バルセロナのグアルディオラ監督が退任を発表した。「ああ、やっぱり」というのがわたしの感想である。
 先週の本欄でも書いた通り、歯車の一つ、ただし飛び抜けて傑出したメッシが、歯車に収まり切らないスケールに成長したことで、バルセロナのバランスは崩れてしまった。
 かといって、いまさらメッシに「元へ戻れ」などと言えるはずもない。今後のバルサは、アルゼンチン代表がそうだったように、そしてC・ロナウドを獲得したレアル・マドリードがそうであるように、メッシを特別な存在として認識するところからチーム作りをしていくことになろう。いままでの哲学を考えれば、これはチームを1から作り直す作業に等しい。

 空前の高みにまでたどりついたのに、またやり直し――グアルディオラ監督がひとまずチームを離れる決断に至るのは、十分に予想できたことだった。

 後任監督には以前から監督の右腕とされてきたビラノバ・コーチの昇格が発表されている。バルサの哲学も、選手の性格も熟知している人物であり、いまのところ、現地のファン、メディアからも好意的な受け止められ方をしている。

 基本的には“キープ・コンセプト”とも言えるこの監督交代劇だが、これと正反対の決断を下したのが15年前のバルサだった。“ドリームチーム”と言われ、現在のバルサの基礎を作ったクライフを更迭した当時のフロントは、その後釜として英国人のボビー・ロブソンを選んだ。トータル・フットボールとも、ポゼッション・サッカーとも無縁な人物に白羽の矢が立てられたのだ。

 結果としてこの監督交代は無残な結果に終わり、バルセロナは再びクライフ的なサッカーへ回帰していくことになる。名の知れた監督ではなく、あえて内部にいたコーチを昇格させた今回の決定には、間違いなくこの時の教訓が生かされている。

 だが、成長を続けるメッシという怪物は、これからのバルサに新しい哲学を要求することになる。グアルディオラ監督とともに現在のバルサを積み上げてきたビラノバ・コーチは、その要求に応えられるのか。一歩間違えば、“キープ・コンセプト”が裏目と出てしまう可能性も大いにある。

 どんなチームにとっても、偉大な監督の後釜を探すのは容易なことではない。そして、偉大な監督の後釜についた人物が前任者を超えた例は、ごくごく稀でしかない。バルサは来季も眩しく輝き続けるのか。それとも斜陽の残光と変わるのか。答えが出るのは、そう先のことではない。

<この原稿は12年5月3日付『スポーツニッポン』に掲載されています>
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