二宮: 大学3年からは、ようやく腰の痛みが癒え、八戸大の中心投手として活躍します。4年春にはなんとリーグ戦の防御率が0.00。秋の明治神宮大会の東北地区代表決定戦では東北福祉大を相手にノーヒットノーランを達成しました。
塩見: これは自信になりました。ドラフト会議の4日までだったので、いいアピールになると感じましたし、何より勝って神宮大会出場が決まったことで、まだチームで野球が続けられることがうれしかったです。
 悔しかった“ハズレ1位”

二宮: その頃は“みちのくのドクターK”と呼ばれ、上位指名が有力視されていました。実際、何球団くらいから話があったのですか?
塩見: そういった情報は監督から一切聞いていなかったので、どのくらいの球団から誘いがあったのかは分かりません。ただ、新聞ではヤクルトが“ハズレ1位”で指名という話題が出ていたので、ヤクルトに決まるのかなと思っていました。

二宮: 八戸大の藤木豊監督からは「1位を目指せ!」とハッパをかけられていたとか。
塩見: はい。「何位でもいい」と言ったら、監督に怒られました。それからは「1位を狙うんだ」と思い続けて練習や試合に臨んでいました。

二宮: 運命のドラフト会議、塩見投手を1位指名したのは、東北楽天とヤクルトでした。抽選の結果、星野仙一監督が当たりクジを引きましたね。その時の心境は?
塩見: 1位指名が目標でしたから、その点は正直にうれしかったです。球団はどこでもいいと思っていたので、特に気になりませんでした。ただ心の中には、悔しさもありましたね。

二宮: それはハズレ1位だった点が引っかかったと(楽天は大石達也(早大−埼玉西武)、ヤクルトは斎藤佑樹(早大−北海道日本ハム)を抽選で逃しての指名)?
塩見: そうです。本当に悔しかったですよ。4日前にノーヒットノーランをやって実績も上げたのに、どこからも最初には指名してもらえなかった。結果を出したので、どこかの球団が指名を変更してくれないかと期待していたのですが……。外れではなく正真正銘の1位で行きたかったという思いは正直言ってありました。

 プロのバッターのすごさ

二宮: でも結果的に塩見投手はいい球団に入ったのではないでしょうか。楽天には同級生で、昨季は沢村賞を獲得した田中将大投手がいます。同い年の存在は大いに刺激になるのでは?
塩見: でも最初に入った時、彼とは次元が違うなと感じましたね。ストレートもいい球を投げるし、変化球もいい。ランナーを背負ってピンチになって粘れるところもすごいなと感じました。

二宮: 同級生でも学ぶところが少なくないと?
塩見: うーん、どうでしょうか。参考にはなるんですけどマネはできない。だから僕は僕なりのスタイルでやらないといけないと感じています。

二宮: 他球団を見渡しても、同じドラフトで1位指名を受けた大石、斎藤、福井優也(広島)に、前田健太(広島)、坂本勇人(巨人)と、この年代はいい選手が多い。昨季、塩見投手は斎藤投手との投げ合いに勝利(7月11日)していますね。やはり同級生との対決は意識しますか?
塩見: 多少は意識しますけど、逆に意識し過ぎてもよくないと思っています。まずは自分のピッチングをすることが第一です。

二宮: プロに入りたての選手からは「レベルの違いに驚いた」という声をよく耳にします。塩見投手の場合は?
塩見: 最初は苦労しましたね。プロのバッターは簡単に三振や凡打をしてくれない。厳しいところに投げてもファウルでカットされるし、なかなか空振りもしないので……。

二宮: 被本塁打もリーグワースト2位の14本と“プロの洗礼”を浴びました。
塩見: アマチュア時代はそれほどホームランを打たれた記憶がないので、改めてプロの凄さを感じました。甘いボールは確実にやられる。力不足を痛感させられましたね。

二宮: 昨季からNPBでは低反発の統一球に変更になりました。各球団のピッチャーの話を総合すると、「皮がすべりやすく縫い目が高い」と。塩見投手の感触は?
塩見: 大学時代に使っていたボールより、ツルツルしていて最初は滑りましたね。縫い目が高くてスライダーとかは変化しやすいそうなんですけど、もともとスライダーに自信がないのでボールがプラスになった面はあまりなかったです。

二宮: それでも1年目から9勝(9敗)を記録したのですから、大きな自信になったでしょう。
塩見: 勝ち星もそうですが、1年間、ローテーションを守れたことが大きかったです。プロで何とかやっていける手応えがつかめました。

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(最終回へつづく)

塩見貴洋(しおみ・たかひろ)プロフィール>
1988年9月6日、大阪府生まれ。中学時代までは主に外野手だったが、兄を追って進学した帝京第五高で投手に。3年夏にはベスト8入り。八戸大に進学後はケガに悩まされたが、4年春には北東北大学リーグ新記録となる防御率0.00を記録。秋の明治神宮大会の代表決定戦では東北福祉大相手にノーヒットノーランを達成する。その年のドラフト会議で東北楽天と東京ヤクルトから1位指名を受け、抽選の結果、楽天が交渉権を得て入団。1年目の昨季は5月に初勝利をあげると、先発ローテーションに定着し、4度の完投を含む9勝(9敗)をあげた。新人王こそならなかったが、優秀新人賞を獲得。182センチ、77キロ。左投左打。背番号11。



(構成:石田洋之)
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