海の向こうではワールドシリーズが開催され、レンジャーズとカージナルスとの激戦が繰り広げられていますね。第5戦を終えて、レンジャーズの3勝2敗。果たしてどちらが“世界一”の称号を得るのか、非常に楽しみです。さて、日本のプロ野球も佳境を迎えています。29日からはセ・パ両リーグで同時にクライマックスシリーズが開幕します。昨季はペナントレースで3位だった千葉ロッテがパ・リーグのペナントレースを制し、その勢いを駆って5年ぶり4回目の日本一を達成しました。果たして、今季はどんな戦いが見られるのでしょうか。
 クライマックスシリーズも今季で5年目となりました。過去4年間の戦いを見ていると、何よりもチームが勢いに乗れるかどうかが、重要なポイントとなっています。昨季のロッテがその代表例ですね。翻ってペナントレースで優勝した福岡ソフトバンクはロッテと対戦したファイナルステージ、自慢の打線がふるわず、実力を出し切れないまま負けてしまいました。優勝チームはペナントレース最終戦からファイナルステージまで、どうしても日が空いてしまいます。ここでの調整の難しさを改めて痛感させられた結果だったと思います。

 しかし、今季のソフトバンクは調整の難しさを感じさせない強さがあります。確かに昨季のソフトバンクも戦力が整っており、強かったのですが、今季は戦力に加えて非常に試合の内容自体が良かったのです。例えば打線では自己最多の60盗塁をマークし、昨季に続いて盗塁王を獲得した本多雄一にしろ、自己最多の83打点、25本塁打をマークした松田宣浩にしろ、よく相手を研究しているなというプレーが随所に表れていました。さらに今季、新加入した内川聖一が結果を残したことも大きかったですね。それも首位打者ですから、周囲への影響がどれだけ大きかったかは想像に難くありません。

 また、投手陣も“投手王国”にふさわしい人材が揃っています。先発は和田毅、杉内俊哉、ホールトン、そして今季中継ぎから先発に転向した摂津正と、非常に安定しています。抑えの馬原孝浩には多少の不安があるものの、ファルケンボーグ、森福允彦、金澤健人とリリーフ陣の層も厚い。打線同様、“線”としてのカバー力があるのが今季のソフトバンクの強さです。ペナントレースでは、まさに“勝つべくして勝った”と言っていいでしょう。過去一度もクライマックスでは勝利していない同球団ですが、今回は日本シリーズ進出の可能性は非常に高いと私は見ています。

 そのソフトバンクが待ち受けているファイナルステージ進出をかけて、ファーストステージを戦うのが2位・北海道日本ハムと3位・埼玉西武です。ペナントレース終盤の戦いを見ていると、勢いは西武にあるような気がします。西武はオリックスとの激戦の末に、わずか1毛差の大逆転でCS進出を決めました。それが逆にチームに勢いをもたらしているのです。今季の西武は、やはり“おかわりくん”こと主砲・中村剛也の活躍が目立ちました。“飛ばないボール”と言われた統一球が採用され、一様に長打が激減する中、中村は2度目の本塁打王を獲得した一昨年と同じ48本塁打を放ってみせました。

 そしてもう一人、私が注目したのが1番打者の栗山巧です。今季、最多四球を記録したのは中村でした。当たればホームランという大砲ですから、相手投手が警戒するのは当然ですね。その中村に次いで四球が多かったのが栗山なのです。加えて打率はチームトップの3割7厘。結果、出塁率は高くなり、日本ハムの糸井嘉男に次いでリーグ2位の3割9分1厘をマークしたのです。出塁率の高い1番打者の後には、3番・中島裕之、4番・中村と続くわけですから、相手投手には非常に脅威となったことでしょう。

 そして、忘れてならないのがルーキーながら前半は先発として、後半は抑えとしてチームに大きく貢献した牧田和久の存在です。1年目からチーム最多の55試合に登板し、5勝7敗22セーブ、防御率2.61。ここまでよく投げてきたと思いますが、やはり終盤に入って、やや疲れが見えていましたね。CS進出争いがかかった最終戦の日本ハム戦では、2点リードで迎えた最終回にマウンドに上がり、いきなり3連打を浴び、1死後に犠牲フライを打たれて1点差に迫られました。なおも2死一、三塁。CS進出のためには勝利が絶対条件でしたから、牧田にかかるプレッシャーは相当なものだったはずです。しかし、このピンチを味方の好守備にも助けられて凌ぎ、1点差を守り切りました。牧田にとっては、この1セーブは大きな自信となったはず。CSでもルーキーらしく、思い切って投げてほしいですね。

 対する日本ハムですが、シーズン終盤は打線の元気のなさが目立ちました。先発には絶対的なエースのダルビッシュ有と武田勝、セットアッパーとして今季開花した増井浩俊、抑えには守護神の武田久と、確かに投手陣は揃っています。全3試合を引き分ければ、日本ハムがファイナル進出となるアドバンテージもあるわけですから、得点しなくても得点されなければいいという考えはあるでしょう。しかし相手は打線のいい西武ですから、3試合すべてを完封というのは非常に難しい。とすれば、やはり打線が得点しなければいけません。その点で日本ハムは苦労することが予想されます。

 一方、セ・リーグの方はというと、中日は最多勝の吉見一起、絶対的なセットアッパーとして球団史上初の連覇に大きく貢献した浅尾拓也に代表するように、今季も投手陣は強いですね。また、今季、左肩痛で戦線離脱していた高橋聡文がCSに間に合ったというのも大きいですね。後ろには守護神の岩瀬仁紀が健在です。年々、岩瀬に対して不安視する声も聞かれますが、落合博満監督は彼の起用の仕方を熟知しています。岩瀬は浅尾のように、ピンチの場面で急な登板には向いていません。しかし、きちんと準備を整えさせた時点で、マウンドに上げれば、抑えとしての役割をきっちりと果たしてくれます。そのことを落合監督は十分に理解していますから、CSでも特に心配はありません。

 その中日に大逆転劇を喫し、2位に転落したのが東京ヤクルトです。投手陣に故障が相次ぎ、非常に苦しい試合を強いられたことを考えれば、正直、致し方のない結果だったと思います。特に中継ぎのバーネットが戦線離脱したのは痛かったですね。それだけにルーキー左腕の久古健太郎の台頭は大きかったことでしょう。リリーフ陣では唯一の左投手ですから、CSでも彼の存在は貴重になると思います。しかし、ヤクルトがファーストステージを勝ち抜くには、何といっても初戦の先発が予想されるエースの石川雅規がカギとなります。初戦、彼がしっかりと勝ち星を挙げることができれば、第2戦以降の投手陣も自信をもって投げることができます。しかし、もし彼がこけてしまえば、そのままガタガタといってしまう可能性は否定できません。ヤクルトのファイナル進出はエースの左肩にかかっていると言っていいでしょう。

 そのヤクルトと対戦する巨人は、最後の中日戦で3連勝と、セ・リーグでは最も勢いのあるチームと言っていいでしょう。阪神とのCS進出争いを制した最大の要因は、やはりシーズン途中から、迷走を呈していた抑えに久保裕也がピタリとはまってくれたことにあります。久保は真っ直ぐとフォークを同じ腕の振りから投げることができ、加えてコントロールが抜群。これには対戦するバッターも苦労させられたに違いありません。昨季までの久保は、どちらかというとプレッシャーに弱いというイメージがありましたが、今季の彼は違いましたね。夏には20試合連続無失点と球団新記録を達成するなど、安定感がありました。その最たる要因はやはり責任感をもったこと、そして自分の役割が確定したことで、気持ちを強くもって投げることができたのだと思います。CSでの投球にも首脳陣から大きな期待が寄せられていることでしょう。

 そして打線は今季から採用された低反発球に苦しみ、小笠原道大やラミレスといった主軸の打者が不振に陥るなど、苦労した感が否めませんでした。それが顕著に表れたのは、やはり本塁打数。昨季の226本に対し、今季は108本塁打と半数以下と激減したのです。しかし、終盤にきて主軸のバットからも快音が聞かれるようになってきました。ラミレスはもちろん、小笠原の調子も右肩上がりという印象があります。スランプに陥っていた時期はボールを見過ぎていて差し込まれていましたが、今は前でボールをさばけるようになっており、本来の自分自身のヒットポイントで打てています。チームも6連勝でペナントレースを締めくくり、セ・リーグでは今、一番勢いに乗っているといいでしょう。この勢いをヤクルト、中日がどう止めるのかがみどころとなりそうです。

 前述したように、今季は低反発の統一球の影響が各球団に少なからずも多少の影響を与えました。そのため、連勝もあれば、連敗も少なくなかったというのが今季の特徴だったと思います。その要因の一つには、昨季までのように一発での逆転が見込めないため、リードされると「早く追いつかなくちゃ」と焦りが生じ、そうしているうちに逃げ切られてしまうというパターンが多かったからです。短期決戦ではなおさら、先にリードを奪われると苦しいものです。ですから、しっかりと先取点を取って投手陣で逃げ切る体制がしけるかどうか、これがCSのポイントとなると思います。

佐野 慈紀(さの・しげき) プロフィール
1968年4月30日、愛媛県出身。松山商−近大呉工学部を経て90年、ドラフト3位で近鉄に入団。その後、中日−エルマイラ・パイオニアーズ(米独立)−ロサンジェルス・ドジャース−メキシコシティ(メキシカンリーグ)−エルマイラ・パイオニアーズ−オリックス・ブルーウェーブと、現役13年間で6球団を渡り歩いた。主にセットアッパーとして活躍、通算353試合に登板、41勝31敗21S、防御率3.80。現在は野球解説者。
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