第133回 衝撃のTKO負け……ヒョードルが輝きを失った理由

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 エメリヤーエンコ・ヒョードル(ロシア)の敗北は衝撃的だった。
 2月12日(現地時間)、米国ニュージャージー州のアイゾッド・センターで開かれたStrike Force「ヘビー級GPトーナメント」1回戦、アントニオ・シウバ(ブラジル)と対戦したヒョードルは、かつての輝きをすでに失っていた。
(写真:日本での試合は2007年の大晦日が最後、もうその雄姿は見られないのか)
 トーナメント?最有力と目されていながら、シウバに対して序盤からプレッシャーをかけていくことができない。それどころか逆にパンチを浴び、2ラウンド目にはテイクダウンを許してパウンドを喰らい、右目を塞がれてしまう。結局、この2ラウンド終了時にドクターストップがかかり、ヒョードルはTKO負けを喫してしまった。

「応援ありがとう。きっと、離れる時がやってきたんだ」
 試合後、ケージの中で、そう話すヒョードルの表情は弱々しかった。
 離れる時がやってきた……そう口にしたことで、ヒョードルは、このまま引退してしまうのかとも思われたが、どうやら、そう決めたわけではないようだ。
「まだ闘えると思う」
 ロシアに帰国した後に彼は、何人かの知人にそう話している。

 ハイペースで試合を行い、その中で闘いに疲れ、心を摩耗させて輝きを失っていく格闘技選手を、これまでに何人も目にしてきた。しかし、ヒョードルの場合は、そうではない。逆に全盛期に、それまでメインの戦場としていた『PRIDE』のリングを失い、試合から遠ざかった。
 闘いたい、なのに試合が組まれない。そんな状態が長く続いたことで、練習に対するモチベーションが下がり、メンタルの調整も不完全なままケージに入った末に輝きを失ったのだ。

 もしヒョードルが、再び闘いの舞台に戻ったとしても、PRIDEヘビー級王者の時のような強さは望めないだろう。今回のヒョードルの無残な姿をヘビー級ファイターたちの誰もが目にしている。もはや、以前のようにヒョードルを恐れるトップクラスのファイターはいないはずだ。格闘技の勝敗はメンタルが占める割合が大きい。この2月12日を境にヘビー級戦線は、「ヒョードル時代」から「アリスター時代」へ移ったと見るべきだろう。

 さて、この日に行なわれた「ヘビー級GPトーナメント」1回戦のもう1試合は、セルゲイ・ハリトーノフ(ロシア)がアンドレイ・アルロフスキー(米国)をTKO(1R2分49秒)で下しているが、あと2試合、楽しみなカードが残されている。
アリスター・オーフレイム(オランダ)vs.ファブリシオ・ヴェウドゥム(ブラジル)
 ジョシュ・バーネット(米国)vs.ブレット・ロジャース(米国)

 当初、主催者側は4月10日(米国では4月9日)に日本で、この2試合を行うことを望んでいたが、この計画はすでに消滅している。新たに決まった日時と場所は、6月18日(現地時間)、米国テキサス州ダラスのアメリカン・エアラインズ・センター。開催が2カ月以上も先延ばしになってしまったことは残念だが、ヘビー級珠玉の闘いを楽しみに待ちたいと思う。果たして再びアップセットは起こるのか?

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近藤隆夫(こんどう・たかお)
1967年1月26日、三重県松阪市出身。上智大学文学部在学中から専門誌の記者となる。タイ・インド他アジア諸国を1年余り放浪した後に格闘技専門誌をはじめスポーツ誌の編集長を歴任。91年から2年間、米国で生活。帰国後にスポーツジャーナリストとして独立。格闘技をはじめ野球、バスケットボール、自転車競技等々、幅広いフィールドで精力的に取材・執筆活動を展開する。テレビ、ラジオ等のスポーツ番組でもコメンテーターとして活躍中。著書には『グレイシー一族の真実〜すべては敬愛するエリオのために〜』(文春文庫PLUS)ほか。最新の編著『絶対、足が速くなる!』(日刊スポーツ出版社)が好評発売中。
連絡先=SLAM JAM(03-3912-8857)
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