日本代表、アジアカップ優勝おめでとう! アルベルト・ザッケローニ監督が就任して初めての公式戦で頂点まで昇り詰めたことは本当に意義のあることだと思います。この優勝で2013年に行なわれるFIFAコンフェデレーションズカップの出場権を久々に得ました。コンフェデでの戦いは貴重なステップアップの機会になります。コンフェデへの切符を手に入れたことはアジアを制したのと同時に、非常に大きな成果といえるでしょう。

 監督が就任する前、南アフリカW杯での日本代表についてスカウティングを行ってきたはずです。その中で、ザックは組織的に守る日本の守備についてはある程度計算できることを知っていたでしょう。アジアカップに臨むにあたり、これまでの代表のベースに上乗せする形で「しっかりとした守りの中で、いかにして攻撃していくか」「横パスでのビルドアップから縦への攻撃の仕掛け方」をチームに持ち込んだように感じました。

 今までの日本は流れの中でサイドに展開してクロスをあげることはありました。しかし、ザックはできるだけ早い段階で両サイドに攻撃の起点を作るようなサッカーを試みました。右には松井大輔(グルノーブル)、または岡崎慎司(シュツットガルト)、左には香川真司(ボルシア・ドルトムント)を配置し、彼らにボールが入ったところで攻めのスイッチをONするスタイルです。そこへ中央から本田圭佑(CSKAモスクワ)が絡み、さらには起点を追い越す動きで長友佑都(チェゼーナ)や内田篤人(シャルケ04)がクロスを供給していく。中央で待つ前田遼一(磐田)も決まったパターンがありましたから、狙いがわかりやすかったはずです。もちろん逆サイドが起点になれば、サイドハーフもゴール前へと入っていくことができます。徹底して同じ攻めを続けていき、システマティックに、なおかつシンプルに攻撃を組み立てました。これは途中出場になった選手にも意識は徹底されており、急遽、右サイドバックに入った伊野波雅彦(鹿島)もしっかりと機能していました。従来のサイド攻撃とは推進力が違い、効率よく力強い攻めを展開できました。

 ただし、ザックが計算していたはずの守備は今大会6試合で6失点。グループリーグでは新しくチームに加わった吉田麻也(VVVフェンロ)が集合体として機能していないように感じました。最初のうちは個人と互いへのフォローで守っていた感があり、組織的とは呼べませんでした。しかしながら退場者を出すなど苦しい戦いを続ける中で、互いの色や距離感を理解しあいながら連係を強化していったように思います。ザッケローニ監督は大会期間中に、成長という言葉を多く使いましたが、この言葉が最もあてはまるのは最終ラインだったでしょう。6失点は完璧な仕事をしたと言い難い数字ですが、短い大会の中で6人が最終ラインに加わりながら優勝まで辿り着いたのは価値があります。全員が献身的な動きで必死に守ったことが優勝という結果に結びついたことは間違いありません。

流れを一気に取り戻したサウジ戦

 カタール戦のドローから始まり、10人の劣勢をはね返したシリア戦、さらには大勝したサウジアラビア戦とグループリーグから激しい試合が続きました。この3試合の中で、私はサウジアラビア戦の勝利が大きなきっかけになったように思います。シリアとの激闘で逆転勝ちを収めたチームは、「オレたちは点を取られても逆転できるんだ」という自信を深めたはずです。その後の試合で、今大会は本調子ではなかったとはいえ優勝3回を誇る中東の雄を5−0で下し、一気に波に乗ることに成功しました。特に岡崎のハットトリックは素晴らしいの一言。3点目は彼らしからぬターンで(笑)、華麗にゴールネットを揺らしました。シュートに至る一連のプレーはまるでFWのお手本のようなプレーでしたね。

 決勝トーナメントでは、やはり韓国戦の死闘が印象的でした。韓国もいいチームでしたし、本当にどちらが勝つかわからない試合だったと思います。ここではやはり、川島永嗣(リールセ)の存在が大きかったですね。彼の気迫あふれる好セーブがチームにより一層の自信を植えつけました。最後の壁としてゴール前に川島が立ちはだかっていることで、最終ラインは決勝でも安心感を持ったのではないでしょうか。仮にチャレンジした守備をしても川島が止めてくれるという信頼関係を築き、激しい戦いも勝ち抜くことができたと言えそうです。

長友の働きにMVPを!

 大会MVPには本田圭が選ばれました。ただ、私がMVPを決めるのであれば、長友を推しますね。どの試合をとっても彼の活躍がなければ日本の勝利はありませんでした。身長こそアジアの大きな選手にヒケをとりますが、無尽蔵のスタミナや精度の高いクロスが彼の長所としてしっかりといかされていました。サイドから彼が決定的な仕事をやってのけたシーンはいくつも思い浮かびます。ザックが考えるコンセプトを最も忠実に実現させたのは彼のプレーでした。チームへの貢献度は計り知れません。

 今回の優勝の先に、日本代表が進むべき道があるのでしょうか。ザックには日本サッカーのカラーを作りあげてほしいと思います。方向性は間違っていません。縦へのビルドアップの速さ、精度に磨きをかけ、岡崎や香川、本田圭が個人の力でアクセントをつけていく。今後もこのようなサッカーを続けていけば、日本の未来は大きく開けるはずです。W杯常連国として確固たる地位を築くこと。これが2014年までに日本に課せられた使命です。アジアを制した彼らならば、間違いなくこのミッションを完遂してくれることでしょう。

● 大野俊三(おおの・しゅんぞう)<PROFILE>
 元プロサッカー選手。1965年3月29日生まれ、千葉県船橋市出身。1983年に市立習志野高校を卒業後、住友金属工業に入社。1992年鹿島アントラーズ設立とともにプロ契約を結び、屈強のディフェンダーとして初期のアントラーズ黄金時代を支えた。京都パープルサンガに移籍したのち96年末に現役引退。その後の2年間を同クラブの指導スタッフ、普及スタッフとして過ごす。現在、鹿島ハイツスポーツプラザ(http://kashima-hsp.com/)の総支配人としてソフト、ハード両面でのスポーツ拠点作りに励む傍ら、サッカー教室やTV解説等で多忙な日々を過ごしている。93年Jリーグベストイレブン、元日本代表。

*ZAGUEIRO(ザゲイロ)…ポルトガル語でディフェンダーの意。このコラムでは現役時代、センターバックとして最終ラインに強固な壁を作った大野氏が独自の視点でサッカー界の森羅万象について語ります。


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