3年連続最下位とどん底に沈む横浜ベイスターズ。このオフには身売り話も飛び出し、今では球界のお荷物のような扱いを受けている。
 そのベイスターズにも輝ける時はあった。1998年、自由奔放な野球で38年ぶりのリーグ優勝、日本一を達成した。
 管理野球が色濃い時代、チームを率いた権藤博のマネジメントは新鮮であると同時に痛快でもあった。改革の第一歩は自らの呼称であった。選手に「監督と呼ぶな」と命じたのだ。「権藤さん」。監督と選手の間には見えない垣根がある。それを取り払うと同時に「監督という立場にあぐらをかきたくなかった」。本人はそう述懐している。
 権藤は4球団で17年のコーチ経験がある。7人の1軍監督に仕えた。そこで多くのことを学んだ。「これだけはやらんぞ」「こんな監督にはならんぞ」。つまり上司を反面教師にすることで、あるべき監督像を作りあげた。
 ミーティングも廃止した。監督の長話ほどシラけるものはない。それが権藤の考え方だ。コミュニケーションは必ず一対一でとる。選手個々の尊厳を大切にし、個性を生かす。説教臭くないところが、本書の最大の持ち味か。 「教えない教え」 ( 権藤博著・集英社新書・700円)

 2冊目は「結果を出し続けるために」( 羽生善治著・日本実業出版社・1200円)。 先の王座戦で著者は前人未到の19連覇を達成した。世代交代の激しい将棋界で勝ち続けてきた経験からツキ、プレッシャー、ミスを味方にすることが大切と説く。

 3冊目は「日本の鉄道乗り換え・乗り継ぎの達人」( 所澤秀樹著・光文社新書・820円)。 取材などで全国各地を飛び回っている身にとって、鉄道の乗り換えと乗り継ぎは最も頭を痛める問題である。本書で示されている考察は、目からウロコ的なものが多い。

<上記3冊は2011年1月5日付『日本経済新聞』夕刊に掲載されたものです>
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