開幕前には下馬評の低かったカープが、曲がりなりにもクライマックスシリーズ進出争いに加わっていられるのは、青い目のスカウトのおかげだろう。
 エリック・シュールストロム。カープファンでも、その存在を知る者は少ない。辣腕の駐米スカウトだ。

 今季のカープ奮闘の立役者といえばクローザーのデニス・サファテだが、彼の潜在能力に目を付け、日本に送り込んだのがシュールストロムである。
 首脳陣は当初、セットアッパーで起用する方針だったが、最速100マイル(約161キロ)のストレートを中心にした強気のピッチングが認められ、オープン戦の途中でクローザーに昇格した。サファテはメジャーリーグに4年在籍し、5勝4敗、防御率4.53の記録を残している。防御率がよくないのはコントロールに難があったからだと言われている。
 しかし、来日してからは見違えるようにコントロールもよくなり、今では押しも押されもしないカープの守護神だ。ここまでの成績は47試合に登板し、1勝1敗31セーブ、防御率1.24(8月25日現在)。ファンからは「神様、仏様、サファテ様」と呼ばれるくらい絶大な信頼を集めている。

 開幕以来、先発ローテーションの柱の役割を担っているブライアン・バリントンもシュールストロムのメガネにかなって今季、カープに入団した。
 彼は02年のMLBドラフト“いの1番選手”。要するにMLB全体での1位指名選手である。
 それほどの評価を得ながら、メジャーリーグ5年間の成績は1勝9敗、防御率5.62とパッとしなかった。193センチの長身ながらピッチングに威圧感がなく、マイナーリーグ暮らしが続いていた。
 シュールストロムはバリントンがムービング系のボールをコーナーにきっちり投げ分けられる点を「日本向き」と判断したようだ。日本の打者ならミートされても、スタンドにまで運ばれることはない、と。
 見立てどおりだった。バリントンのここまでの成績は21試合に登板して12勝7敗、防御率2.36。成績が示すようにカープで最も安定したスターターである。

 シュールストロムの辣腕ぶりは、それだけにとどまらない。08、09年のセ・リーグの奪三振王に輝いたコルビー・ルイスもシュールストロムによって見出された。昨季はレンジャーズで12勝をあげ、球団史上初のワールドシリーズ出場に貢献した。
 このように“シュール物件”にハズレが少ないのは、彼が日米双方の野球に精通しているからだろう。
 メジャーリーグではこれといった実績は残していないが、日本では日本ハムと広島に在籍し、クローザーなどで活躍した。その経験がスカウト活動に生きているのではないだろうか。
 外国人選手は当たりハズレが多く、「獲ってみなければわからない」などとよく言われる。ぜひ「成功する外国人投手の秘訣」について聞いてみたいものだ。

<この原稿は2011年9月11日号『サンデー毎日』に掲載されたものです>

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