凡戦だった。
 4月4日、横浜アリーナでのプロボクシングWBA世界バンタム級タイトルマッチ、亀田興毅対ノルディ・マナカネ(インドネシア)戦のことである。
(写真:試合前は「力の違いをみせたい」と豪語していたが……)
 117−110、118−110、115−113……3人のジャッジは、かなりの差をつけて亀田の優勢を支持していたが、観ていて、とても圧勝劇には思えない。むしろ、見方によっては、いずれが勝者でも、引き分けでもよいような試合内容だった。ちなみに私の採点は、「チャレンジャーこそ攻めるべき」とのテーマに絞って観ての115−114……亀田の判定勝ち。

 互いに決定打を打てない。それどころかチャンスメイクのために斬り込もうともしない。ダラダラとラウンドが進んでいった印象だ。
「2ラウンドに左拳を痛めて闘い方が変わった」
 試合後に王者は、そう言い訳したそうだが、これが本来の亀田の実力ではないか。

 亀田興毅。3階級制覇。
 WBA世界ライトフライ級チャンピオン。
 WBC世界フライ級チャンピオン。
 WBA世界バンタム級チャンピオン。

 肩書だけ見ると実に華やかである。
 しかし、世界戦で拳を交えてきた8人の選手名を書き出すと、これが3階級制覇の足跡かと疑いたくなるほど淋しいものになる。

 ファン・ランダエタ(ベネズエラ)、内藤大助、ポンサクレック・ウォンジョンカム(タイ)、アレクサンデル・ムニョス(ベネズエラ)、ダニエル・ディアス(ニカラグア)、ダビド・デラモラ(メキシコ)、マリオ・マシアス(同)、そして今回の相手マナカネ。

 ムニョスは、かつて23試合連続KO勝ちをマークしたスーパーフライ級の名王者であるが、一昨年に亀田と対戦した時は一度、引退した後の復帰2戦目。この時すでにビックネームではなくオールドネームだった。それ以降もディアス、マシアス、マナカネとランキング10位以内に入っていない選手の名が並ぶ。

 世界戦9試合のなかで評価されるマッチメイクは、“タイの英雄”ポンサクレック戦だが、これは指名試合。ポンサクレックには最後まで翻弄され、判定で完敗を喫している。

 3階級を制覇しながら、ボクシング関係者の間で亀田が高く評価されない要因は、ここにある。
 つまり、亀田は周囲の誰もが認める強者に立ち向かい、ベルトを奪って守り続けてきたのではない。「勝てる相手」「闘いやすい相手」を選び、それをタイトルマッチにうまく当てはめてきたのだ。もう少し言えば、世界に挑戦する前も亀田は同じことをやっていた。ほとんどキャリアのない選手、ピークを完全に過ぎた選手をタイから呼び、KO勝ちを重ねていたのである。「つくられた3階級王者」との観は否めない。

「相手が外国人だったら、どうせ初めて日本で試合をするのだから、皆、強そうに見えるだろう。だったら弱いヤツと闘わなきゃ損だ」
 そんな亀田陣営の思惑は、すでにお茶の間にも見透かされている。果たして次戦でWBO世界バンタム級王者のホルヘ・アルセと闘う勇気が亀田にあるのだろうか?

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近藤隆夫(こんどう・たかお)
1967年1月26日、三重県松阪市出身。上智大学文学部在学中から専門誌の記者となる。タイ・インド他アジア諸国を1年余り放浪した後に格闘技専門誌をはじめスポーツ誌の編集長を歴任。91年から2年間、米国で生活。帰国後にスポーツジャーナリストとして独立。格闘技をはじめ野球、バスケットボール、自転車競技等々、幅広いフィールドで精力的に取材・執筆活動を展開する。テレビ、ラジオ等のスポーツ番組でもコメンテーターとして活躍中。著書には『グレイシー一族の真実〜すべては敬愛するエリオのために〜』(文春文庫PLUS)『情熱のサイドスロー〜小林繁物語〜』(竹書房)『キミはもっと速く走れる!』(汐文社)ほか。
連絡先=SLAM JAM(03-3912-8857)
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