先週末のこと。ロンドンはピカデリー・サーカスあたりを歩いていると、見たことのない、しかし明らかにサッカーのものと思われるユニホームを着た集団に出くわした。柄は水色と白の縦縞。胸にスポンサーのロゴは入っているものの、これまた見たことのないタイプのもの。いったい、彼らは何者なの。何より、極東からやってきた旅行者の目にもわかるぐらいに“おのぼりさん”な彼らは、なんのためにロンドンの目抜き通りに集っているのか。
 プレーオフのため、だった。
 欧州CLの決勝がミュンヘンで行われた当日、イングランドではチャンピオンシップ(2部)からプレミアへの昇格を決めるプレーオフ決勝が行われていた。その翌週は3部から2部への昇格を決めるプレーオフ決勝の日。青と白の縦縞に身を包んだ“おのぼりさん”たちの集団は、ヨークシャー地方から乗り込んできたハダーズフィールド・タウンFCというチームのサポーターたちだったのである。

 プレーオフの決勝は、どんなカテゴリーのものであっても、ウェンブリーで行われる。かつて名将ビル・シャンクリーが指揮をとったことも、“金髪の悪魔”の異名をとったデニス・ローが1シーズンだけプレーしたこともあるハダーズフィールドだが、基本的には地方の無名チームである。“聖地”ウェンブリーで戦った経験などあるはずもない。選手にとってはもちろんのこと、ファンにとっても一世一代の大舞台。老いも若きも、男も女も、ゆえに大挙してロンドンまでやってきたのだった。

 決勝で彼らが戦う相手は、プレミアを戦ったこともある名門シェフィールド・ユナイテッド。こちらもヨークシャーから大挙してサポーターが乗り込んできており、ロンドンとは無関係な2チームの対決だったにもかかわらず、ウェンブリーはほぼ8分の入りとなった。日本でいうならばJFLの上位対決で国立競技場が埋まったようなものだろう。

 試合のレベルは、決して高いものではなかった。しかし、ゴールライン上でのクリアなど、凄まじい集中力なくしては起こりえないシーンが続出した試合でもあった。両チームのファンを幾度となくのけぞらせながら、試合はスコアレスのPK戦へ――。

 初のチャンピオンシップ昇格をかけたPKに硬くなったハダーズフィールドの選手たちは、いきなり3人連続して失敗。早くも泣き崩れるファン。だが……。
 今年の秋には日本でもプレーオフが実施される。初の試みだが、これは間違いなく面白い。そう確信させてくれたロンドンのプレーオフでもあった。ともあれ、おめでとう、ハダーズフィールド!

<この原稿は12年5月31日付『スポーツニッポン』に掲載されています>
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