第171回 デフリンピックがやってくる

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 2025年、日本に初めてデフリンピックがやってきます。

 デフリンピックとは、デフ+オリンピックのこと。デフリンピックは国際的な「きこえない・きこえにくい人のオリンピック」です。

 第1回は、1924年にフランスのパリで開催され、来年は100周年の記念すべき大会となります。

 陸上や水泳のスタートにはスタートランプや旗などを使った情報保障が特徴です。

 

(写真:東京体育館では開閉会式と卓球が実施される ©東京体育館HP)


■大会名称:第25回夏季デフリンピック競技大会 東京2025
■主催:国際ろう者スポーツ委員会(ICSD)
■大会期間:2025年11月15日(土)~26日(水)(12日間)
■参加国:70~80か国・地域
■実施競技:21
■参加者数:各国選手団等 約6,000人

 

 今年はパリパラリンピックが開催されました。私は視覚障がいの競技で、社会が変わる感覚を持ちました。

 

 女子48キロ級(J1)で銀メダルを獲得した半谷静香選手が、こんなことを言っていました。

「相手の足、釣り手、引き手の位置が、練習をしていると見えるようになってきた」

 テレビ中継で解説されていた日本視覚障害者柔道連盟の初瀬勇輔会長も「見える」という言葉を多用していました。「〇〇選手、相手の動きがしっかり見えていますね!」と。

 さらには、金メダルを獲得したゴールボールの田口侑治選手は「中国の予選で、相手が見えた。勝てる、と確信した」と話していました。

 

 体から伝わってくる感覚で、「分かる」ことを「見える」と表現しているんです。目で見えるというより、「心で見る」ともいえます。

 

 視覚に障がいのある人たちが、実際に会って話しても、テレビやSNSを通じても「見える」と自然に連発していました。それを見聞きして、私は違和感を覚えませんでした。「見える」という社会を変える新しい言葉が生まれていると感じました。

 

 実はこんな経験もあります。もう30年以上前の古い話で恐縮ですが……。

 デフバレーボールの取材に行く機会がありました。手話通訳の方に同行していただきました。会場全体が手話で会話をしている中、たった一人「話せない」私は孤立した感覚に襲われ、気が付いたのです。話す手段が違うだけなんだ、と。

 

「話す」とは声を出すことではありません。話すことは、人に何かを伝えることなのです。そのための手段は声だけではありません。筆談も「話すこと」になります。また最近ではメールやチャットのやりとりもあります。手話で話す、筆談で話す、チャットで会話するって言いますよね。

第120回 「話す」って何だ? 約30年前の”原体験”

 

 さて、デフリンピックまで1年を切りました。先日、出場を目指す選手とイベントでご一緒しました。もちろん、手話が主なコミュニケーション手段ですが、それだけではないことを確信しました。表情、身振り手振りに加え、スマホに文字を入れて、いくらでも会話ができました。私の手話は、挨拶と名前、そして「ありがとう」と「嬉しい」だけでしたが、すっかり仲良くなりました。

 

 いよいよやってくるデフリンピックが、私たちに何を投げかけ、その後の社会をどんなふうに変えてくれるか、今から楽しみでなりません。

 

 

伊藤数子(いとう・かずこ)プロフィール>

新潟県出身。パラスポーツサイト「挑戦者たち」編集長。NPO法人STAND代表理事。STANDでは国や地域、年齢、性別、障がい、職業の区別なく、誰もが皆明るく豊かに暮らす社会を実現するための「ユニバーサルコミュニケーション事業」を行なっている。その一環としてパラスポーツ事業を展開。2010年3月よりパラスポーツサイト「挑戦者たち」を開設。また、全国各地でパラスポーツ体験会を開催。2015年には「ボランティアアカデミー」を開講した。2024年、リーフラス株式会社社外取締役に就任。著書には『ようこそ! 障害者スポーツへ~パラリンピックを目指すアスリートたち~』(廣済堂出版)がある。

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