昨年の12月17日(土)、天皇杯4回戦での対浦和レッズ戦を終え、愛媛FCの2011シーズンは幕を閉じた。 
 J2リーグ戦では、10勝14分14敗で、20チーム中15位という成績に終わった愛媛FC。残念ながら、シーズン当初の目標順位を達成することはできなかった。それだけに、さまざまな課題が見えてくる。
(写真:リーグ戦最終節、熱い応援を展開する愛媛サポーター!)
 まずイヴィッツァ・バルバリッチ監督もシーズン終了後に指摘していたが、引き分けの数が多すぎる。「14」という引き分け数は、J2昇格後、もっとも多い数字である。劣勢の展開から土壇場で追いついた試合もあったと思うが、勝てているゲームをみすみす逃してしまったような、勿体無い試合もあったと思う。「接戦になった時にどう勝ちきるか? リードしてゲームの終盤を迎えた時、チームとしての姿勢をどう決めるか?」など、あらゆる状況における対応策を検討し、スタミナやメンタル面の強化とともに改善に努めてほしいと思う。
 
 また、10シーズンでは守備の良さが自慢だったが、11シーズンは、その良さも影を潜め、チーム通算「54」という失点数(10シーズンは34)。
 しかし、攻撃面では改善が見られ、シーズン中14得点(J2得点ランキング第3位)を決めたFW齋藤学選手の活躍などもあって、チーム全体で44得点をマークした。

 その攻撃力を象徴したようなシーンがある。J2リーグ最終戦(第38節)の対ガイナーレ鳥取戦において、前半33分に愛媛FCが見せたゴールシーンだ。
 敵陣内の左サイドにてボールをキープする齋藤選手が同サイドのMF大山俊輔選手へとパスを送る。トラップを挟みつつ齋藤選手へとボールを戻す大山選手。齋藤選手が敵ペナルティエリアに陣取るFW石井謙伍選手にボールを通すと、敵DFを背負いつつ、再び大山選手へと繋ぐ。大山選手はゴール前に飛び込む齋藤選手へとラストパスを供給。最後は、齋藤選手が鮮やかなシュートを決めた!
(写真:JFL時代以来、久しぶりとなる鳥取のバードスタジアム)

 スピーディーで細かく巧みな連係プレーは、愛媛の目指すパスサッカーの完成形を目撃したような衝撃を受けたし、本当に美しいゴールだった。更なる進化を遂げるであろう12シーズンの攻撃陣にも引き続き期待したい。

 
 一方、天皇杯ではリーグ戦終盤の最中に臨んだ3回戦で意地を見せ、サンフレッチェ広島(J1)を降して久しぶりの4回戦進出を成し遂げた。
 その4回戦では、浦和レッズ(J1)と対戦した。試合会場は、熊谷スポーツ文化公園陸上競技場(埼玉県)。当日、会場は晴天には恵まれたが、肌を刺すような冷たい風に襲われ、厳しい寒さの中での試合となった。
 
 愛媛は序盤から積極的な攻撃姿勢を見せるものの、ゴール間際での決定力に欠け、終盤まで無得点。対する浦和は、セットプレーなどから得点を積み重ねていった。スコア0−3で迎えた後半のアディショナルタイム。11シーズン限りでの引退を決意したあの男が、最後に素晴らしい演出を魅せてくれた。

 中盤に陣取る大山選手からのフィードボールを、敵陣内の左サイドで受けたのはDF三上卓哉選手だ。彼は埼玉県出身で、浦和レッズでプロとしての選手生活をスタートさせた。その後、京都パープルサンガに移籍。2008年からは愛媛FCで活躍した。そして、11シーズンで現役選手を退くことになったのだ。

 足元にボールを収めた三上選手はワントラップを挟みつつ、狙いを定めて左足を豪快に振り抜き、敵ゴール前に向けてアーリークロスを供給した。このクロスボールを捉えたのは、FW福田健二選手。敵ペナルティエリアへと走り込み、敵GKの頭上を狙ったヘディングシュート! ボールは、弧を描きながら、敵GKの伸ばした手の先をすり抜け、見事、ゴールイン! 熊谷に駆けつけた愛媛サポーターから大歓声が沸き起こった!
 福田選手のゴールは、もちろん素晴らしかったが、三上選手のアシストも精度が高いクロスで、本当に素晴らしいものであった。去り往く男の最後の意地を感じるようなプレーだった。
 
 試合は、愛媛が一矢報いたところでタイムアップ。最終スコアは1−3で敗戦となり、天皇杯ベスト8進出とは、ならなかった。
 三上選手に対してブーイングを飛ばしていた浦和レッズのサポーターたちが、試合を終え、彼に向かって「ミカミ! ミカミ!」の温かい労いのコールと拍手を送っていたことが印象的であった。
 
 11シーズンは終了したが、12シーズンを迎える準備は既にスタートしている。J2リーグでは、昇格ルールや基準も見直され、降格の制度も導入される。より一層、タフでサバイバルなシーズンを闘わなくてはならないだろう。私たちサポーターも気を引き締めて、新しいシーズンへと臨みたいものだ。

松本 晋司(まつもと しんじ)プロフィール
 1967年5月14日生まれ、愛媛県松山市出身。
 愛媛FCサポーターズクラブ「Laranja Torcida(ラランジャ・トルシーダ)」代表。2000年2月6日発足の初代愛媛FCサポーター組織創設メンバーであり、愛媛FCサポーターズクラブ「ARANCINO(アランチーノ)」元代表。愛媛FC協賛スポンサー企業役員。南宇和高校サッカー部や愛媛FCユースチームの全国区での活躍から石橋智之総監督の志に共感し、愛媛FCが、四国リーグに参戦していた時期より応援・支援活動を始める。
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