後に海外へ羽ばたく選手が数多くいました。年が明ければ欧州の移籍マーケットが再開されますから、海外組はさらに増えるでしょう。日本人選手がどんどん海外へ出て行って、様々なものを持ち帰ってくるのは本当に素晴らしいことです。グループリーグ突破によってもたらされた自信と海外でプレーする誇りを胸に、2011年はさらなる飛躍をしてほしいと思っています。

 来年は1月のアジアカップに始まり、7月にはコパ・アメリカ(南米選手権)、U−22代表はロンドン五輪予選に挑みます。南アフリカで日本の守備が世界に通用することは発信できました。その上に、自分たちの戦い方を築きながらアジアでの頂点を目指し、コパ・アメリカで強豪相手にどこまでやれるのか挑戦してほしい。進化を止めず、冒険しながらチャレンジし続けることが肝心です。ザッケローニに導かれた日本代表がどんな成長を見せるのか。2011年のサッカーシーンも楽しみでなりません。

● 大野俊三(おおの・しゅんぞう)<PROFILE>
 元プロサッカー選手。1965年3月29日生まれ、千葉県船橋市出身。1983年に市立習志野高校を卒業後、住友金属工業に入社。1992年鹿島アントラーズ設立とともにプロ契約を結び、屈強のディフェンダーとして初期のアントラーズ黄金時代を支えた。京都パープルサンガに移籍したのち96年末に現役引退。その後の2年間を同クラブの指導スタッフ、普及スタッフとして過ごす。現在、鹿島ハイツスポーツプラザ(http://business2.plala.or.jp/kheights/)の総支配人としてソフト、ハード両面でのスポーツ拠点作りに励む傍ら、サッカー教室やTV解説等で多忙な日々を過ごしている。93年Jリーグベストイレブン、元日本代表。

*ZAGUEIRO(ザゲイロ)…ポルトガル語でディフェンダーの意。このコラムでは現役時代、センターバックとして最終ラインに強固な壁を作った大野氏が独自の視点でサッカー界の森羅万象について語ります。


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