アジア杯優勝、22年ぶりの平壌決戦、五輪最終予選、柏レイソルの初優勝――。2011年のサッカーシーンもさまざまなことがありました。その中で、最も心に残った出来事は、なでしこジャパンのW杯優勝です。苦境に立たされても決して諦めないなでしこの姿は、東日本大震災後の日本に「夢」と「希望」を与えてくれました。
  評価したい「なでしこ合同合宿」

 今なお夏の女子W杯の余韻が残る中、もう来年には五輪という大舞台が控えています。このほど、各日本代表のスケジュールが発表されましたが、男子と比べてもなでしこジャパンの強化内容は充実していますね。始動は2月のU-20女子代表、U-17女子代表との3世代合同合宿から。これはなでしこイズムを各世代に浸透させるいい試みだと思います。

 W杯でのなでしこは、高い技術力を生かしたパスワークと組織立った戦い方で世界と渡り合いました。今後もこのサッカーがなでしこのベースになるでしょう。そこで、このスタイルを各世代に共通して理解させることが求められてきます。各年代での戦い方が違えば、上のカテゴリーに進むたびに修正が必要になるからです。すべてが同じとはいかないまでも、「パスサッカー」「連動性」の軸は統一する。これにより、一貫した選手育成が可能になり、選手も方向性に戸惑うことが少なくなります。次世代を担う選手を育てなければ、なでしこに未来はありません。

 その後はポルトガルでの招待大会に参加し、4月にはアメリカ(FIFAランク1位)、ブラジル(同4位)との強化試合も組まれています。さらに五輪直前の6月にも欧州遠征を計画。世界の強豪とマッチメイクが可能になったことも、W杯効果といえるでしょう。五輪で金メダルを狙うには、言うまでもなく今まで以上にチーム戦術の相互理解を深め、個々のレベルアップが必要です。貴重な世界との戦いで、いい準備をして、ロンドンでも強いなでしこを見せてくれることを期待しています。

 A代表は来年6月から、ブラジルW杯アジア最終予選が始まります。アルベルト・ザッケローニ監督は「世界との戦い方を学ぶ必要がある」と語り、アジア以外の国との対戦を望み、また、アウェー経験の必要性を主張しています。最終予選、さらにW杯本大会では、11月の北朝鮮戦のような完全アウェーで戦うことが十分あり得るでしょう。その中でも勝利できるように、少しでも経験値を上げたい。2月のアイスランド代表戦、10月の海外遠征はその一環です。

 ザッケローニが言う「世界との戦い方」で重要になるのが「応用力」です。これは戦術や布陣の臨機応変さといったチーム全体の話のみならず、選手個人にも強く求められるものです。つまり、どんな状況、どのタイプの選手と対峙しても、自分の役割をシンプルにこなす。監督の立場になれば応用がきかない選手は使いづらいものです。応用力を磨くには、さまざまなタイプの選手と対峙してプレーの幅を広げることが大事になります。ザッケローニ監督は、その意味でもアジア以外の国とアウェーでの対戦を求めているのでしょう。

 そして、男子U-22代表は五輪最終予選の後半戦に突入です。2月にはU-22シリア代表、U-22マレーシア代表とのアウェー2連戦が待っています。カギになるのはシリア戦。前回の対戦では勝利したものの、2−1の接戦でした。試合会場は政情が不安定なシリア国内ではなく、中東での代替地開催の可能性も伝えられています。しかし、日本にとって長距離移動を伴うアウェー戦に変わりはありません。敵地だからといって慎重になり、後手に回ることは避けなければいけません。日本の将来を担う選手たちが、互角の相手、さらにアウェーという条件下で積極的に仕掛けられるか。この部分に注目したいですね。

 酒井のクロスはジョルジーニョ並み

 2011年のJリーグは柏レイソルの初優勝で幕を閉じました。そして、開催国枠でクラブW杯にも出場。見事、ベスト4進出を果たしました。大躍進の要因は、チーム全体が試合の状況に応じて何をすべきかを理解していた点になるでしょう。柏は攻撃的なサッカーを身上としています。ネルシーニョ監督はリードしている場面でも攻撃的な選手を投入し、「攻め続けろ」というメッセージを伝え続けてきました。それに選手たちもしっかり応えていたのです。これはJ2での戦いから築き上げてきたものでしょう。

 負けはしたものの、クラブW杯の準決勝、サントス戦でも攻撃的なサッカーで対抗していました。攻撃時のサポートや、ファーストディフェンス、セカンドボールへの対応といった守備の連動性においては柏のほうが上だったと思います。差があったのは個人の力。いくらチームがまとまっていても、日本代表同様、選手個人のスキルレベルがもう1つ、2つ上がらないと世界のトップレベルと渡り合うことは難しいと感じましたね。

 しかし、酒井宏樹は世界の強敵相手にも自身の実力を発揮していました。身長183センチと大柄で体の強さがありながら、俊敏性も兼ね備えており、うまくチャンスをつくりだしていたのではないでしょうか。特筆すべきは彼の「高速クロス」です。クロスの球筋は1本の線のようで、鹿島アントラーズでプレーしていた元ブラジル代表・ジョルジーニョを思い出しました。ジョルジーニョも中の選手にピンポイントで合わせるのではなく、ニアでもファーでも合わせられるライナー性のボールを蹴っていたものです。このようなボールはGKが前に出るポイントがつかみにくくなります。クロスのスピードもヨーロッパのサッカーで多く見られるレベルと言ってよいでしょう。従来の日本人とは異なる体格とテクニックを備えたサイドバックとして、これからが非常に楽しみです。今後はA代表を視野に入れ、戦術理解のスピードアップと、どんな環境でも力を発揮できるメンタリティを身につけてほしいですね。

 最後に、元日の天皇杯決勝について触れておきましょう。決勝まで勝ち進んだのはJ2のFC東京と京都サンガF.C.。99年に2部制が導入されて以降、J2クラブが決勝に進むのは初めてです。さらに今大会は、FC東京と京都を含めた6クラブのJ2勢がJ1相手に勝利を奪いました。これは、J1とJ2の実力差が縮まっていることを表しています。

 FC東京は来季のJ1復帰を決めていますし、京都はモンテディオ山形、鹿島、横浜FMと撃破して勢いに乗っています。個人的には古巣である京都の勝利をぜひ期待したいですね。優勝すればACLへの出場権を得られますから、J2のクラブが来季、アジアの強豪と戦うところを観てみたいものです。

●大野俊三(おおの・しゅんぞう)<PROFILE>
 元プロサッカー選手。1965年3月29日生まれ、千葉県船橋市出身。1983年に市立習志野高校を卒業後、住友金属工業に入社。1992年鹿島アントラーズ設立とともにプロ契約を結び、屈強のディフェンダーとして初期のアントラーズ黄金時代を支えた。京都パープルサンガに移籍したのち96年末に現役引退。その後の2年間を同クラブの指導スタッフ、普及スタッフとして過ごす。現在、鹿島ハイツスポーツプラザ(http://kashima-hsp.com/)の総支配人としてソフト、ハード両面でのスポーツ拠点作りに励む傍ら、サッカー教室やTV解説等で多忙な日々を過ごしている。93年Jリーグベストイレブン、元日本代表。

*ZAGUEIRO(ザゲイロ)…ポルトガル語でディフェンダーの意。このコラムでは現役時代、センターバックとして最終ラインに強固な壁を作った大野氏が独自の視点でサッカー界の森羅万象について語ります。
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