ブラジルW杯アジア3次予選に、男女の五輪最終予選、そしてJリーグの激しい上位争い。今月はサッカーファンにとって話題に事欠かない1カ月だったのではないでしょうか。

  内田の成長は収穫

 まずは、いよいよブラジルW杯への道のりをスタートしたA代表の試合を振り返りましょう。初戦の北朝鮮との試合は、両チーム無得点のまま90分を経過し、後半ロスタイムに吉田麻也(VVVフェンロ)の劇的なゴールが決まり、勝利しました。続くアウェーでのウズベキスタン戦は、先制されて苦しみながらもなんとか追いつき、引き分けに持ち込んでいます。

 なぜ日本は予想以上に苦戦したのか。その原因としては、まず選手間の距離が間延びし、攻守の切り替えがスムーズにいかなかったことが挙げられます。8月の韓国戦で見せたように、選手間をコンパクトにしてボールを奪い、そこから速く攻撃を仕掛けることができていませんでした。この部分は今後、改善が求められます。

 また、本田圭佑(CSKA)の不在も響きました。これまでは本田が前線でボールをキープすることで、香川真司(ドルトムント)や岡崎慎司(シュツットガルト)がゴール前に飛び出す時間をつくれていたからです。とはいえ、本田が抜けただけで、攻撃が機能しなくなるのでは先が思いやられます。予選では常に同じメンバー、戦術で戦えることはまずありません。アルベルト・ザッケローニ監督は「複数のシステムで戦えるチーム」を目指していますが、システムだけではなく、選手が代わっても戦えるチームにすることも同じように重要です。

 もちろん、課題ばかりが見えたわけではありません。吉田や今野泰幸(FC東京)を中心にした守備陣は及第点を与えられる出来でした。北朝鮮戦ではCBの2人がチーム全体をコントロールし、危ない場面はほとんどなかったですね。また、ウズベキスタン戦では先制されたものの、その後は粘り強く守り、追加点を与えませんでした。ここで崩れなかったことが、岡崎の同点ゴールに結びついたのです。

 特に右サイドバック・内田篤人(シャルケ)の成長には目を見張るものがあります。南アフリカW杯以前の彼はクールさや華麗さが売りの選手でした。しかし、ウズベキスタン戦でも相手の決定的なシュートに対し体を張って阻止するなど、ドイツへ渡ってからは、プレーに力強さと激しさが見られるようになっています。チームのために泥臭く戦えるようになってきていると言えるでしょう。この内田の変化は、代表のレベルアップの上でも大きいと感じます。

 結果だけ見れば、日本は勝ち点4しか獲得することができなかったわけですが、私はそんなに心配していません。なぜなら予選はまだ始まったばかりです。苦しんだ今回の2試合は、この先の戦いへ向けて一度チームを見直すいい機会になったのではないでしょうか。

  なでしこ、ロンドンへ手応え

 次は来年のロンドン五輪の出場権を獲得したなでしこジャパンです。胸に世界一を示すワッペンをつけて臨んだ最終予選は、勝って当然というプレッシャーが大きかったと思います。11日間で5試合を戦う強行日程も重なり、なでしこジャパンは予想どおり苦戦しました。対戦相手からも世界女王としてマークされるわけですから、その中で予選を1位で通過したのは評価できます。

 佐々木則夫監督は結果だけでなく、チームのレベルアップも忘れていませんでした。日本は大会期間中、初戦のタイと最終戦の中国に若手を多く起用しましたね。ここには若手がどこまでできるかを試すだけでなく、主力の選手たちにポジションを奪われるかもしれないという危機感を抱かせる意図が強く表れていました。チーム内の競争を活性化させ、主力と控え、双方の底上げを狙ったのでしょう。結果的に、若手中心の試合でも、出場する選手が各々の役割を理解し、チームとして機能していました。佐々木監督も選手も手応えを掴んだのではないでしょうか。

 特に守備に目を向けてみると、5試合での失点数はわずかに2でした。この数字は、こうすれば点は取られないという、自分たちの守備のかたちを確立できつつあることを表しています。相手の攻撃時は、パスを受ける選手のマークにつくのか、それともボールホルダーにアプローチをかけにいくのか。その判断が個々人とも速く、組織だった守備が実践できていました。

 ロンドン五輪では、W杯の結果から、他国も日本のようなパスサッカーを展開してくることが予想されます。そこに外国人特有のフィジカルの強さがプラスされれば、日本が攻撃を仕掛けるスペースと時間は減少します。今後はさらに判断スピードを向上させ、技術力、連係力を強化していく必要があります。ロンドンではW杯以上の苦戦を強いられるでしょう。しかし、私は進化したなでしこジャパンが、再び世界を驚かしてくれると期待しています。

  求められる大迫の奮起

 最後に佳境を迎えつつあるJリーグについて触れておきます。残り7試合となった時点で、首位のガンバ大阪から4位の横浜F・マリノスまでの勝ち点差はわずかに3です。果たして、このなかで抜け出してくるチームはどこなのか。

 私は最終的に、ガンバが優勝すると考えています。彼らは、大崩れしない安定感と、勝ち点を確実にモノにする良い意味でのずる賢さを持ち合わせています。前節、12試合ぶりに負けはしたものの、次の浦和戦にはしっかりと修正してくるでしょう。ただ、昨季王者の名古屋グランパスが、勝ち点1差の2位の位置で虎視眈々と首位の座を狙っています。10月15日には直接対決が控えており、ここが勝負の分かれ目になるはずです。

 また私の古巣である鹿島アントラーズも前半戦の不振から抜け出し、現在は10試合連続負けなしで6位に順位を上げてきています。ただ、ここ3試合連続で引き分けに終わっていることから、絶好調とも言えません。守備陣は安定している一方、得点力が不足し、攻撃面でうまくいっていない印象です。

 その要因としては、攻撃に緩急をつけられる選手がいないことが大きいと思います。今は攻撃のスピードを上げるべきか、抑えるべきか。これまでは小笠原満男がその調整役を担っていましたが、最近2試合は出場機会がないなど、全盛期に比べると少しずつ衰えが出始めています。今の鹿島にはタメを作れて、かつ長短のパスで速い展開もできるようなチームを動かせるプレーヤーが必要ですね。

 さらに言えば、大迫勇也のプレーも物足りません。U−22代表ではいい動きを見せているだけに、鹿島でゴールが奪えないことがはがゆいですね。鹿島に入って今年で3年目ですから、プロの世界にも慣れてきているはずです。これからアントラーズを背負っていく選手のひとりとして、シーズン残り7試合、大迫の奮起を期待しています。


●大野俊三(おおの・しゅんぞう)<PROFILE>
 元プロサッカー選手。1965年3月29日生まれ、千葉県船橋市出身。1983年に市立習志野高校を卒業後、住友金属工業に入社。1992年鹿島アントラーズ設立とともにプロ契約を結び、屈強のディフェンダーとして初期のアントラーズ黄金時代を支えた。京都パープルサンガに移籍したのち96年末に現役引退。その後の2年間を同クラブの指導スタッフ、普及スタッフとして過ごす。現在、鹿島ハイツスポーツプラザ(http://kashima-hsp.com/)の総支配人としてソフト、ハード両面でのスポーツ拠点作りに励む傍ら、サッカー教室やTV解説等で多忙な日々を過ごしている。93年Jリーグベストイレブン、元日本代表。

*ZAGUEIRO(ザゲイロ)…ポルトガル語でディフェンダーの意。このコラムでは現役時代、センターバックとして最終ラインに強固な壁を作った大野氏が独自の視点でサッカー界の森羅万象について語ります。


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