今年も球春到来! 2月1日からプロ野球では一斉にキャンプがスタートしました。18日からはオープン戦も始まり、3月30日の開幕に向けて、徐々に実戦的な内容になってきていますね。私も沖縄・宜野座で行なわれている阪神のキャンプを視察してきました。和田豊新監督の下、チーム全体に明るさがあり、鳥谷敬や城島健司、金本知憲といった中堅やベテラン選手が元気で、若い選手も多いことから、活気に満ち溢れていました。大きなケガ人も出ることなく、順調なキャンプが送れているようです。
 さて、和田監督ですが、キャンプ3日目には投手と野手の練習メニューを逆転させ、話題を呼びましたね。長年、さまざまな監督の下でコーチを務めてきた和田監督ですから、「自分が監督になったらこういうことをやってみたい」と、あたためてきたものがたくさんあるのでしょう。とはいえ、内容的には変わったことをしているわけではありません。投手と野手を逆転させたのも、忘れがちな基本を再認識させるためにしたこと。選手にとっても、いいスパイスになったことでしょう。

 今回の視察で、私が最も印象に残ったのは金本です。メディアで報道されている通り、身体の状態は非常にいいですね。昨年とは雲泥の差です。肩も問題なく投げられていますし、バッティングも例年以上に調整の早さを感じました。19日の巨人とのオープン戦では「4番・DH」で先発出場し、3打席でヒットは出なかったものの、しっかりとバットが振れていました。その姿からも、順調に仕上がっていることが窺い知れました。

 先発と中継ぎの狭間での競争激化

 一方、投手陣はというと、和田監督いわく、今シーズンは試合の終盤、7、8、9回の3イニングでいかに逃げ切る体制を整えられるかということがポイントになってくるようです。8、9回は榎田大樹と藤川球児がいますので、問題は7回を誰に任せるかということになります。現在、先発ローテーションが確実視されているのは、能見篤史、岩田稔、メッセンジャー、スタンリッジの4人。彼らに続く5番手、6番手の枠を小林宏、久保康友、安藤優也、そして若手の鶴直人、秋山拓巳が争っている状態です。

 チームとしては、ローテーションの中に少なくとも1人は若手を入れたいという気持ちがあるでしょう。また、鶴、秋山は今のところ順調で、結果も残してはいるものの、セットアッパーというポジションを任せるには、やはり不安が残ります。というのも、彼らは調子のいい時は力を発揮できるのですが、調子が悪い時にもそれなりに投げてくれるという安心感はまだありません。そう考えると、小林、久保、安藤のうち、ローテーションからあふれたピッチャーがセットアッパーにまわるのではないかと思います。さらに久保田智之や福原忍、そして左の筒井和也がシーズンを通して安定してくれれば、強固な中継ぎ陣を形成することができるでしょう。

 榎田よ、早めの準備を!

 ルーキーイヤーの昨季、62試合に登板し、チームに大きく貢献した榎田ですが、心配なのは疲労が残っていないかどうかです。しかし、昨季と比べると、ゆっくりと調整しているように見受けられました。きちんと自分で考えてやっているのでしょう。こうしたところも、彼が活躍できる所以なのではないかと思います。しかし、メンタル面での疲労を考えると、2年目の今シーズン、どういう気持ちでマウンドに立つかということも気になります。

 昨シーズンの前半戦、怖さを知ることなく投げていた榎田には勢いがありました。しかし、中盤以降、打ち崩される場面もあり、前半戦のように腕を思いっきり振って投げられていないことも少なくなかったのです。結果的には最後までそれなりに頑張ってはいましたが、怖さを知ったことで、果たして今シーズンはどうなのか。不安をもったままマウンドに上がり、慎重になり過ぎて、彼の良ささえも消えてしまっては何にもなりません。いわゆる“2年目のジンクス”はこうした不安から起こるのです。

 私自身、同じような経験をしました。1年目、まずまずの成績を残した私は、2年目のシーズン前、「今シーズンも自分のボールは通用するのだろうか」という不安がありました。そこでオープン戦では内容うんぬんではなく、“準備”することに注力したのです。例えば、配球を無視して、あえて真っ直ぐばかり投げてみたり、自分の勝負球であったアウトローへのスライダーを多投してみたり……。それも、ファウルなのかゴロなのか、空振りなのかを想定しながら投げるのです。

 その結果、空振りを狙って投げた球がヒットにされれば、「もっと精度を高めなければいけない」とか「低めに投げなければ打たれてしまう」などと、反省材料が出てきます。それを開幕までに修正していくのです。つまり、早めの時期にいろいろと試し、準備していくことで、落ち着いてペナントレースに入ることができるわけです。榎田は1年目にあれだけの成績を収めたのですから、チームからの信頼は十分に得られているはずです。そうであれば、結果を出さなければいけないとがむしゃらになる必要はありません。今からいろいろと試し、準備をして、自信をもって開幕を迎えてもらいたいと思います。

 城島、金本の存在

 今シーズン、プロ18年目にして新たなチャレンジをしているのが、城島ですね。昨年手術したヒザが完治せず、今シーズンにおいてのキャッチャーとしての復帰が難しいことから、出場機会を求めて、ファーストのポジション獲得を目指しています。今シーズン、最大の敵となることが予想されるのが、大量補強し、戦力的に頭一つ抜けている巨人でしょう。その巨人には、新加入の杉内俊哉と最多勝投手の内海哲也という強力なサウスポーがいます。同じファーストを狙うブラゼルが左投手が得意でないことを考えても、打線に城島がいるというのはチームにとって非常に大きいでしょう。

 確かに守備は安心はできませんが、それでもブラゼルと比較しても、ブラゼルはワンバウンドの捕球は巧いものの、動き自体は城島もブラゼルもそう変わりはありません。多少、守備は目をつぶってでも、城島を起用する価値は十分にあるはずです。とはいっても、城島が1年間、出場することは難しいでしょうから、ブラゼルとの併用となるでしょう。どちらも強打者ですから、それはそれで、相手にとっては脅威となるのではないかと思います。

 今シーズンの阪神は、昨シーズンとほぼ同じメンバーで、一見、何の変化も強化もされていないように見えますが、実は昨シーズンよりもチームは戦力アップしています。というのは、昨シーズン、城島は故障で38試合の出場にとどまりました。そして、金本もシーズンを通して出場はしていたものの、決して万全ではなく、成績も振るいませんでした。そう考えると、この2人が今シーズン、中心となって活躍すれば、昨シーズンよりも自ずと戦力アップすることは間違いありません。精神的支柱でもある彼らですから、チームにとって、2人が常に試合に出場することは大きなプラスとなることでしょう。このまま順調にいけば、強いタイガースが期待できそうです。


佐野 慈紀(さの・しげき) プロフィール
1968年4月30日、愛媛県出身。松山商−近大呉工学部を経て90年、ドラフト3位で近鉄に入団。その後、中日−エルマイラ・パイオニアーズ(米独立)−ロサンジェルス・ドジャース−メキシコシティ(メキシカンリーグ)−エルマイラ・パイオニアーズ−オリックス・ブルーウェーブと、現役13年間で6球団を渡り歩いた。主にセットアッパーとして活躍、通算353試合に登板、41勝31敗21S、防御率3.80。現在は野球解説者。
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