長きに渡って行なわれてきた日米双方の野球界のストーブリーグも、いよいよ終了間近となってきました。今回も日本人選手の移籍が大きな話題を呼びましたね。新たにメジャー入りを果たしたのは、和田毅(福岡ソフトバンク−オリオールズ)、岩隈久志(東北楽天−マリナーズ)、青木宣親(東京ヤクルト−ブルワーズ)、そして日米で記者会見を開いたばかりのダルビッシュ有(北海道日本ハム−レンジャーズ)の4選手です。世界最高峰の舞台で、彼らがどんなプレーを見せてくれるのか、今から非常に楽しみですね。また、マリナーズとマイナー契約をした川崎宗則の今後の動向も気になるところです。
 さて、既にメジャーリーガーとして活躍している日本人選手では、ドジャースからFAとなっていた黒田博樹がヤンキースと1年契約をしました。ヤンキースといえば、史上最多の27度のワールドシリーズ制覇を誇る、メジャーの中でも人気、実力ともにトップクラスの球団であることは周知の通りです。しかし、近年では主力選手の高齢化が進み、チームは厳しい状況にありました。特にペティットが現役引退した昨シーズンは、バーネットが不振にあえぎ、先発の柱はサウスポーのサバシア一人。新人のノバとベテランのガルシアが、予想外の活躍を見せ、プレーオフ進出は果たしたものの、地区シリーズで敗退しました。その要因が先発不足にあったことは明らかです。そこで、ドジャースでしっかりと実績を残してきた黒田に白羽の矢が立ったのです。サバシアに次いで、ローテーションをしっかりと守ってくれるだろうという期待が寄せられていることは想像に難くありません。

 ヤンキースがいるアメリカンリーグ東地区には、メジャーを代表する強打者がズラリと並び、ドジャースがいるナショナルリーグ西地区の打者以上に、どんどんバットを振ってきます。昨シーズン、ヤンキースを除いたア・リーグ東地区の4球団の総本塁打数が752本に対し、ドジャースを除いたナ・リーグ西地区の4球団のそれは547本。この数字だけでも、ア・リーグ東地区の打撃力のすさまじさがわかります。ピッチャーとしては、厳しい状況下で、果たして黒田のピッチングは通用するのか。今シーズンの活躍次第では、来シーズン以降、ヤンキースとの大型契約も可能になるはずです。そういう意味では、今シーズンは黒田にとって試金石となることでしょう。

 ドジャースでの4年間の成績を見てみると、年々、投球回数が増えている一方、自責点は減り、防御率がよくなっています。要因は低めへの意識が高まったことにあるのではないかと思います。特に1年目のシーズン、黒田は勝負球が高めにいってしまうことが少なくなく、一度打たれると、ビッグイニングにしてしまうことがよく見受けられました。しかし、2年目からは丁寧に低めに投げ、うまく緩急を使ってタイミングを外したうえで勝負にいくようになりました。これこそが黒田の真骨頂。カープ時代のピッチングを取り戻してきたようです。とはいえ、まだ戻り切ってはいません。気の強さが出過ぎて、最少失点で抑えて欲しいという場面で単調なピッチングになってしまい、ビッグイニングにしてしまうこともあるのです。

 黒田はカープ時代から、勝負どころでは「これでもか!」というほど強気にストレートで押すタイプのピッチャーです。そのしつこさが、黒田のピッチングではあるのですが、そこにたどりつくまでの前段階が必要です。カープ時代は緩急を使ってタイミングを外したうえでの勝負どころで攻めのピッチングをしていたからこそ、バッターは面食らっていたのです。ところが、メジャーでは単にむきになって勝負にいき、甘いコースにいってしまったボールを痛打されています。勝負にいくまでの冷静さをもう少し取り戻しさえすれば、安定感は増すはずです。そうすれば、打撃力は十分にあるヤンキースですから、自ずと勝ち星は増えてくることでしょう。ぜひ、右のエースとして15勝以上を目指してほしいと思います。


佐野 慈紀(さの・しげき) プロフィール
1968年4月30日、愛媛県出身。松山商−近大呉工学部を経て90年、ドラフト3位で近鉄に入団。その後、中日−エルマイラ・パイオニアーズ(米独立)−ロサンジェルス・ドジャース−メキシコシティ(メキシカンリーグ)−エルマイラ・パイオニアーズ−オリックス・ブルーウェーブと、現役13年間で6球団を渡り歩いた。主にセットアッパーとして活躍、通算353試合に登板、41勝31敗21S、防御率3.80。現在は野球解説者。
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