プロ野球もいよいよ大詰めを迎えています。セ・パ両リーグともにクライマックスシリーズ進出をかけたAクラス争いは最後までどうなるかわかりません。昨季、日本一となった千葉ロッテがリーグでは3位ということを考えれば、リーグ優勝以上にAクラス争いが気になるところ。果たしてどんな結果が待ち受けているのでしょうか。一野球人としては、いい試合を一つでもファンに見せてほしいと思っています。
 さて先日、昨年のドラフト会議から注目されていた対戦が早くも実現しました。今月10日に行なわれた田中将大(東北楽天)と斎藤佑樹(北海道日本ハム)の同級生対決です。結果は4−1で楽天の勝利。先発の田中は最終回、押し出し四球で1点を失ったものの、5安打12奪三振で完投。自己最多タイの15勝目を挙げました。

 5年目の田中は今季、春のキャンプでエースの座を奪い、沢村賞を獲得すると宣言したことだけのことはあり、心技体すべてにおいて充実しているようですね。ピッチングを見ていると、どの球種でも自信をもって投げられているのでしょう。ここぞという時にストライクゾーンでしっかりと勝負できています。25日現在、16勝5敗。防御率1.35はダルビッシュ有(日本ハム)をも凌ぎ、12球団でトップを誇っています。

 正直、今季の彼を見ている限り、課題点は見つかりません。高校時代は“平成の怪物”と謳われ、超高校級の球を投げていました。そしてドラフトの大目玉として注目を浴び、鳴り物入りで入ったプロにおいても田中の球は十分に通用するものでした。しかし、今季はこれまで以上の伸びとキレ、そしに4年間積み上げてきた自信が加わり、球にどっしりとした重みがあります。“プロで通用する”のレベルではなく、“一流のプロでも打てない”球へと進化しているのです。それだけに、今季はどこまで勝ち星を伸ばすのか、楽しみですね。

 一方、斎藤は10日の試合では4失点を喫し、負け投手となったものの、プロ初の完投を成し遂げました。25日現在、16試合に登板し、5勝6敗、防御率2.86。ルーキーながら先発ローテーションに入り、まずまずのピッチングを見せてくれていると言っていいでしょう。

 斎藤についてはさまざまな評価がありますが、私自身は“勝てるピッチング”ができるピッチャーだという印象をもっています。確かにこれといった武器はもっていませんが、どの球種でもストライクが取れますし、大事な場面でのコントロールが安定しています。沢村拓一(巨人)や牧田和久(埼玉西武)、塩見貴洋(楽天)など、一軍で活躍しているルーキーは他にもいますが、安定感という点では斎藤が一番ではないかと思います。

「4年間の差。でも、埋められない差ではない」
 田中との対決後、斎藤はこんなコメントを残しています。プロで4年間経験してきた田中の実力を認めつつも、近いうちに必ずや自分も同じレベルに達するつもりだという決意の表れですね。では、斎藤の課題は何でしょうか。ルーキーの中では安定感抜群とはいえ、やはりまだ打たれる時と打たれない時があります。その理由はアマとプロの違いです。例えばアウトローのボールを投げた時、アマならボール1個分ずれていても抑えることができていた球が、プロではそれが半個分でもずれると打たれてしまう。ですから、さらにコントロールの精度を上げる必要があるのです。

 斎藤のピッチングフォームを見ると、やはり下半身の力がまだ不足しています。しっかりとした下半身をつくり、体のひねりのスピードを上げれば、スピードもキレも増してくるはずです。そして、コントロールもさらに精度が高まることでしょう。フォームは配球うんぬんよりも、とにかく体を鍛えること。これこそが斎藤のピッチングのレベルを上げるカギと考えられます。

 2006年、夏の甲子園で“決勝再試合”という歴史に残る大熱戦を演じた田中と斎藤ですから、ライバルとして比較されるのは致し方のないこと。それは本人同士も承知のことと思います。しかし、実際には彼らは全く違うタイプのピッチャーです。つまり、斎藤が田中のようなピッチャーには今後、なり得ないということです。

 例えばダルビッシュや涌井秀章(埼玉西武)といったパワーで勝負するタイプである田中に対し、斎藤が目指すべきは力でねじ伏せるというよりも、チームの先輩である武田勝や岩隈久志(楽天)のような安定したピッチングで勝てるピッチャー。つまり、進行方向が全く違うのです。ですから、2人を並べて比較するのではなく、それぞれ違う良さを見てほしいですね。

 もちろん、過去に熱戦を繰り広げた2人の対決は今後も、プロ野球を盛り上げてくれることと期待しています。その時、単純に同じステージ上で比較されるのではなく、異なったタイプのピッチャーとしてそれぞれが認められた存在であってほしいのです。お互いの持ち味を十分に発揮したピッチングで、ファンを沸かせてほしい。2人がどんなピッチャーへと成長していくのか、今後も注目していきたいと思います。

佐野 慈紀(さの・しげき) プロフィール
1968年4月30日、愛媛県出身。松山商−近大呉工学部を経て90年、ドラフト3位で近鉄に入団。その後、中日−エルマイラ・パイオニアーズ(米独立)−ロサンジェルス・ドジャース−メキシコシティ(メキシカンリーグ)−エルマイラ・パイオニアーズ−オリックス・ブルーウェーブと、現役13年間で6球団を渡り歩いた。主にセットアッパーとして活躍、通算353試合に登板、41勝31敗21S、防御率3.80。現在は野球解説者。
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