【優勝争いの行方は?】

 ロックアウトのおかげで例年より遅れてスタートしたNBAのレギュラーシーズンも残り1カ月を切り、勢力地図は少しずつ明確になり始めている。
 優勝候補と目されているのは、イースタンカンファレンス首位のシカゴ・ブルズ(43勝13敗)、2位のマイアミ・ヒート(39勝14敗)、ウェスタンカンファレンス首位のオクラホマシティ・サンダー(40勝14敗)の3チーム。今季のNBA王者は、総合力で他を引き離すこの3強の中から出ると考える関係者が圧倒的に多い。
(写真:全米を熱狂させるNBAプレーオフの開幕も近い)
 ブルズはディフェンスを固めて切り札のデリック・ローズを軸に突破口を見出す勝ちパターンを確立し、ヒートは説明不要のビッグスリー(レブロン・ジェームス、ドウェイン・ウェイド、クリス・ボッシュ)を擁している。
 サンダーも3枚の攻撃の武器(ケビン・デュラント、ラッセル・ウェストブルック、ジェームス・ハーデン)と、2枚の守備の要(セージ・イバーカ、ケンドリック・パーキンス)を揃え、バランス的には3強の中でもベストかもしれない。

 それぞれリーグを代表するスーパースターたちに率いられているだけに、ヒート対サンダー、あるいはブルズ対サンダーのファイナルが実現すれば、NBAの領域を越えるほどの注目を集めそう。そしてその中から勝ち残ったチームのエース(ローズ、レブロン、デュラントの中の誰か)は、現代のNBAを代表する存在として名声を確立することにもなるはずだ。

【ダークホースは2つのベテラン集団】

 この3強を崩す可能性があるチームは決して多くはないが、なかでも最後まで見限れないと考えられているのが2つのベテラン集団である。
 4月1日まで5連勝を飾ったボストン・セルティックス(30勝24敗)は、ここに来てアトランティック地区首位に浮上。現在9連勝中のスパーズ(38勝14敗)もウェスタンカンファレンス2位につけ、この大事な時期に測ったように調子を上げてきている。

 ケビン・ガーネット(35歳)、レイ・アレン(36歳)、ポール・ピアース(34歳)というセルティックス自慢の“ビッグスリー”は徐々に高齢化。スパーズの大黒柱であり続けてきたティム・ダンカンも35歳、マヌー・ジノビリは34歳となり、かつてのようにチームを支えることは難しいと目されていた。

 しかしシーズンが進むにつれて態勢を整え、プレーオフも近づいた時期に勝ち始めたことは流石としか言いようがない。セルティックスはドック・リバース、スパーズはグレッグ・ポポビッチと経験豊富な名将に率いられていることも大きく、両軍ともにプレーオフでも“誰も対戦したくないチーム”であると言ってよいだろう。

 順当ならばセルティックスはプレーオフ第2ラウンドで、スパーズはカンファレンスファイナルで“3強”の一角と激突することになる。やはり不利は否めないが、勝機がまったくないとも思わない。
 この大一番で、今が旬の常勝チームを撃破するために彼らが必要なものは何か。鍵となるのは前述したベテランたちではなく、2人のポイントガードだろう。セルティックスのレイジョン・ロンド、スパーズのトニー・パーカーが大舞台でチーム内の重鎮たちを上手に活かし切ったとき……古豪チームの最後の快進撃が、にわかに現実味を帯びてくる。
(写真:セルティックスの最後の快進撃がなるかどうかはロンドの出来次第)

【MVP争いは?】

 シーズン中盤までMVP候補と呼ばれた選手の中で、クリス・ポール(クリッパーズ)、コービー・ブライアント(レイカーズ)はチームの成績がもう1つ伸びないこともあって脱落。トレード問題で揺れたドワイト・ハワード(マジック)、所属チームがプレーオフから遠いケビン・ラブ(ティンバーウルブズ)も、個人成績がいかに素晴らしくとも多くの票を集めることはないはずだ。

 そんな中で、最有力候補はやはりデュラント(平均27.6得点、8.1リバウンド、3.5アシスト)、レブロン(平均26.9得点、8.1リバウンド、6.5アシスト)という現役を代表するスーパースター2人だろう。
 今季は残してきた数字では全体的にレブロンの方がやや上で、現時点で一番手に挙げる声がやはり最も多い。しかしゲーム終盤の劇的なショットはデュラントの方が多く、印象の良さでは上回っているかもしれない。

 4月4日のサンダーとの直接対決では、レブロンが34得点、10アシスト、7リバウンドの大活躍。見事にヒートを勝利に導き、これでレブロンが一歩リードと見る関係者は多い。しかしデュラントも終盤戦に爆発してサンダーをリーグ最高成績に導くようなことがあれば、また逆転するかもしれない。
(写真:レブロン(左)はMVPとファイナル制覇の2冠達成なるか)

 一般的に現役No.1、No.2選手と目されることも多いレブロンとデュラントのうち、どちらがリーグMVPの栄誉に輝くのか。両雄はこのまま熾烈な争いを続け、ファンを最後まで楽しませてくれそうな気配である。

【注目選手は?】

 NBAベストレコードで突っ走るブルズの中で、心配されるのがエースのデリック・ローズのコンディションである。
 昨季MVPを獲得したローズは、今季も平均22.8得点、8.0アシストと一流の成績を残してきた。しかしその一方でほぼシーズンを通じて股関節の痛みに悩まされており、欠場したゲームはすでに22戦にのぼる。3月14日以降は1度もプレーしておらず、サイドラインで回復を待ち続けている。
(写真:最近は注目度も高いローズだが、故障離脱が長引いているのが気になるところだ)

 エース不在でもブルズはペースを保ち、ローズ抜きの22戦中で15勝を挙げているのは見事ではある。エースへの負担が大き過ぎることが弱点とされてきたチームにとって、ここで他の形での勝ち方を学んでいることはプラスに働く部分もあるかもしれない。4月下旬のプレーオフ開始までまだ間があるだけに、それほどの懸念は必要ないという見方にも一理あるのだろう。

 ただ……ブルズのサポーティングキャストの頑張りには好感が持てるとはいえ、やはりローズの復権なしにファイナル制覇はあり得ない。そしてローズがただ復帰するだけでなく、心身ともに100%の状態に戻らない限り、レブロン、ドウェイン・ウェイド、デュラントらを相手に勝機があるとも思えない。
 爆発的なアタックと謙虚な人柄で一躍リーグの人気者になったローズは、決戦の場に完調で望めるのか。191cmのNBA選手としては小さな身体に、全米のスポーツファンの視線が注がれることになる。


杉浦大介(すぎうら だいすけ)プロフィール
1975年生、東京都出身。大学卒業と同時に渡米し、フリーライターに。体当たりの取材と「優しくわかりやすい文章」がモットー。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシング等を題材に執筆活動中。

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