怒りの大きさは期待の裏返しだろう。
 東北楽天・星野仙一監督の怒声がベンチで響き渡ったのは4月18日。QVCマリンフィールドでの千葉ロッテ戦、2回が終わった場面だ。

「球が高い!」
「もっと考えて野球をやれ!」
 顔面蒼白の塩見貴洋は、その場に茫然と立ち尽くしていた。
 結局、このゲーム、塩見は3回途中でKO。負け投手になった。

 闘将のカミナリを、塩見はどう受け止めたのか。
「怖かったです。これまでも監督に怒られたことは何度かあるんですが、バッターに対する攻めの気持ちが全然なかった。ランナーばかり気にしてバッターと勝負をしていない感じでした。
 期待の裏返し? そう言ってもらえればうれしいです。今季は15勝を目標に設定しています。高い目標かもしれませんが、それくらい勝ってチームに貢献したい」

 このカミナリが効いたのか、それ以降、塩見は好投をみせている。防御率こそ3.06とピリッとしないが7試合に登板し4勝3敗(5月18日現在)。エースの田中将大が腰痛で戦線を離脱した今、楽天にあっては先発ローテーションの軸である。
 昨季、八戸大からドラフト1位で楽天に入団した。1位と言っても大石達也(早大−埼玉西武)のハズレ1位。これには本人も悔しさを感じていたようだ。

 若きサウスポーの最大の持ち味は右打者のヒザ元へのストレート。182センチの長身からクロスファイア気味に投げ込む。「(右打者の)インコースを強気に突いていく部分にはずっとこだわりたい」と語気を強める。
 昨季は同期入団の斎藤佑樹(北海道日本ハム)を上回る9勝をあげ、岩隈久志(マリナーズ)の移籍で楽天では田中に次ぐ2番手の地位を確保した。それだけに今季は真価が問われる。

 周知のように昨季、低反発の統一球が導入されてからというもの、華々しい打撃戦は影を潜めた。逆に言えば、それだけ1点が大きな意味を持つようになってきた。
 交流戦前の楽天の成績は17勝16敗2分。うち1点差での勝利が10回と半数以上を占める。今後もクロスゲームを確実にモノにしていくことがクライマックスシリーズ進出の前提条件となる。

 これについて、塩見はどう考えているのか。
「一番気をつけているのは先制点を取られないこと。これを取られると敵に流れが行ってしまいますから」
 今季2勝目をあげた4月24日のオリックス戦では8回を無失点に封じた。試合後、「先発の柱」という報道陣の物言いに闘将は、「柱と言うにはまだ早い」と釘を刺した。もっと上を目指せということなのだろう。

「監督の期待に応えなきゃならないという思いとプレッシャーと、その両方があります」
 初々しい口ぶりで23歳は言った。

<この原稿は2012年6月3日号『サンデー毎日』に掲載されたものです>

◎バックナンバーはこちらから