2年目のシーズン、さらなる飛躍を誓う男がいる。
 東北楽天の塩見貴洋だ。ルーキーイヤーの昨季は、同期入団の斎藤佑樹(北海道日本ハム)を上回る9勝(9敗)をあげ、防御率2.85と好成績を残した。岩隈久志(マリナーズ)が抜けた今季は、エースの田中将大に次ぐ先発として期待され、初登板となった4月3日の福岡ソフトバンク戦ではプロ初完封をマークした。ここまでチームトップの3勝(3敗)をあげている。現状、田中が腰痛で離脱しているなか、チームの中心投手として投げ続ける若き左腕に二宮清純がインタビューした。
 星野監督、激怒の理由

二宮: 今季は最初の登板で、いきなりソフトバンク相手に4安打完封。昨季から、さらにスケールアップした印象を受けました。
塩見: この日は調子自体も良くて、腕もよく振れていました。今年は行けるぞという気持ちになりましたね。

二宮: ところが一転、4月18日の千葉ロッテ戦ではプロ入り最短の3回途中でKO。星野仙一監督に随分、叱られたそうですね。
塩見: 試合途中で「考えて野球をやれ」とかいろいろ注意を受けたんですが、その後、今江選手にスライダーをホームランされてしまいました……。

二宮: 星野監督、怖かったでしょう(笑)。
塩見: 怖かったです。これまでも監督に怒られたことは何回かあるんですけど、試合中は初めてでした。調子自体はそんなに悪くなかったんですけど、バッターに対する攻めの気持ちが全然なかった。ランナーばかり気にしてバッターと勝負をしていない感じでした。

二宮: 精神的な部分で課題が出たと?
塩見: はい。いいところを狙わないといけないと意識しすぎて、ボール先行でフォアボールになったり、ボールを置きにいってしまいました。

二宮: そこを監督に注意されたわけですね。ただ、それだけ叱られるというのは期待の裏返しでしょう。当然、塩見投手も昨年以上の成績を目指していると思いますが、具体的な今季の目標は?
塩見: 15勝に設定しています。高い目標かもしれませんが、それくらい勝ってチームに貢献したいです。

 生命線はクロスファイア

二宮: 今季のキャンプでは、さらなる進化を求めてスクリューに磨きをかけたそうですね。
塩見: そのつもりだったんですけど、スクリューを投げすぎて、ストレートのキレが悪くなりました。だから、オープン戦でキッパリ投げるのをやめました。まだ、自分はスクリューを投げるのは早いかなと。

二宮: 似たような話はロッテの成瀬善久投手もしていましたね。シュート系のボールを投げると、ストレートの質が悪くなったと。新しいボールを覚えたからといって、プラスになるとは限らないんですね。 
塩見: 僕の場合、スクリューを投げることで、ヒジが下がり気味になってしまう。それでストレートのキレも落ちてしまったんだと思います。

二宮: スクリューを覚えようと思った理由は?
塩見: 右打者にとっては外へ逃げるボールだし、左バッターからすればヒザ元に落ちるボールなので、両方に使えるかなと。だけど、ストレートが悪くなっては意味がないので、これまで通りでやっていこうと考えています。

二宮: そのストレートに関しては、「強いボールを投げる」ことをテーマにしているとか。
塩見: キレのある重い球。これを意識してきました。そのためにはしっかり下半身を使って、きれいなフォームで投げないといけません。この点は、まだまだなので、今後も追求していきたいと考えています。

二宮: 佐藤義則コーチからはどんなアドバイスを?
塩見: 下半身でしっかり粘ることと、ヒジの使い方を言われます。「もっとヒジをうまく使って、前でリリースするように」と。

二宮: ピッチャーの生命線となるボールは、江夏豊さんは「アウトロー」だと言っています。塩見投手は?
塩見: もちろん、右バッターのアウトローは大事なボールです。ここのコントロールは絶対必要になる。ただ、僕の一番の持ち味は右バッターのヒザ元へのクロスファイア。インコースを強気で突いていく部分はこだわりたいと思っています。

(第2回へつづく)

塩見貴洋(しおみ・たかひろ)プロフィール>
1988年9月6日、大阪府生まれ。中学時代までは主に外野手だったが、兄を追って進学した帝京第五高で投手に。3年夏にはベスト8入り。八戸大に進学後はケガに悩まされたが、4年春には北東北大学リーグ新記録となる防御率0.00を記録。秋の明治神宮大会の代表決定戦では東北福祉大相手にノーヒットノーランを達成する。その年のドラフト会議で東北楽天と東京ヤクルトから1位指名を受け、抽選の結果、楽天が交渉権を得て入団。1年目の昨季は5月に初勝利をあげると、先発ローテーションに定着し、4度の完投を含む9勝(9敗)をあげた。新人王こそならなかったが、優秀新人賞を獲得。182センチ、77キロ。左投左打。背番号11。



(構成:石田洋之)
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