MLB開幕まで1カ月半を切り、各チームは春季キャンプに突入―――。
 2年ぶりの王座奪還を目指すヤンキースも、タンパの地で新たなスタートを切っている。しかし昨季はプレーオフで惨敗を喫し、今オフも戦力補強は必ずしも円滑には進まなかった。現時点でレッドソックスがアメリカンリーグの大本命とみられ、ヤンキースは対抗馬扱いに止めている識者が圧倒的に多い。
 その理由はどこにあるのか? そして今季のチームのどこに注目すべきなのか? 今回は3つのポイントに絞って見ていきたい。
(写真:A・ロッドらスーパースターを数多く擁するヤンキースだが、今季のチームには懸念材料も)
【先発投手陣の不安】

 今オフ最大にしてほぼ唯一のターゲットとして狙いを定めたクリフ・リーの獲得には失敗。“プランB”として獲得すべきレベルの投手がマーケットに不在だったこともあって、その後も先発投手補強は一向に進まぬままだった。

 しかもアンディ・ペティートが1月下旬、ついに引退を発表。結果として先発ローテーションの座が約束されているのは、キャンプ開始時点でCC.サバシア、フィル・ヒューズ、AJ.バーネットのみ。このうちヒューズは1年を通じて働いた実績は去年だけ。バーネットも昨季に自己最悪の大不振(10勝15敗、防御率5.26)を経験したばかりだけに、決して万全の陣容とは言えない。
(写真:ペティートの引退によって先発ローテーションの不安に拍車がかかった)

 しかも残り2つの座席を、峠を越えたフレディ・ガルシア、バートロ・コロン、そして未知数の若手イバン・ノバ、ジャーニーマンのセルジオ・ミトレで争わせねばならない。ペイロールに2億ドル近い金額が費やされた銀河系軍団にとって、予想外の事態になったと言って良いだろう。

 第4、第5先発の座を巡るレースの本命とされているのはガルシアとノバ。34歳になったガルシアは昨季もホワイトソックスで12勝(防御率4.64)を挙げており、24歳のノバも昨季、ポテンシャルの高さを示したことから、「ヤンキース先発陣は一部で懸念されているほど危険な状態でない」という声もある。

 加えてこの先発陣の不安を背後から支えるため、昨季のア・リーグセーブ王ラファエル・ソリアーノを獲得してブルペンを補強。さらにはシーズン中にでもさらなるトレードを施すだけの資金や交換要員は備わっているだけに、実際にはそれほど慌てるべきではないのかもしれない。

 だが彼らが属するのは泣く子も黙るアメリカンリーグ東地区である。今季はレッドソックスが戦力を整えていることもあり、地区優勝争いを考えたとき、序盤からの出遅れは致命傷となりかねない。
 特に先発4、5番手の役目を勝ち取る投手たちが、シーズン最初の数カ月でどれほどの踏ん張りを見せるか。その部分が今季を占う上で重要な意味を持つことは間違いないだろう。

【正捕手は誰が務めるか】

 ブライアン・キャッシュマンGMはこのオフ中、ホルヘ・ポサダに対し、ついに専任DHへの転向を通告した。近年は守備力低下が著しかったベテランの代役として、過去球宴に2度出場しているラッセル・マーティンと契約。やや不安が残る今季の投手陣の女房役を、リーダーシップに定評あるこのマーティンに任せることになる。
(写真:長く正捕手の座を守って来たポサダはついにDHに転向)

 ただ2008年にはリーグ最高の捕手の1人と目されていた選手が、このオフ、ドジャースから契約をオファーされなかったのには理由がある。この4年間、マーティンの打撃成績は降下の一途。しかも昨季は臀部の故障に見舞われ、夏場以降は試合出場すら叶わなかった。このままマーティンが今季も下降線をたどり続けるようなら、ヤンキースの扇の要は一気に不安材料となりかねない。

 控え1番手となりそうなフランシスコ・セルベリは昨季、打力不足を露呈(本塁打ゼロ)し、しかも守備率、盗塁阻止率は前年比で低下。打力だけならマイク・ピアッツァ級と評価される噂の大型新人ヘスス・モンテロも、まだメジャー経験なしの21歳だけにいきなり重要な役目を任せるのは荷が重そう。捕手は肝心の投手陣にも直接の影響を及ぼすポジションだけに、慎重な起用法が必要になる。
 マーティン、セルベリ、モンテロがどのようにそれぞれの役目を確立するか。「ポサダ以降」の時代を迎えたヤンキース捕手陣の行方にも注目が必要だ。

【ジーター、A・ロッドは健在ぶりを示せるか】

 昨季リーグ1位の得点数を叩きだしたヤンキース打線は、今季もライバルチームを恐れさせるだけの破壊力を保っている。特に殿堂入り級の選手をずらりと揃えた内野陣の中で、マーク・テシェイラ、ロビンソン・カノーの2人は現在、全盛期にいる。彼らは今季も好成績を残し、今後数年は中核を担うはずだ。
(写真:殿堂のスタジアムに選手たちが戻ってくる日も間近だ)

 しかし野手の中で懸念材料があるとすれば、デレック・ジーター、アレックス・ロドリゲスの重鎮2人。30代も後半を迎えた彼らは、昨季揃って自己最低レベルの成績に終わった。ジーターの打率は2009年の.334から.270にがた落ち。A・ロッドの打率.270、4盗塁もレギュラー定着以後では、それぞれキャリア最低だった。

 近年のMLBでは高齢選手の働き場所が徐々に狭まっている。いかにこれまで華々しい数字を積み上げてきた2人とはいえ、さらに1つ歳を取る(ジーター37歳、A・ロッド36歳)今季、再び成績を大きく向上させられるかどうか疑問視する声が圧倒的である。
 もちろん、それでもヤンキースが得点力不足に悩むことは考え難いが、しかし、この激戦地区を勝ち抜くためにはハイレベルの攻撃力を保つ必要がある。特に先発投手陣が万全でない今季の場合、それはなおさらだろう。

 また三遊間を守る2人が守備面でもさらにスローダウンしてしまった場合、話は輪をかけて難しくなる。前記した通り、今季はポサダがDHに専念するだけに、ジーターとA・ロッドにはポジション的に逃げ場がないのだ。
 いずれにしてもジーターのポジション問題は遠からぬうちにシリアスな心配事になるはず(A・ロッドはポサダの契約が切れる来季、DHに転向できる)。それを今季から考えねばならないような事態になったとき……チームに微妙な不協和音を呼び起こす可能性は否定できまい。


杉浦大介(すぎうら だいすけ)プロフィール
1975年生、東京都出身。大学卒業と同時に渡米し、フリーライターに。体当たりの取材と「優しくわかりやすい文章」がモットー。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシング等を題材に執筆活動中。

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