今月1日にスタートしたプロ野球のキャンプも大詰めを迎え、各球団ではトレーニングから紅白戦や練習試合など実戦へと移っています。私もいくつかの球団のキャンプ地を取材しましたが、どこも活気に満ち溢れ、徐々に開幕が近付いてきていることが感じられました。なかでもやはり一番人気は北海道日本ハム。これまでも何度か訪れていますが、球場までの道のりで渋滞などほとんど記憶にありませんでした。ところが、今年は高速道路を下りる前から渋滞し、球場へ行くのにも一苦労でした……。 “佑ちゃん人気”は本当にすごかったです。
 さて今回、私が取材したのは5球団です。パ・リーグは日本ハムとオリックス、セ・リーグは中日、阪神、広島です。その中で最も印象に残っているのは、日本ハムのダルビッシュ有投手ですね。既に日本を代表するピッチャーなわけですが、さらなる進化を遂げたのではないかと感じられました。彼を一目見て、まず最初に気づいたことは腰回りが大きくなっていたことです。後で知ったのですが、オフの間に10キロほど体重アップを図ったようですね。そのために、もともと球威のあるボールがさらに重みを増したように見えました。

 また、ピッチャーとして究極の理想のフォームに近づいているようにも感じました。というのも、これまでよりもさらに球持ちが良くなっていたのです。つまり、よりバッターに近い距離でボールが放たれているので、初速と終速にほとんど差がありません。そのために打者がさし込まれているシーンが多く見受けられました。今シーズン、どんなピッチングをしてくれるのか、今から非常に楽しみでなりません。

 そのダルビッシュ投手にもかわいがられている様子の斎藤投手ですが、さすがは経験豊富なピッチャーですね。普通、ルーキーは首脳陣にいいところを見せたいと力んでしまうものですが、斎藤投手にはルーキーらしからぬ落ち着きがあり、どの球種も低めを意識して投げていました。本来、力で押すのではなく、コントロールのよさがウリの彼ですから、バッターも積極的に振ってくるでしょう。そこで勇気をもって胸元を狙えるかどうか。そしてコースを狙ったボールでも打たれた時に、そのことをひきずらずに次へのステップとできるかどうか。そうした実戦での精神力があるかどうかが今後、問われることになるでしょう。

 もう一人、注目して見ていたピッチャーがいます。今シーズン、3球団目となるオリックスに移籍した寺原隼人です。ピッチングを見て、彼のよさがまた戻ってきたなと感じられました。岡田彰布監督も手応えを感じているようで、先発での起用を示唆していました。エース格の金子千尋、近藤一樹が故障で離脱し、どちらも開幕には間に合いそうにありません。また、山本省吾は寺原とのトレードで横浜に移籍と先発が手薄いオリックスにとって寺原の台頭は願ったり叶ったりでしょう。

 横浜では苦しいチーム事情もあり、先発、抑えといろいろとポジションが変わりました。しかし、オリックスでは先発として固定されることが予想されます。寺原としてもその方がやりがいを感じることでしょう。また、チームにはメジャーで通算124勝を挙げたパク・チャンホや、前述した通り現在は故障で離脱していますが、先発の柱として期待されている金子や近藤がいます。さらにパ・リーグには日本を代表するピッチャーがズラリと顔を揃えていますから、彼らからいい刺激を受けることで成長していってもらいたいですね。

 一方、セ・リーグには優秀な選手が多く存在するものの、近年、“スター”と呼べる選手がなかなか出てきていないというのが現状でしょう。今シーズンの見どころとして、斎藤をはじめとする注目のルーキーの活躍に期待する一方で、ぜひ今シーズンこそはセ・リーグにスター選手が出てきてほしいと思っています。何はともあれ、開幕までちょうど1カ月。今シーズンのプロ野球も数多くの熱戦を見せてもらいたいですね。


佐野 慈紀(さの・しげき) プロフィール
1968年4月30日、愛媛県出身。松山商−近大呉工学部を経て90年、ドラフト3位で近鉄に入団。その後、中日−エルマイラ・パイオニアーズ(米独立)−ロサンジェルス・ドジャース−メキシコシティ(メキシカンリーグ)−エルマイラ・パイオニアーズ−オリックス・ブルーウェーブと、現役13年間で6球団を渡り歩いた。主にセットアッパーとして活躍、通算353試合に登板、41勝31敗21S、防御率3.80。現在は野球解説者。
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