まだ3年生ながら、松沼雅之(東洋大−西武)が保持していた通算15完封の東都大学野球リーグ記録に並んだ。来シーズンオフのプロ野球ドラフト会議の超目玉だろう。
 亜大の東浜巨は9月4日、日大相手に7安打シャットアウト勝ちし、通算23勝目を挙げた。無四球、三塁を踏ませない内容ながら「最悪でした。納得のいかない15個目になってしまった」「体が突っ込んで、切れもなくて何ひとついいところがなかった」と言うのだから、本当の実力はこんなものじゃないということだ。

 このゲームを神宮球場のバックネット裏から見ていた松沼は「死ぬまで破られないと思っていたんだけど、簡単に並ばれて嬉しくもあり、悔しくもある。20完封くらいまでいって、誰にも破られない記録をつくってほしい」と東浜にエールを送っていた。

 ルーキーながら巨人のローテーションの一角を担う沢村拓一を育てた中大・高橋善正監督にこの1月、「東都で一番いいピッチャーは誰か?」と訊ねてみた。
 高橋が真っ先に挙げたのが東浜だった。言うまでもなく高橋はプロ通算60勝の好投手で、巨人、日本ハム、横浜などで投手コーチを務めたこともある。巨人のコーチ時代には江川卓や西本聖らも指導している。その高橋が手放しで褒めたのが他校のエースだった。
「ここはストライクで追いこみましょう。ここは勝負にいきましょう。そういう頭の使い方、ボールの出し入れは東都で一番。あとはどれだけ体に筋力がついてくるかだろうね」
 教え子の沢村に対しては「シャットアウトした試合でも2アウトを取った後、8番バッターにポッと四球を与えたりする。“オマエ、何やってんの!?”と思ったことがありますよ」と辛口だったが、東浜に対しては「注文の少ないピッチャーだね」と感心している様子だった。

 東都には今季のドラフトの目玉もいる。東洋大のサウスポー藤岡貴裕だ。奇しくも4日、駒大相手に完封勝ちを演じた。東海大・菅野智之、明大・野村祐輔と並んで今ドラフトの“大学ビッグ3”と呼ばれている。
 左右の違いはあるが、この藤岡と東浜を比べた場合、どっちが上か。ここでも高橋は東浜に軍配を上げた。
「藤岡はボールの切れはあるけど、まだボールが全体的に高い。組み立ても東浜の方が上かな。東浜は1年生の春、キャッチャーのサインに首を振って投げていた。普通、下級生だと上級生の言いなりになるんだけど、それもない。こりゃ、しっかりした子だと思ったね」

 沖縄尚学では1年夏からベンチ入りし、3年のセンバツではエースとして優勝に貢献した。亜大に入ってからも順調に成長を遂げ、スピードも最速152キロをマークするまでになった。
 完封勝ちが多いのはゲームを支配できている証拠。いわゆる構成力。先発ピッチャーにとって、これは球速や変化球の切れよりも必要な能力だ。東都の「ドクター・ゼロ」に向けられる視線は、この先、さらに過熱しそうである。

<この原稿は2011年9月25日号『サンデー毎日』に掲載されたものです>

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