斎藤佑樹(北海道日本ハム)をはじめ大学出身のルーキー投手が注目を集める今季、カープの赤いユニホームに袖を通したのが、早大から入団する福井優也だ。ドラフト時には斎藤、大石達也(埼玉西武)とともに早大ドラ1トリオとしてメディアでも大きく紹介された。だが、福井は1年間の浪人生活を経ており、年齢は彼らよりも1歳上。3人の中では一番の苦労人だ。プロ1年目のシーズンを前に、これまでの野球人生と、仲間であり、ライバルにもなる同級生たちについて当HP編集長・二宮清純が訊いた。
(写真:「(浪人時代も含めた)この5年間は遠回りではなかった」と断言する)
 自宅のブルペンで練習

二宮: 入団おめでとうございます。広島からの1位指名は予想していましたか?
福井: スポーツ新聞などで情報が出ていたので、ある程度は意識していました。意中の球団でしたね。

二宮: 出身は岡山県ですから、市民球場に試合を観に行ったこともあったのでは?
福井: いや、それがないんです。小さい頃は巨人ファンでした。まぁ、テレビも巨人戦しかなかったので、自然と応援をしていたという感じです。

二宮: 実は福井選手は3兄弟の一番下で2人のお兄さんは、前橋育英高、沖縄尚学高といずれも県外の強豪校に入っています。お父さんがかなり野球に力を入れていたとか。
福井: 小学校時代から毎日、「今日は練習したか?」と聞いてくるほど熱心でしたね。家の駐車場にはブルペンを2つつくってくれて、そこでピッチング練習ができました。

二宮: 出身の西粟倉村にはバンクーバーパラリンピックのクロスカントリーで2つの金メダルを獲得した新田佳浩選手も輩出しています。あの辺りは岡山とはいえ、中国山地で雪がよく降る地域です。福井選手も小さい頃はスキーをやっていたと?
福井: 小学校に入った頃から夏は野球、冬はクロスカントリーをしていました。新田さんと一緒に山で練習したこともあります。小学生の時は県大会で優勝して、中学生の時も全中(全国中学体育大会)に出場しました。その中で自然と下半身が鍛えられたのではないでしょうか。

二宮: 済美高時代は2年生エースとしてセンバツで優勝、夏は準優勝。翌年(2005年)秋の高校生ドラフトでは巨人から4巡目指名を受けました。当時のドラフトは大学・社会人と高校生が分離されていましたから、実質は8巡目くらいの評価です。もし、もっと高い評価なら巨人に入っていたと?
福井: はい。その年の大学・社会人ドラフトで越智(大祐)さん(新田高−早大)が同じ4巡目で指名されました。大学で活躍していた越智さんでさえ下位なのだから、自分はもっと低い評価なんだろうなと思うとプロ入りが不安になったんです。

 どん底を経験したから今がある

二宮: そして一浪して早大に入学するわけですが、1年間ブランクが空くことへの不安もあったでしょう?
福井: 最初は浪人して再び高校時代のようにしっかり投げられるか不安でした。でも、自分で選んだ道である以上、やるしかない。1年間、しっかり体づくりをして、大学に入ってすぐに投げられるようにと思いながらトレーニングしていました。

二宮: 福井選手は高校時代、エースとしてフル回転していました。肩、ヒジに負担がかかっていた面もあったのではないでしょうか。今から振り返ると、一浪したことで肩、ヒジを休められたとも考えられるのでは?
福井: 結果的には、そういうプラス面もありましたね。

二宮: 同級生は1つ年下ですが、甲子園を沸かせた斎藤佑樹(現北海道日本ハム)がいました。初めて会った時の印象は?
福井: すごくまじめな好青年だと思いましたね。でも、僕だって甲子園の優勝投手だという気持ちもありました。ただ、すぐに差をつけられてしまって……(苦笑)。実は僕も彼が初勝利をあげた東大との開幕戦の翌日に先発しているんですが、ホームランを打たれて散々な出来でした。そこからは一度、どん底に落ちてしまいましたね。

二宮: やはり、それは1年間のブランクが影響したと?
福井: オープン戦までは調子が良くて、怖いものなしの状況だったのが、いきなり初戦で打たれてしまった。「こんなはずじゃない」と焦ってしまった。それが何をやってもうまくいかない悪循環を生んでしまったんです。その時は1年間のブランクが関係したのかなと感じましたね。でも、そこで悩んだ時期がなければ、今の自分はなかったと思っています。

二宮: 福井選手といえば、気持ちを前面に出したピッチングが印象に残ります。基本はインコースをズバッとストレートで突いて、最後はスライダーで仕留めるスタイルですが、一番の得意球は?
福井: やはりスライダーですね。今後はそれを生かすためにも、右打者のインコースを突くシュートだったり、左打者に対するチェンジアップを磨いていきたいと考えています。

二宮: 高校時代の恩師の上甲正典監督に話を伺うと、「福井は性格はプロ向きだ」と。ただ、初球のスライダーで不用意にカウントをとりにくる点や制球力を課題に挙げていました。
福井: その通りですね。コントロールにはまだ自信がないので、初球がどうしても甘くなってしまう。

二宮: カープの投手陣といえば、昨季、沢村賞も獲得した前田健太投手がいます。彼は斎藤投手と同い年ですから、年齢はひとつ下ですね。マエケンに対する印象は?
福井: ストレートが伸びるし、コントロールもいい。変化球も多くて勉強になります。セ・リーグでは一番いい投手だと思っているので、彼を目標にして、早く追いつきたいですね。

(後編につづく)

福井優也(ふくい・ゆうや)プロフィール>
 1988年2月8日、岡山県出身。愛媛・済美高時代は2年生エースとしてセンバツで初出場初優勝に貢献。夏の甲子園でも春夏連覇は逃したもののチームを準優勝に導く。05年の高校生ドラフトでは巨人に4巡目指名を受けながら入団を拒否。一浪して早大に入学。MAX152キロのストレートとスライダーを中心とする変化球を武器に、3年時から主力投手となり、六大学通算11勝(3敗)をあげた。昨年のドラフト会議で広島から1位指名を受け、入団。右投右打。背番号11。



<この記事は「二宮清純の我らスポーツ仲間」(テレビ愛媛、2011年1月2日放送)での対談を元に構成したものです>
◎バックナンバーはこちらから