高さはおよそ300メートルほどの円錐形。頂点部分は病院になり、ホテル、スポーツクラブ、商業施設などが上層部には収まる。もちろん、下層部に位置するスタジアム部分も、エアコンが完備――。前回も書いたが、ドイツの建設会社で見せてもらった、カタールに造られる予定の最新型複合スタジアムの外観と概要は、言葉を失うほどに未来的だった。完成した暁には、サッカースタジアムとしてだけでなく、建築物としての魅力で世界中の観光客を呼び寄せることになろう。
 ちなみに、総工費は20億ユーロ程度だという。
 額を聞いた時には、あまりにも天文学的な数字にしか思えなかった。20億ユーロと言えば、空前の円高が進んだ現在でさえ、2000億円をはるかに超える巨費。東京スカイツリー総工費の約3倍である。ゆえに、これは潤沢な資金を誇るカタールゆえの話であって、日本には到底縁のない夢物語だとオートマチックに思い込んでしまっていた。

 もちろん、その考えは基本的にいまも変わらない。たかがスタジアムに2000億円も出すという発想は、いまの日本人には皆無だろう。だが、2000億円という数字に対する考え方は、ここ1週間でいささか変わりつつある。

 八ツ場ダム建設にかかる金額が4600億円程度だと知ってからは。

 もちろん、治水面、安全面などで不可欠な場合もあるダムと違い、スタジアムは所詮、娯楽のためのものである。なくて困る人、物足りなさを覚える人はいても、命を落とす人はいない。ただ、ダムを建設する理由のひとつに、地域に対する経済効果というものが含まれているのであれば、複合型スタジアムの建設は、新たな選択肢の一つとなりえるのではないか。

 スタジアムを造るには、道路を含めた周囲のインフラを整備しなければならない。ホテルや病院を併設するスタジアムであれば、決して少なくはない雇用も捻出される。老人ホームを併設し、地域の活性化を図っているスタジアムもある。そして、ダムと決定的に違うのは、スタジアムには定期的な集客能力がある、ということである。

 大正時代に「東洋一の野球場を」とのコンセプトで建設された甲子園は、21世紀に入ってもなお、高い魅力と集客能力を保ち続けている。新しいものは古くなるが、いいもの、高い志によって造られたものは、古くならない。いまはまだ無理にしても、いつかは日本に、地元を元気にするための手段としてスタジアム建設を考える政治家、官僚が出てきてくれたら――。それが、来年へ向けての夢である。

<この原稿は11年12月29日付『スポーツニッポン』に掲載されています>
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